第三八話 受け答え


「――こ、これは……」


 俺たちは都内にあるユミルの神殿が迷宮術士にダンジョンの種を植え付けられたという一報を聞き、早速訪れたわけなんだが……その難易度を心敷に置いて確認してみたところ、がわかった。


「ハワード、どうしたですか?」


「ハワードさん、どうしたのー?」


「ハワード様……?」


「とてもじゃないが、俄かには信じられない数値だ。迷宮化したユミルの神殿の難易度が『+256』なんだ……」


「「「えぇっ……!?」」」


 ハスナたちの驚いた声を背中に受けながら、俺はもしかしたら何かの間違いかもしれないと思ってもう一度試してみたものの、難易度の数値は変わらなかった。


 ハスナの心に作られた迷宮の難度が『+107』で、故郷の町が『+138』だから、いかに『+256』という数値がいかに飛び抜けているかがわかる。


 というか、それ以上にこの神殿からはを覚える。ここは今までとは明らかに違う。


 勇者パーティーに対してやり返したいという気持ちはもちろんあるが、迷宮術士が手に負えないレベルになる前に、早くなんとかしなければという気持ちもそれ以上に強くなってきたことは確かだ。


 それと……やつはのように思える。どうだ、攻略してみろと言わんばかりの顔で俺たちを見下ろしているような気がするのだ。


「ハワード、大丈夫ですか?」


「ハワードさん、無理しなくても。ここ、めっちゃ不吉な臭いがするのお……」


「それがしも弱気になるのは大嫌いなのだが、今回ばかりはさすがに厳しいかと……」


「いや、挑戦する」


「「「えっ!?」」」


「一切迷わずに異次元のダンジョンに挑戦すること……それが迷宮術士に対する俺の回答だ。今回勇者パーティーがどういう決断を下すかはわからないが、迷宮術士も含めてに復活した神の手の力を存分に見せつけてやろう……」




 ◆ ◆ ◆




「うわっ、何ここ、超不気味っ……!」


 勇者ランデルの上擦った声が、薄暗い神殿の入り口近辺にこだまする。


「ランデル……子供じゃないんだから、そんなことくらいでいちいち騒がないの」


「こ、子供って……バカにしないでよルシェラ! ガキなのはどう考えたって慎重さも脳みそも全然足りてないクソ無能のハワードのほうだよ……って、本当にあいつもここに来てるのかな?」


「来てるでしょ。私と二人きりで会ったことで見返したいって気持ちもさらに強くなっただろうし……。あいつはそういう男で、それがこっちの狙いだったわけだしね。神の手が完全な状態なら怖いけど、そうでない以上お子様の反抗期みたいなもんだから何も心配しなくていいわ」


「ルシェラ、マジたのもしー!」


「さすがルシェラさんだぜ。俺がハワードの心臓をダンジョンのコアごと貫いてやる……」


 並んで歩きながら談笑するランデルとルシェラの後方で、宙を睨みつけながら舌なめずりするグレック。それを横目で見上げながら、怯えたように指を咥えてみせたのがエルレだった。


「あぁんっ……グレックお兄ちゃんったら、怖いよぉっ」


「へへっ、化け物に食われる前に俺が食べてやろうか? エルレ」


「やーん――」


「――たっ、助けてくださいいぃっ!」


「「「「っ……!?」」」」


 白い布で顔を覆った信徒らしき者が柱の陰から姿を現わし、何度も転びそうになりながら勇者パーティーの元へ駆け寄っていく。


「ど、どうしたどうしたっ?」


「何があったっていうの?」


「騒々しい野郎だな」


「どーしたのぉ?」


「そ、それがっ、勇者パーティー様っ、こ、この神殿が迷宮術士によってダンジョン化してしまいまして、コアを倒さない限り出られなくなってしまいましてっ……!」


「はあ。そんなことくらい僕たちはとっくに知ってるよ……。ねえ、ルシェラ」


「そうよ。何かほかに言うことはないわけ?」


「ねえのか? あ?」


「ないのぉー?」


「え、え……? えっと、このダンジョンは信徒姿の恐ろしいモンスターも湧くので、どうか自分もご一緒させてもらえないかと――がっ……!?」


 グレックが至近距離から放った弓矢が信徒の額付近を貫き、仰向けに倒れた男を中心に見る見る血だまりができていく。


「お前が女で、それも美人だったら助けてやったかもしれねえけどよ。わりいなあ……ってもう聞こえてねえか。へへっ……」


「ププッ……。ナイスアシストッ、グレーック!」


「ふふっ、さすがグレックね。こういう面倒そうなのはモンスターごとどんどん殺していきましょ」


「さんせー! きゃっきゃ」


 勇者パーティーの軽やかな笑い声が神殿内に響き渡った。

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