026話 セーブポイント破壊は流石におかしいだろ


 しばらく進んでいると、道を遮るように看守が出てきた。俺たちの姿を見るやいなや叫び声を上げ、通常の動きを5倍速ぐらいにした気持ち悪い挙動で襲ってくる。


 だけどオウカがまず食い終わった骨をぶん投げ、見事に顔に命中。

 そのあと叩き潰されて死んだ。


 何と言うか……。ご愁傷さま。


 この看守、発狂のトリガー何なんだろう。心臓頭仕留めた後に遭遇したやつもそうだったけど、唐突に倍速になるのキモいからやめてほしい。


 そのあとしばらく進んだ。道中俺が『魔武の碑石』を一つ開放。欲しいのはアニマなんだけどな。あと『戦友の碑石』一個も見つけてないぞ。


 ……ここ、構造がランダムっぽいからまさかと思ってたけど、碑石もランダム配置じゃないだろうな。

 マジでやめてほしい。


 と、広めの通路の先に、ひときわ大きな何かがいた。


「……全身甲冑だ。珍しいな」


「防具着てるのは初めて」


「お、よく見たらケンタウロスみたいになってんのな」


 全身甲冑のそいつは、馬の下半身に人の上半身を持っていた。ご丁寧に下半身までフルプレートだ。あれ中身入ってんのかな? ああいう形の動く鎧リビングメイル的な感じかもしれない。


 しかしでかいな。三つ首天使と同じぐらい。俺らの背丈の三倍はある。三つ首天使は槍を持ってたけど、こっちはさっきオウカが選んでたみたいなバカでかい剣持ちだ。サイズ比が同じってだけで、オウカが選んでた奴よりもさらにデカイけどな。


「挑む?」


 どう見てもヤバいけど。


「行く」


 短く意思を確認し、武器を構える俺たち。

 だけどその確認は必要なかった。向こうさんもやる気だ。


『グオオオオオオオ!!』


 ん? その兜の穴、外を見るためじゃなくて口になってんのか!? 確実に伸びたぞ!?

 あーもう。ちょっとカッコいいかなって思ったらコレだよ。


 馬が嘶くように体を持ち上げ吠えたそいつ……騎兵って呼ぶか。騎兵はズシンと音を立てて地面を踏みしめ、臨戦態勢を取った。


「よし、来……」


 言いかけたと同時、騎兵は放たれた大砲みたいな勢いで突っ込んできた。


 ッ!? 速ッ……!!

 避けられねぇ!


 せめてガードを……!


 何がなんだか分からなかった。

 気づいたらぶっ飛ばされ、遅れて痛みがやって来る。


「あぐっ……」


「オウカ!」


 側にはオウカも転がっていた。なんとか立ち上がり、奴を睨む。

 騎兵は巨大な剣を振り抜いた体勢で止まっていた。


 クソ、どうやってやられた!?

 通路の幅的に、あんな巨大な剣を自由に振れるわけがねぇ。


 いや待て。なんであそこの壁が壊れてる?


 ……いやいや。おいおいおいおい!

 あいつ、壁ごと俺らをぶっ飛ばしたのか!?


 木製ならまだしも、石壁じゃねぇか! どんだけ力あるんだよ!!


「やばいぞ。コイツ、多分『扉の魔物』だろ!!」


 強さが突出してやがる!

 三つ首天使も確かに強かったけど、追いつけない速さじゃなかったし、力も非常識なほどあるわけじゃなかった。


 だけどコイツはヤバい。バカでかい剣を持ってるくせに、それの振りが見えなかった!


 心臓頭と同クラスと仮定して、あっちは軍隊型。こっちはそのパラメータ割り振りを一個体のみに集約した特化型だろ。


 心臓頭ですらギリギリだったのによぉ!


「来るぞ!」


 攻撃が見えねぇんなら、腕や体の動きで判断しろ!


 ググ、と力をため、その後爆発するような勢いで突っ込んでくる騎兵。

 振り下ろしだ!


 体を捻る。

 天井と床に、一文字に巨大な破砕痕が残される。


 こ、これは死ぬ。


 マトモに食らったら即死する。


 だが避けたぞ!

 反撃を……いやダメだ!


 這いつくばるようにしゃがむ。


 間一髪、角を特大剣が掠めていく。


 直線移動だけが速いとか、そんなレベルじゃないぞコイツ!!

 反応速度も相当だ!


「《致命毒撃》!」


 何とか反撃を捩じ込……硬てぇ!

 そりゃそうだ全身甲冑だもんな!


