第8話 八月 十日


また今日ものっぽと中央通りを任された。いつも中央通りを任されている気がする。

何百回目の「お願いしまーす」を言った時、あの可愛い子に会った日の事を思いだす。

「ねえ、今夜暇?」

中年男性に問いかけてみる。変な眼で見られたがティッシュを受け取ってもらった。

この調子でいけば退屈せずにすむかもしれない。

「元気ー?」

「八枚入りだよー」

「受け取りなさい」

「お、父さん、ネクタイ変えた?」

「結婚してくれ」

「ティッシュがいい?クーポンがいい?そ、れ、と、も、俺?」

通り過ぎる人達が少し引きながらも、笑顔でティッシュを貰ってくれるようになった。そして、俺が渡そうとする以前にも、笑いながらティッシュを渡して欲しい仕草で歩いてくるようになった。

俺にはレギュラー客が出来た。

「お前がここでティッシュ配ってるって噂があったから来てみたけど、本当だったんだな」

「お!ゴンザレス。足のケガは治ったのか?」

「九割ってとこかな。俺は二度とマウンテンバイクに乗らないよ」

「そう言うと思ったよ。ティッシュ欲しいか?」

「もちろん」

ゴンザレスが電気自転車を買いに歩き去った。

「のっぽ、俺はもう空だから行くからな」

俺はティッシュの無くなった箱をのっぽに見せつけた。

「お前もう終わったのか?!」

「じゃあな」



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