9 カシム


アブドラが自家用車で迎えに来た。

10分ほどで市内の中程にある小規模な駐屯地に入る。

パーレビ時代のか、古い瀟洒な建物の前の空いている場所に車を停め、大きな入り口から中に入る。

入ってすぐのところにテーブルが在り、受付のようだ。

アブドラがその受付にいる兵士と話をしている。

受付の兵士は電話をかけた。確認が取れたようだ。


すぐに俺達は案内された。二階。

アブドラがノックし、入る。返事は待たないのがこっちの流儀か。

受付の兵士はもう引き返している。


アブドラはペルシア語で説明をしているようだ。

俺に

「あの手紙を出してください」と英語で。

俺はカシムに手紙を出しだす。


カシムは手紙を二度ほど読んだようだ。


「まぁ、そこに座れ。

おい!茶をたのむ。」

側用人の兵に頼んだ。


俺らはソファに座る。


カシムは英語で

「ムスタファの頼みとあれば、受けざるを得ない。さぁ、どうしたいのだ?」カシム


俺は日本に帰りたいとそのままのことを述べた。

そして、今までの経緯を話した。


カシムも、アブドラと同じところが引っかかったようだ。

「お前のような者がおかすようなミスではないような気がするが」


ほう、俺は前のような雰囲気を持っているのか。傭兵時代の。

アブドラが口を挟んだ。

「彼は、何か事情があるようなのです。私もほとんど知りません」


「ふむ、、、」俺の反応を待つような仕草のカシム


仕方がない

「ウソのような話もまじりますが、これから話すことは事実です。」

と前置きをして、

俺の記憶が俺自身のものと、他の者のものと2つあり。その他の者は、この世界とは別の世界なのか、もしくは近未来なのか、、そうゆう所であり、そこで俺は傭兵をやっていた。

その記憶は、最初は夢という形で現れ、それは増えていき、今回のパリで問題に直面した時に俺の中でそれが全面的に明らかになった。

こちらの兵隊の装備品等は、向こうでは旧式だが、向こうでも現役で使っているゲリラみたいのもいた。多分、全く一緒くらいに違いはないだろう。

ただ、軍用輸送機に関しては、俺の記憶と全く違う。機体は似たりよったりに見える、が、向こうにはもうプロペラ機は遊戯用しかなかった。

自分の知識とこっちでの事実の確認をしなかったは大きなミスだと認識している。


しかし、イランに関しての知識は、ほぼ自分の知識通りだったので、今は安心している。

としめた。


二人共、考え事をしている。


まぁ、見た目こんな子供で、、、なぁ?

戦場の子どもたちじゃあるまいし、もろ日本人でそれはまずないだろう?。


彼らは彼らの中で折り合いを付けたようだ。


「よし、わかった。事実の確認なんぞとりようも無いしな。お前らが日本人で、日本に帰りたい、ということだけ、事実だと確認とれればいい。

パスポートは預かる。

飛行機があれば航空券を手配するし、なければどうにか飛ばせないかやってみる。もし長引くようなら、ビザを延長させる。

あと、

感染が恐ろしいので、ホテルから出るな。お前の停まっているホテルは閉鎖し、他の客を入れないようにする。

また、従業員も通いをやめさせ、ホテルで寝起きさせる。

何かあったら、早めに言ってこい。直接俺に言え。」


と、カシムは名詞を俺に渡してくれた。

アブドラにも名詞を渡した、「新しいやつだ、古いのは燃やせ」。

偉い人の名詞は悪用されやすい。悪用されないようにだろう。

アブドラとカシムの付き合いは長いんだな。



カシムの執務室を辞して、アブドラは俺をホテルに送ってくれた。

その途中、必要なものはないかと、アブドラが市場に寄ってくれ、見て回った。

女子達が喜びそうな甘いものや果物、日用品を買い込んだ。


ホテルに俺を送り、別れ際、

「司令は多分私に連絡をくれると思います。連絡きたらゴローさんに電話します。」

俺は大変世話になった礼を言って、アブドラと別れた。



受付で女子班長を呼び出してもらい、買い込んだものを渡した。喜んでくれた。

受付に来るだけでもちゃんとこちらの服装をして髪を隠していたので、偉いぞ、と褒める。

更に、そのこまめな行動が、こちらでの信頼の積み重ねになる。こちらを発つときに「また来てほしい」と願われるほどになってほしい。折角ここにいるのだから。今までの様子を見ると、お前たちならそうできる。と希望を述べた。



前の世界で、俺らは、敵地といえども敵対しない者達には丁寧に接していた。必要があればできる範囲内での援助もした、痕跡は残さないようにして。

無駄に敵を増やすより、少しでも親しみを持ってくれる者を増やすほうが安全だし、第一気持ちが良い。



それから俺達は、数日ホテルの中で暇な日々を送った。

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