 ただ毒濃縮しただけの一撃じゃダメか!?

 ……いや、何かこれ金属っぽくない。どっちかっていうと、生物的な甲殻に見える。


 ああもう余計なことを考えるな! 考察は後だ! どっちでも刃が通らねぇんだから変わんねぇだろが!

 甲冑の隙間に何とか攻撃を入れるしかねぇ!


「ダメ! 全く攻撃が効かない!」


「お前でもダメか! ……なら俺が囮をやる! その間にスペルで殴れ!」


「わかった!」


 さぁこっちだ騎兵!

 わざと騎兵の眼前に躍り出る。


 腕を見ろ。焦るな!


 ……突きだ!


 何とか転がって避ける。騎兵は地面に深々と突き刺さった剣を、膂力だけで思い切り引っこ抜いた。1メートルは刺さってたのに! 


 だが隙だらけだ!


「“リベンジストライク”!!」


 オウカが背後から、新調したウォーハンマーで全力で殴りつける。


 金属をぶっ叩く音がし……。


 騎兵は少しだけ上半身を屈めさせた。

 だがそれだけ。


「んなっ……」


 驚くオウカ。


 馬の下半身は微動だにしない。

 オウカのスペルであれかよ!? 防御力どうなってんだ?


 それか何かギミックでもあんのか!?

 ……相当だぞコイツ!


 騎兵は剣を持っていない左腕を後ろに回す。

 そしてオウカの脚を掴んで思いっきりぶん投げた。


「オウカ!!」


 慌てて飛び上がり、オウカを受け止める。


「うっ! ……助かった」


 勢いを殺しきれず、俺もザザ、と後に下がることになった。

 クソ、まずい。 


 どうする?


 俺に抱えられながらHPを急いで確認していたオウカ。

 そのウィンドウが目に入る。


================

 HP      :3903/14892

================


 最初の一撃でこれだけ食らってる。


 逆説、リベンジウィングもそれだけ溜まってるはずだ。

 それで、『微動だにしない?』ふざけんなよ!


「逃げるぞ!」


「わかった!」


 なるべく狭く、入り組んでる通路を選んで逃げる。

 ちったあ足止めになるだろ!


「《毒霧》!」


 巨大な剣で、壁や天井を掘り進めながら追ってくる騎兵。

 その顔面に毒をぶち込む!


「ダメ! 効いてない!」


「やっぱ異常耐性もあるよな……!」


 騎兵は毒を思い切り浴びても、全く動きが鈍らなかった。

 この分だと《致命毒撃》でも毒が入るか怪しいぞ……!


「……逃げ切れると思う?」


「……正直、厳しいな」


 発狂囚人とはわけが違う。

 地形を利用しての足止めぐらいしかできねぇし、クソ速い、クソ強い、クソ硬いの三拍子揃ったふざけた敵だ。それ揃えちゃダメだろ。やるとしても終盤だろ。今出すなや。


 コイツからどうにか逃げ切ろうと思ったなら、俺はもう正直渓谷にかかってる橋を渡って、コイツを落とすぐらいしか思いつかねぇ。やることは囚人の時と変わんねぇけど、直線通路で騎兵を振り切って橋を落とせるかと聞かれたら無理だ。


 今でさえ、狭い通路を破壊しながら追ってきてるのに、普通に追いつかれそうだ。


「遠距離なら爆炎があるけど」


「さっきのやつだな。だがダメだ。アイツの手伝いするだけだぞ」


「それもそう。……ヤバい! 回避!」


 騎兵が狭い通路から出てくる。


 直線上をとんでもない勢いで突進してきた。

 オウカの声に、咄嗟に空いていた牢の中に退避。


 余波に巻き込まれた壁は破壊されたり、めくれ上がったり悲惨なことになっている。


 クソ、どうしようもねぇ!

 オウカと顔を見合わせる。


 これは死ぬな。


 ならほんの少しでも情報を引き出す。

 そして次に繋げる!


「鎧兜の隙間を狙う! 爆炎で煙幕頼む!」


「《爆炎》!」


 返事代わりの火球が通路奥の騎兵に着弾。


 爆発の範囲が広いのはいいな!

 火の中突っ切れば当然ダメージは喰らう。


 だがどうせ死ぬんだ。そんなもん気にする必要はない!


 熱さも無視しろ! 一瞬だ!


「《致命毒撃》!!」


 炎を突き抜けて刀を振るう。狙うのは膝の裏!


 全力で刀を振り抜く。


 ダメージは!? ……薄く切り傷ができた。


 よし! 1ダメージ入ったかも怪しいが、守られてる部分よりは通る!

