第37話 謎の転校生C 3

「ところで―――有北さん」


 呼び止められました。

 大きな声ではなかったのですが。

 私の名前をゆぎさんが知っていることは……まあクラスのみんな、名札はつけているので見ればわかることです。

 わかることですが、私はどきりとします。


「最近どうだい?」


 と、はきはきとした口調、さわやかスポーツマン顔で尋ねられます。

 にっこにこです、転校生女子。

 最近どうとは……?えええ、そんなアバウトな。

 

 いや私がそう思っているだけで、これが、このノリが都会人のノーマルなんでしょうか。

 ……たぶん彼女、この田舎町よりは都会のほうから、来たはずです。

 授業中に席を立って音読する番が回ってきたかのような緊張感。


「え、えええ……? 私の最近なんて何の変哲も無くて」


 大したことない。

 あなたみたいな目を引く転校生よりはね、と卑屈モードに入りそうなところでしたが、そこに割り込む飴ちゃんがいました。


「いやいや、そういえばほら、この前町の真ん中で……」


 それで思い出します。

 そういえばこの前、大変な目にあったんだった。

 お休みの日、買い物帰り、黒いバケモノに囲まれて……。

 話すべきネタはありふれている、有り余っていることに気づきました。

 ゆぎさんを前にすると、インパクトにやられてすっかり忘れてしまいました。


「へえ、魔怪獣が……それは大変だったね」


 話を聞き終えた彼女は目をぐぐっと見開き、大きくします。

 それまでは、ずっと細めていたんだなあ。

 なんて気づきます。


 ちなみに魔怪獣の話題はニュースなどで連日の放送。

 もはや日常になりつつあります。

 中学生も部活や友達の話題と同じくらいの頻度で、昨日はどの地域で出たらしい、という話をしています。



 転校生も、嬉しそうに飴ちゃんの話を聞いています。

 魔怪獣につかまり人質みたいな扱いになったシーンから、どうやって助かったかも、大げさに表現する飴ちゃん。

 魔法少女ピュアグラトニーを間近で目撃したのは鮮烈な体験でした。

 大げさに思えて、しかしリアルにあった出来事でした。

 靫さんと見つめ合います。

 あ……、変な話だったでしょうか。



「いやいや、良い体験だ、すごくいい」


 朗らかです。


「魔法少女と、話したの、話せたの……ついこの前、本当に」


「そうかいそうかい、助けてもらえたようでよかったよ」


 笑んだ視線はちらりと、私の背後の方にピントが合いました。

 ……うん?

 ええと、誰を見ているんだろう。


「靫さん……?」


「いやいや、とても良い出会いだ。 もっとも、毎回うまく助かるかっていうと難しいけれど……ホラぁ、戦いだしさ」


縁起でもない。

しかし私は運が良かったことも事実。


「あ、そうだそうだ―――有北さんは『ピュアコンバット』っていう子を知ってるかい?」


「え?」


「いやいや、知らないんなら別にいいんだ。勝手にやるから」


「はぁ」


「……いやなんか、いるらしいよ? ボクもよく知らないけれど、最近いるんだってさ」


 そんなふうに。

 また窓の外に視線を飛ばし、誰に話しかけているんだかわからない声のトーンで、言いました。

 





 ★★★




 銃弾の雨に向かい、ジェーファは駆ける。

 魔怪獣組織内で、ただの四足歩行獣でしかない彼は、回避が原則。

 先ほどから、シュルシュルと巻く風の音が通り過ぎる。

 ピュアコンバットは今回も多数の武器を所持し、―――弾切れの気配はない。

 


 銃口の先だけは避ける、あるいは強靭な体で弾く。

 容易ではない。

それでも魔怪獣ならばいずれかの対応は可能なのだ。




 事実、獣の移動速度に、姿勢の低さにコンバットも対応は追いついていないようだ。

 目標の魔法少女はいま、左右から食らいつこうとする魔怪獣に挟まれている。


全ては避けきれず、遂に一頭が敵の二の腕部分に噛みついた。

もう一方の手のひらも使い、振りほどこうとしている。

 完全に移動は、動きは止めた、いける。

 追いつくべく、今までの回避から方向を切り替える。



 その先に勝利があると信じて。

 奴は、ピュアコンバットは苦戦している、歯を食いしばっている、ように見える。

 四足歩行の者が一頭。

 噛みついたように―――見えた、腕だ!


「俺も……!」


 同志に続いて噛みつき、完全に動きを奪う!

 その狙いのための、初動が止まった。

地面から黒いチリが巻き上がり、音圧が過ぎる。

空気が弾ける音。

 

「なっ……!?」


 何故だ、地面が!?

 炎を纏いながら俺の脇を通り抜けたのは、先ほどまで食らいついていた同志だ―――気絶したか。

 驚きと、正体不明の攻撃から、離れるジェーファ。


 今回、視界は良い―――砂嵐もない。

 だからこそ、どんな攻撃をして……今、吹き飛ばした?

火薬の匂いが強まる。



 だからピュアコンバットが行っおこなたことなのは間違いない、確信している。

奴はにんまりと笑いながら銃口を持ち上げる―――。

気味が悪い。

明確な殺意を持った鋭い目……には見えない。




 ★★★




「狙った……場所を。 爆発させる能力チカラか……?」


 ドルギージスは牙を露わにし、食いしばりつつ思考を続ける。

 しかしならばなぜ最初から使わない?

 制限されているのか―――それに近い何かは、あるはずだ。

 何でも出来るなら既に、奴はピュアグラトニー、ピュアマッドネスのような魔法も使ってくるはず。


「何故だ、ピュアコンバット……!」


 ドルギージスはただ目を細めることしか出来ずにいる。

 出来ずにいるように---見えた。

 黒い猟犬を目にした者からは。



「―――あいつ、あんなところで何をやっている」


 ジェーファは気づく。

 訝しんだ。

 ドルギージスは見ているだけだ。



そもそも今回の出撃任務にはいなかったが……何故。

相変わらず不気味な奴だ。

同志がやられているのに、その牙は飾りかよ。


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