029話 目がキラキラしてる


「敵少ないね」


「あれだけ倒したのだから、逆に少なくないと困るが……」


 コンサートホール(跡地)にたどり着いたけど、ここまでに出てきた敵は三倍速で襲ってくる看守ぐらい。


 あんまりキモい敵がいないのはいいことなんだけどね! 経験値的に美味しくないのはちょっとなぁ。

 あ、でも三倍速ぐらいで動く看守がキモくないわけじゃない。


「いやーしかし悲惨な現場だね!」


「派手に戦ったからな。大体が天使のせいだが」


 うん、悲惨!


 左手奥側の地面と、左側の壁が抜け落ちたみたいになくなってる。だいたい天使のせい。あの天使面倒くさかったなぁ。オウカちゃんとコガラシが何とかしてくれたからいいけど、私はどうやって倒すかな?


 簡単に思いつくのはやっぱりバインドだよね! 動きを封じて、さっき作った確殺威力の魔法でドカン!


 やっぱり急所を狙わないとね。誘導弾だと『当たればいい』みたいな感じの挙動するから、相当な威力がないと倒しきれない。ちょっと面倒くさいね。


「……ステージに碑石があるぞ」


「え? ……ホントだ!」


 わーい! 新しいシナジー作れるぞ!

 一応周囲の警戒をしながら碑石に近づく。


「もらっちゃっていい?」


「いいぞ」


「いえーい! ありがとう!」


 さっき散々上手いシナジー作れないって話したとこだしね。ありがたくもらっておこうかな!

 まあこれが『魂珠の碑石』である保証はないんだけどね。

 さてどうかな?


《アンロック:アニマシステム 2/10》


 ビンゴ! いいね。


「やったな」


「うん! ……あれ? 残ってる」


 いつもだったら、解放して役目が終わった碑石はふわーって消えて行くはず。なのに今回のはそのまま残ってる。

 再利用可能? もっかい触ってみたけど何も起きない。


「アキカゼ触ってみてよ」


「……解放できた。消えないな」


 なんでだろう? ……うーん?


「と言うかさ、そもそも戦ってる最中にこんな所にあったっけ?」


「いや……覚えていないな。だが最初からあったようには感じなかった。始め、ステージには心臓頭がいたはず」


「うんうん。それは覚えてる」


「何度か矢を射掛けたが……その時にはなかったと思う」


 と、すれば……。


「心臓頭を倒したご褒美に出てきた感じかな?」


「可能性としてはありえるな。副目標の一つが進行する、キーになるモンスターだ。碑石が出現するのもおかしくはないか」


「確証はないけど、確かにそんな気がするね! だとすると消えないのは、討伐に参加した人全員が開放できるように、ってことかな?」


「かもしれないな。……あの二人は遥か下だが」


「うわーもったいない!」


 VRセットのメッセージ機能とかで伝えた方がいいかな? 伝えることができてもここまで戻ってこれる? っていう問題があるけどね。一応後で一報入れよう。


 まあこれがどういう仕様なのかは正直わかんないや。アキカゼに掲示板に上げてもらおう。


「情報提供よろしく!」


「祭壇に戻ってからな。……言っていなかったかもしれないが、掲示板は祭壇の付近でなければ書き込みどころか閲覧もできない」


「え? そうなの?」


 絶妙に面倒くさい仕様だなぁ。 


「それで、どうする? 戻ってアニマを確認するか?」


「んー、次の祭壇見つけてからでいいかな」


「了解した」


 今は探索の気分だしね!


「なら、ここからどこへ行く?」


「うーん。個人的には上を目指したいなって。下に落ちちゃったオウカちゃんとコガラシの二人と合流するのはもっと難しくなりそうだけど。上がるより下るほうが簡単だし、余裕のある時に登った方がいいと思うんだけど」


