4話 顔負け


「――今だ、それっ!」


『ムキャッ!?』


 取得したテクニック《跳躍・小》の効果は抜群で、今の僕は簡単にモッピングラビットを一発で仕留めることができていた。


 モンスターの動きに目が慣れてきたのもあるけど、相手が跳ぶタイミングを見計らって、その方向に高く跳び上がりつつ攻撃するだけでいいんだからそりゃ楽だよね……ん? 周りにいる冒険者たちからヒソヒソと会話が聞こえてくる。一体何を喋ってるんだろう?


「な、なんだあいつ。今の見たか?」


「見た見た。すっごいジャンプ力、かっこいい……」


「てか、いくらなんでも人間離れしてね?」


「あれってスキルなのかな、それともテクニックなのかな?」


「知らねーけど、俺もああいう能力欲しかったなあ……」


「……」


 僕の狩り方がよっぽど目立ってたみたいだ。ちょっと照れ臭いけど褒められることなんて今までほとんどなかったし素直に嬉しい。


 さて……結構倒したし素材の毛皮もかなり集まったと思うから、そろそろ【鑑定士】スキルで自分のステータスを確認してみるとしようか。


 名前:カイン

 レベル:7

 年齢:16歳

 種族:人間

 性別:男

 冒険者ランク:F級


 装備:

 短剣

 革の鎧


 スキル:

【削除&復元】

【鑑定士】


 テクニック:

《跳躍・小》


 ダストボックス:

 頭痛2

 疲労3

 兎の毛皮27

 兎の肉27


 うわ……いつの間にかお目当ての毛皮が27個も集まってる。依頼された分の素材を集めるだけなら15個でよかったのに、狩りが楽しい上に心身の疲労も削除できるもんだからついついやりすぎちゃったみたいだ。


 お肉も同じように溜まったし、レベルに至っては7まで上がってホクホクだ。【削除&復元】ってどれだけ集めようが荷物がかさばらないところも凄いんだよね。


 戦闘面でも目覚ましい変化があって、レベルがここまで上がったおかげか短剣を振る際に軽く感じるし、スピードやキレ、威力なんかもかなり増したように思う。息切れするタイミングも以前と比べて明らかに遅くなった。


 しかもサクサク倒せるようになったから楽しいけど、兎だけを狩るのが物足りなくなってきた。そうだ……ちょっとだけ森の様子を見てこようかな? いかにも強そうなモンスターと遭遇しちゃったら《跳躍・小》で逃げればいいんだし……よし、そうしよう!


 そういうわけで、僕は森のほうへとモッピングラビット顔負けの跳躍力を駆使して向かっていった。ヤバッ、移動するにも超便利かも、これ……。


 あっという間に森が迫ってくる。町からは結構な距離があるはずなのに凄いなあ。


「……う、うあ……」


 森はとても分厚くて圧迫感があり、遠くから見るのと近くで見るのじゃ大違いだった。確か森にはゴブリンやオーク、さらにはオーガっていう暗い場所を好む凶悪なモンスターたちが棲んでて、ベテランの冒険者でも一人では絶対入っちゃいけない場所として知られてるんだ。


『鬼哭の森』だったかな、そんな物騒な異名もついてる。森で亡くなった人の泣く声がたまに聞こえてくるんだそうだ。成仏することができないくらい恐ろしい死に方をする場所って意味でつけられたらしい。


「……」


 こうして間近で森を見てるだけでも、得体の知れない不気味さが漂ってきて足が震えるほどだ。『鬼哭の森』にだけは近付くなって上級冒険者から注意勧告されてる意味がよくわかる。


【削除&復元】がとんでもない当たりスキルだとわかってここまで来ちゃったけど、まだ一人で来るような場所じゃありませんでした、調子に乗っちゃってスミマセンって感じだ。


 正直、入口近辺でモンスターとちょっと交戦してみるくらいならできるかも……なんて思ってたけど僕の考えが甘かった。んー、今日は見学だけってことにしてそろそろ帰ろっかな――


「――きゃああぁぁっ!」


「はっ……」


 女の子の悲鳴が聞こえてきた。森の中で誰かがモンスターに襲われてるみたいだ。は、早く助けなきゃ……! でも体が竦んで動かない……って、そうだ。あのスキルを使えばいい。僕は恐怖心を削除し、声がした方向へと無我夢中で跳躍していった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る