 これが確認できただけでもでか……げふぁ!


「コガラシ!」


「ぐっ……即死してねぇなら問題ねぇ!」


 クソ、何か見えなかったが……多分蹴られたなこれ!


「次は顔だ! もう一回……いや向こうから来るぞ!」


 言った瞬間、オウカが俺の前に飛び出る。


 お前何を!

 考える間も無く特大剣が俺たちを襲う。


 防御力なんかないに等しいオウカがそれを受け……死なない。

 《忍耐》で受けたのか!


 助かった!


 だが吹き飛ばされたオウカを受け止め、俺も通路の奥まで転がる。

 そして横っ飛び。


 特大剣の薙ぎ払いが地面をえぐる。


「うぅ……! もう次で死ぬ!」


 先読みで何とか躱しながら、死に体のオウカが言う。

 なら!


「最後に顔に入れるのを手伝ってくれ!」


「わかった!」


 《爆炎》で煙幕。

 そして脚を狙ったオウカの一撃。


「“リベンジストライク”!!」


 今なら相当にボーナスが乗ってるはずだ。


 ちょっとでもダメージ通ればいいんだけどな!

 だが甘かった。


 騎兵はひょい、と後ろに飛び退った。

 オウカの全力の一撃が虚しく空振る。


 クソ、自明だ。


 あんだけ動けるんだ。俺らの攻撃ぐらい、見てから避けれるだけの速度がある!

 今までは避けるまでもなかったってか! 畜生が!!


「ぎぁ……」


 特大剣で両断されたオウカがポリゴンになって消える。

 だが引きつけてくれた。


「《致命毒撃》!!」


 兜の隙間、口に毒をお見舞いしてやる!


 体内に直接送り込まれる劇毒だ。さぁ、どうだ!


 まっすぐに突く。

 ガチッ、と聞き慣れない音が響く。


 ……はぁ?


 コイツ、口で止めやがった!?

 歯で刀の腹を挟むのとは違うんだぞ!!


 刀を縦に咥えるんじゃねぇよ!!


 ッ、しかも……!

 ミシッと音がし、次の瞬間、バキッと刀の先端が噛み砕かれた。


 嘘だろオイ。


 そう思った瞬間、横から衝撃。

 『最初の試練』に負けた時みたいに、意識が暗転した。




「……あーーーーー……」


 何なんだよアイツマジで。

 起き上がり見回す。


 祭壇のある牢屋の中だ。

 俺と同じように起き上がるオウカ。


 捻じ曲がった鉄格子。

 その奥の粉砕された壁。


 ……は?


「はぁ!? おい待て! 急げオウカ!」


「? ……ッ!? ここ……!!」


 似たような通路が多いせいで気づかなかった!!


 リスポーン地点のすぐ側で戦ってたのか!!

 なら当然……!


「騎兵だ!!」


「クソッ!!」


 壁を粉々に吹き飛ばしながら騎兵が現れる。


 ヤバいぞ!!

 このままじゃリスキルされ続ける!!


 このゲーム絶対対策されてねぇだろ!! 


 祭壇の周りは無敵でいられるなんてものもない!

 しかも、リスポーン直後はHPだけじゃなくMPも1からだ!!


 この状況でコイツを撒くか、誘導して遠くで死ねってか!?

 ふざけんじゃねぇぞ!! 


 なんとか通路に出る。


 騎兵は!?


 顔を上げた瞬間、騎兵の特大剣が振るわれる。


 そしてそれが、祭壇を粉々にするのが見えた。


 ……。


「はぁーーーーー!!?」


「セーブポイント壊すなッ!!」


 戦闘中はあまり喋らないオウカですら思わず声を上げる。


 ウッソだろマジで?


 そりゃ安易な無敵とか破壊不能オブジェクトとかこのゲームにはないだろうがよ!

 セーブポイント破壊は流石におかしいだろ!?


 騎兵はその勢いのまま、俺たちに向かい剣を振り上げた。

 武器を構え直し戦おうとしたが、それよりも速く、特大剣が俺たちをバラバラにした。




「……ご、ゴミ……」


「……クソゲー……」


 再びリスポーンし、起き上がる気力もなく呟く。

 ……リスポーン地点がどうなるかと思ったけど、分断はされなかったか。助かった。 


「……どうするよ、オウカ」


「……もう寝よう」


「……賛成」


 最後のアレでどっと疲れた。


 オウカの言う通り、もう今日は寝よう。

 現状把握とかも全部明日だ。


 はぁ。

 ログアウトしよ。

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