第21話 雨宮海真の憂鬱




 俺は今、鳳瞭学園の校庭……更にはトラックの中で、多くの生徒達に囲まれている。

 四方八方から聞こえる応援。到底そうとは思えない言葉。個人に向けられたものじゃないとはいえ、その矛先に立っているのは嫌で嫌で仕方ない。


 けど……そんな事をウジウジ言っている場合じゃない。

 2年連続で学年別リレーの選手に選ばれた。最初は嫌だった。けど、この種目はこの通り全生徒に注目される。

 と言う事は……恋桜も見てくれてるって事! 去年は、


『頑張ったね?』


 なんて言って貰えて、プレッシャーの中走って良かったと最高の気分だった。

 だから今年も……見てくれよ!?


 …………ん? 

 ……あれ? 

 おかしいな? 

 確か2年1組だよな? 見てるとしたらそのテント前。固まってる人達が1組の人だと思うんだけど、その中に……居ない? 居なくない?


 ……居ないっ!!!!


 なんでだ恋桜!? なんで居ないんだ? くっ、そういう事か? この体育祭ですら俺のポイントアップは出来なくなったって事か!?


 思い起こせば……いつもこうだ。



 昔から、恋桜と2人きりになった事がない。まぁ4人で行動する事が多いから仕方ないのかもしれなけど、いくらなんでも1度も同じクラスになれないのはおかしくないか?


 湯真は11年連続だぞ? そりゃ同じクラスになれば、話が出来る場も時間も回数も増える。現にあの2人は毎年どっちかが学級委員長で、どっちかが副委員長。結局その距離が近い。


 4人で居る時も……これは俺が悪いんだけどさ? 恋桜に直で話しかけるの恥ずかしいんだよ。目が合うだけで戸惑うし、しどろもどろになるし……だから凜桜に協力してもらってさ? 話の話題を振る形を作って、なんとか会話の出来る状態にしてる。


 逆もまた然り。凜桜は湯真と話すのが恥ずかしいから、俺と協力して話題を振る。これが俺達の作戦の1つ。

 ただ……それを尻目に楽しそうに話してる2人の雰囲気を、背中に感じる度に不安になる。


 この前だってそうだった。

 こう言っちゃ、廉二に悪いかもしれないけど……なんであのタイミングで?


 なんで湯真と恋桜がトイレ行ったタイミングでお前達来たの? しかも、


『海真兄さん! 俺試合見て気持ちが高ぶってるんです! なんで、すぐに新しいバスケットシューズ買いに行きたいんですよっ! 付いて来てくれませんか!? アドバイス是非聞きたいっす!』


 目キラキラさせて、あんなの面と向かって言われたら断れないよ!

 初花は初花で、凜桜の腕掴んで美味しいスイーツがどうだとか、洋服がどうとか言って、連れてくし……

 結局、あの2人が一緒になったじゃん?


 あぁもう。修学旅行の時、去年の文化祭の光景が頭を過ったよ。



 そして、そんな流れで迎えた体育祭。結果はこれだ。

 はぁ……凜桜と綿密な作戦を立てた時は、絶対上手くいかないってのは薄々感づいては居たけど……まさかそれ以外でもこうなるとは思いもしなかった。


 はぁ……やべぇ……明るいテンション作るのも辛くなってきた……


 ≪続いて、水色組2年生代表の……雨宮海真君です!≫


 くっ、くそぉぉ……


「よっしゃー! 7組の皆見てろよ? 1位でバトン渡すからな?」


「さすが海真ー!」

「頼んだぞー!」

「パッション全開だ―!」


 ……はぁ。恋桜は居ない……格好良い姿見せられない。


 でも……仕方ないか。こうなったら……



「任せとけぇぇ!!!!!」



 やけくそで走ってやるもんねっ!!!



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