第33話 さきの異変

「んで、今日先輩方は?」

「今日2人一緒に魔法国にいってるョ。まじすみません」

「なんでも、こないだの戦いの報告とか言ってたよ。まじすみません」


 タオルをかけて、仁王立ちのさきの前で大きなタンコブを乗せて、正座をする二人と1匹がいた。


「ふーん」


「ねぇねぇ、さきちゃん、その写真の人はだれ?彼氏?」


 にまにまとほのかが聞いてくる。指差したさきには、写真立てがあり、今より少し幼い自分と水色のライダースーツに身を包んだ人物が写っていた。しまった、片付けるのを忘れていた。一瞬迷ったが、


「あぁ、お姉ちゃ…姉だよ。ちょうど一年前くらいに家出して、それっきりなんだ」


「oh…一年も前に家出って警察には行ったんデスか?」


 心配そうにカレンが聞いてきた。


「捜索願を出しているけど、全く見つからないんだ。両親は休みが出来れば、探してる。本来は、姉がこの神社の巫女の後継者だった。でも、去年の5月に霊力を暴走させてしまって、その後かなり悩んでいたんだ」


 あの頃の、姉は見ていて辛かった。私より才能も実力も会ったはずなのに。


「ごめんね…さきちゃん…そうとは知らず」

「ほのかはテリマカシーーがないッキュ!」

「…デリカシー?」

「それっきゅ」

 場の空気が少し重くなる。いけない。


「まぁ姉貴は元気にやっているんだと思う。家には、血で契約した魔法玉がある、生きている限りその魔法玉は存在するから。割れていないところを見るとまだ生きているんだと思う」


 魔法玉に目をむける。家族四人の写真の前にこぶしほどの大きさの赤い玉が置いてあった。


「あのさ、あのさ、さきちゃん提案なんだけど、私の記憶でお姉ちゃんを探せないかな」



「なるほど、ほのかの記憶メモリーで何かお姉さんの記憶を再現できれば、足取りをつかめるわけネ」


追跡トレースとかシダー先生が教えてくれたけど、メモリーと組合せられないかな」


「ん〜それがね。同時に複数の魔法はあんまり使えないんだ。特に記憶は魔力の消費が大きいから、追跡みたいに常時発動するタイプとは相性が悪いんだ」


 私の魔法便利な魔法なのにな。でも、たしか…。


「っつ…!!」

「大丈夫?ほのか」

「ごめん、ちょっとふらついて」

 最近頭痛がする。魔法のことを考えると時々なる。


「魔法といえばさきの憑依ダウンロードはどうなるんだ。お寺なんだし、ゴーストはいっぱいいるわけでしょ?」


「や…やめてよ、カレンちゃん…」


 ん〜たしかに。どうしよっかな。


「変身して確かめようにも、龍っちがいないと変身できないし。あいつどこにいったんだか」


龍っちとは、さきのパートナーである魔法生物で、名前のまんま龍である。


「さき何ボケてんの」


「え?目の前にいるじゃん」


 ほのかとカレンがキョトンとして言った。


 二人の視線の先には、なにも存在しなかった。


「いやいやいやいやみんなして変な冗談やめてよ」


 そこにりゅうっちがいる?んな馬鹿な。


 14年間ずっと一緒にいた存在を忘れるわけは無い。契約をしたのは1年前かもしれないが、代々家族が共に戦ってきた相棒を忘れるわけなかった。


「りゅうっちどういうこと?」


「え?魔力が減ってル?」


「ここにいるよ!ほら!」


 悪い冗談に決まっている。目の前で繰り広げられているパントマイムにさすがにイライラし始めて、ついに


「やめてよ!!!」


 2人をどなりつけて部屋を出てしまった。

 てっきりミッキュ と一緒に出かけているだけだと思っていた。確かに魔力が小さくなるのはわかっていた。だけど封印術は普通に使えたし問題ないと思っていた。


 だけどだけどだけど、私はもう魔法少女にはなれないの?ほのかたちやりゅうっちたちと一緒にパトロールしたり、おしゃべりしたりできないの?


 胸の奥に重たいものがずっしりと埋め込まれたようだった。わたしの足は自然と離れにある、姉の修行場に向かっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る