「なるほどその通りだ。上を目指そう」


 下も行ったことはないんだけどね。さっき言った通り、下るほうが簡単。だからわたしは、どんなゲームでも探索は上からする。


 そういうスタイルなもんだから塔を登っていく形のダンジョンはそんなに好きじゃない。上から敵がボロボロ落ちてくることあるし。


 ……でも何か敵が少ない。集まってきた囚人の群れに轢き殺されちゃったのかな? フレンドリーファイアーもちゃんとあるしね、このゲーム。


 出てきても数匹でしか来ないから、アキカゼが矢を撃ち込むか、わたしが適当に魔法撃つだけで終わっちゃう。

 囚人の津波がやばすぎただけなんだけどね。ギャップが大きいなぁ。


「そういえばさ、アキカゼのビルド聞いてなかったね」


「やれることがあまり増えていないからな。ほぼ前のままグレードを上げただけだ」


「えーと、何だっけ?」


「《隠密》や《致命》などを使った暗殺者ビルドだ。《生命感知》のグレードも上げている。……左から一匹」


 何かと思ったら囚人じゃん。


「はいはい。“マジックバレット“と。弱いなぁ」


 爆発弾を使うまでもないね! ただの魔力弾で十分十分。レベル上がったおかげでかなり消費MP抑えたスペルでも実用できる威力になった。嬉しいね。


「蛙は元からあまり強くなかったがな。だが状態異常を入れるとそれに反応して周りに同じ状態異常を撒き始めるらしい」


「あ、何か掲示板で言われてたってやつ蛙のことだったの?」


「そうだ」


「へぇー。コガラシメタじゃん。遭遇したらどうするんだろう。あ、でも撒かれる前にやっつければいいのか」


 コガラシは多分そのぐらいはできそうだしなー。

 確か、前にリアルで武術やってるみたいなこと言ってたし。オウカちゃんもだったはず。あの二人のプレイヤースキルはそこから来てるのが大きいのかな? どう考えても武術関係ない部分もあったりするけど。


「目玉剣士が三匹」


「お、ちょっと強めだね」


 背後にワープしてくるとかいう、その辺の敵が持ってちゃダメな能力持ちの剣士だ。

 目玉とワープの因果関係が全くわかんないけど、なんかワープするものはする。


「……ねぇ。目玉剣士ってさ、背中合わせにしてたらどこに転移するのかな?」


「試すか?」


 というわけでアキカゼと背中をくっつける。

 は、羽が邪魔……。根本があるせいで絶妙にくっつかない。まあいいやこれで。


「その蠍の尻尾には毒があったりするのか?」


「え、どうなんだろう……。試したことないや。キャラクリ画面ではそんなの出てこなかったし」


「そうか」


 実際どうなんだろう? いつも適当にフラフラ動かしてるけど、せっかく生やしたんだし、上手いこと利用できればいいな。


「よし、じゃ行くよ。“バーニングバレット”」


 ボッと火球が飛んでいく。


 目玉剣士たちはそれを軽く避け、そのまま向かってくる。

 うん。避けるよね。弾速も速いわけじゃないし、避けられて当然。


 でもこれ、着弾しなくても爆発するんだ。

 ドガァン、と広がる爆炎。


 体の各所を煤けさせ出てきた目玉剣士に向け、魔法を撃つ!


「“スナイプ”」


 シンプルなスペル名通り、効果もシンプル。


 ただ威力と弾速を高めただけの魔法弾。

 でも拳銃並の威力はあるよ。弱点の目玉に当たったら一撃だね。


 しかし目玉剣士は、スナイプ弾が当たる直前にワープ。

 私の背後は埋まってる。


 だとしたら……側面!


 やっぱり。剣を振り上げた目玉剣士が、少し間を置いてわたしたちを取り囲むように現れる。

 だけど、アキカゼが控えてる時点でもうおしまい。


 ワープした一瞬の後、アキカゼが放った矢が目玉を貫いた。


 続けて二発。


 残りの目玉剣士も目を撃ち抜かれ、ぐしゃっと崩れ落ちる。


「ナイス~」


「誘導ご苦労さま。やりやすかったぞ」


「ふふーん」


 まあこんなもんだよね! もうレベル30超えたし、その辺の雑魚はどうにでもなりそう。

 でもまた心臓頭みたいに、発狂させたり強化させたりする敵出てくるんだろうなぁ。


「……剣がドロップしたな」


「でも使わないよね。オウカちゃんがもしかしたら? ってぐらい」


「だがオウカの好みはもっと巨大な武器だろう? これは置いておいていいと思うが」


「そうだね。わたしもそう思うかな。適当に立て掛けておこう。見つけた誰かさんが使うかもしれないし!」


 というわけでドロップ品の長剣はその辺に置いておいて、進む。

 またしばらく行くと、これまでにない場所に出た。


「おお……図書館だぁ」


 壁一面に本棚。大きな空間の二階部分にも、壁にびっしりと本が並んでいた。真ん中の方には読書用の長机。それを取り囲むようにしてさらに本棚。


 ちゃんとした意味のある部屋って初めてかもしれない。今までどことも知れない通路だけだったし。


「おお……」


「目がキラキラしてる」


 アキカゼにとったらここは宝石箱みたいなものかもね!


 でもこれ読めるのかな?

 とか思ってると、祭壇発見。やった! ど真ん中にちょんっと置いてあった。 


 よーし。増えたアニマに目を通そうかな。

 装備アニマ変えるかはそれから考えよう。

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