第32話 戦闘 5


 チースオルというヒラメ型の魔怪獣がいた。

 砂浜で足止めを食らっているグリーンの魔法少女―――ピュアコンバットを視認しつつ、旋回している。

 砂浜の表面から数センチだけの深さを潜り、細かい砂を掻きわけつつ、敵の動向を探っている。



「あの魔法少女……手の内は読めてきたわねェ」



 多数の武器を出現させる能力。

 グリーンの魔法少女がやっている何か―――いわば能力を、そう判断した。

 何回も銃を交換している。

 弾切れも防げる、しないというわけか……。



 彼女は砂の中を泳いでいる。

 身体の左半分に両目が存在するという点では、人間界のそれと変わらない。

 砂の舌を見る必要はない―――彼は砂に埋もれつつ、隙を窺っていた。

 本来ならば海底に潜む生物が、魔怪獣に限れば陸上活動でも身体能力は驚異的である。



 少なくとも海辺に近づいた人間を、襲う力はあった。

 狩りには何の不都合もない。なかったはずだ。

 いくつかの障害物はあったが、問題ない―――水をかわしつつ、魔法少女に飛び掛かれる距離にまで迫っていた。

 あとは砂から飛び出して噛みつくだけ―――喰らいつく。

 銃は出させない。


 隊長を抑えようとして両手がふさがっている。

 いくら理外の戦力、魔法少女といえど、不利な状況も不利な体勢もあるはず。



 グリイデ隊長が巨大な宿ヤドで両腕をふさいでいる。

 円錐えんすいに近い形状の宿ヤドならば、奴の弾を弾きそらした。

 蟹とトゥラベク同じ展開にはならずに、衝突している。



 両腕を使っているということは、銃を構えることすらできない。

 接近するなら今だ。

 至近距離!

 銃の死角!

 背中から迫る、俺や、他の魔怪獣を受ける手はない!




 ★★★




 動けないだろう―――!

 グリイデは鋼鉄を想わせる黒いヤドを身に纏っていた。

 それは今、砂浜でグリーンの魔法少女を押しつぶすべく機能している。


 撃たれるのを覚悟であり、実際に奴は撃ってきた。

 一か八かの覚悟で接近した甲斐があった。

 これで俺は動けないが、もともと速さがウリではない。

 お前の攻撃を封じることができれば、そこからのやりようはいくらでもある。

 

 発した言葉は、宿ヤドに反響し、いくらかエコーがかっていた。


「よう、みどりの……! オレがこの隊の隊長ボスだ」


「! ……へえ」


 心なしか、目を輝かせるピュアコンバット。

 と言っても彼女からその隊長とやらの顔は見えない。

 無骨な漆黒の宿ヤドだけである。

 むしろ磨かれたようなその宿ヤドに、自分の顔が映っていた。


「オレがボスだ……そして……!」


 そしてオレを見ろ、背後を忘れろ。




 ★★★




「ええ、両手でこう―――ええ、その黒いカラを抑えてですね」


 間近で目撃した、しかも唯一の成人である警官は、視線を遠くに向けた―――唇を半端に開き、言葉がなかなか出てこない様子だ。


「……思い出しますが、お寺とかにある鐘くらいのサイズというか、とにかくバカげてますよ。どいつも毒々しい色だし巨大なもんだから、寺のカネが突っ込んできた時から、その何秒かってですね―――、鐘が巨大なヤドカリだったんだってわかりました、動きでわかって」


 ―――それも正体は魔怪獣だったというわけですね。


「―――いやいや、それがわかったからと言って、私の何か変わるわけでもなく、魔法少女が抑えているのを見ていることしか、出来なかったわけですけれど

「その時です、背後に飛び出してきたんです、魚のようなものが。平たい―――そう、巨大デカいけど、あれはヒラメのような……砂から飛び出したんです。ヒラメだかカレイだか……いやそれはどちらでもよくて」




 ヒラメのような魔怪獣が飛び出してきた。

 砂埃の中、今ならと、隙を窺っていたんでしょう―――

 ヒラメが身をよじってピュアコンバットにかじりつこうとしました。

 牙を持っている―――!



 ★★★




 そしてオレを見ろ、背後を忘れろ。

 グリイデの目は殺意に燃えていた。

 魔怪獣に立ちふさがる障害、魔法少女に対して仕掛ける攻撃。

 自分でなくてもいい。


 怒涛のように押し寄せる隊の連携攻撃……!

 背後からだ。

 砂埃が舞うなか、しかし手はず通りに遂行する!

 貴様にトドめを刺す!

 群れでの狩りは獣なら珍しくもない。

 お前ら人間は知らんがな。



 オレが仕留めるのが理想だったが、隊員で囲んでいる。

 背後から奴をさせる奴が一頭いればいい話だ。

 どの道、この隊の誰かであろうと、敵を倒せば隊長である俺の名が挙がるというものだ。




 今から倒すのがグラトニーでないことは残念ではあるが、まあいい。

 その二名の関係性は知らないが。

 魔法少女の一味いちみ……かは知らんが、同じものであることに違いない。

 これでオレの評価もうなぎ登りだ。



 厄介な存在を一つ片づけたとあってはレッベルテウスも認めてくれよう、認めざるを得ない。

 あいつはたてがみに白髪が増えかねないほどのストレスマッハ状態を助けてやろうっていうんだ、感謝しろ。

 この魔法少女さえ始末すれば!

 



 ★★★


 ―――そして、接近して?


「いや……なんというか…」


―――戦っていたんですよね、魔法少女と魔怪獣が。何をしたんですか


「ヤドカリが爆発しました。と言っても、もう次々と起こることなので何が何だか。

 全部私たちの目の前でやってましたよ。砂がすごかったので身を低くしていました。痛いですよ、砂だけで。刺さるので。

 その、さらに寺の鐘が突然カチ割れるわけだから、もうガス爆発―――?か、何か。そうじゃないとああはならない、ですね……火花は出ていました

「轟音とともに吹っ飛んで、砕けた宿ヤドが砂にバンバンと突き刺さったからそうだと―――ヤドカリがやられた、とわかるものの

「爆発で、ええ―――破片が直撃した魔怪獣も、いました。ええ、いつの間にか大量に敵が迫っていたんですが、多くの魔怪獣はそれを最後に、見えなくなりました。追い払ったわけですね。



 ―――グリーンの……そのピュアコンバットは?何か言っていましたか?



「ええ? ……ああ~、『ああ、行ってしまう……』だとかなんとか。 呟いていたことはいくつかあったと思うんですが、逃げていったということは倒したあれが隊長ボスだったんだな、嘘じゃなくて』……というようなことは言っていました。


―――爆発についてはなんと?


「『銃が効かないみたいだから』と言っていましたけれど、結局教えてくれませんでした―――なんかほがらかに笑っていましたけれど、やっぱりピュアコンバットがあれをやったのは間違いないです」



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