幼馴染はやっぱり口下手だった。






「如月さん? ――貴方が、龍馬くんに酷い仕打ちをしたのはしってるのよ!」

「少しは弁明したらどうなのかしら?」

「この、冷血女!!」

「………………」



 高校での昼休みの時間。

 このはは、他の女子に呼び出されて体育館裏にやってきていた。

 その理由というのも、彼女が龍馬にイジメ紛いの行いをしていた、という誤解が広まったため。顔立ちは悪くない龍馬なので、それなりに囲いの女子がいるのだった。


 そんなわけで、三対一の状況を作られてしまったこのは。

 彼女はこう思っていた。



「(ふえぇ、和真ぁ。助けてぇ……)」



 真顔のまま、硬直して。

 しかし同時に彼女は思うのだった。



「(う、ううん。なんとかして、誤解を解かないと!)」



 そう考えて。



「あ、あ――」



 その、凛々しい顔立ちから放たれたのは。



「――貴方たちには、関係なくない?」



 威圧感たっぷりの言葉だった。

 如月このは。彼女は、根っからの口下手である。





「かずまぁ……」

「んー、今日は一段と甘えてくるなぁ」


 俺が野球ゲームをしていると、このはが後ろから抱きついてきた。

 先日、手を握ってきた一件から甘えるのは上手になってきた彼女である。だが、今日はそれに輪をかけてベタベタに甘えてきていた。

 俺の背中に顔をこすり付けて、匂いをかいでいるのだが。

 それは、彼女にとって心地よい行為なのだろうか?


「もしかして、学校でなにかあったのか?」

「うん……。ちょっと」


 ふしゅー、と息をついて。

 このはは顔を上げた。


「どうして、わたしは上手く話せないのかなぁ」


 そして、寂し気な声で言うのだ。

 これは中々のことが、学校で起きたに違いない。

 そう思って俺はゲームを中断し、彼女に向き合うのだった。


「そうだなぁ。でも、お前にはもっと良いところがたくさんあるぞ?」

「ふえ、良いところ?」


 俺の言葉に、小首を傾げるこのは。


「まず一つ目、とても美人さんだ」

「うぅ、でも――」

「二つ目、とても優しいこと」

「あの――」

「三つ目は、困っている人を率先して助けられること」

「あうぅ、ちょっと待って……」


 矢継ぎ早に、厳選した彼女の良いところ百個を告げようとした。

 だが、途中でこのはは顔を真っ赤にしてうつむいてしまう。俺の服の袖を掴んで、本当にやめてほしい、という意思表示をしてみせる。

 そうなると、俺もこれ以上は言えなかった。


「……ねぇ、和真?」

「どうした?」


 それを残念に感じていると、上目遣いに彼女がそう言う。

 どうしたのかと、静かに待っているが。しかし――。



「やっぱり、なんでもない……!」



 耳まで真っ赤になって、黙りこくってしまった。

 そして、俺の胸にぽふん、と。頭を乗せるように置くのだった。



「そっか……。分かったよ」





 俺は微笑みながら、ご要望通りに彼女の頭を撫でる。

 やっぱり、俺の幼馴染は口下手だった。



 

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