第31話 ほのかと新しい杖
血をシャワーで洗い流して湯船に入る。
だっはーあったまるー
「んで、んで!かおりちゃんとあの人馴れ初めは?」
「ウキウキすんな。大した話じゃねーよ。私が中学一年の時に、お前と同じように突然魔法少女にされたんだ。まぁお前と違っていたのは才能だな。」
「才能ないのはわかってますー。胸もないですー。」
「しっしっし、卑屈になんなっての。で、あとは仲間もいなかった。一人で毎日戦いの日々だ。来る日も来る日も戦って。いいもんも、悪いもんも分からず、ぶっ飛ばしてたら、気づいだ時には魔法国から刺客を差し向けられていた。さくらなんだがな。正義の味方のつもりで戦っていたら、悪者認定されちまった。そりゃ私だって病むさ。」
「じゃあさ、じゃあさ、そんときに優しくしてくれたのが、彼なの」
首を横に振る。
「いや、立ち向かってきた。普段あんなんなのによ。杖をめいいっぱいぶら下げて来たから、ボコボコにしてやった。」
「へ、へぇー」
「当時の街の危機が去った後も、来る日も来る日もやってくるから言ってやった。お前じゃ私に勝てないって。そしたらな、『君の涙が、止まるまで、僕は挑むのをやめないっ!君が安心して泣けるくらい僕が、強くなるから!』ってよ。テンパってんだな。矛盾してら。まあ真剣に向き合ってくれたのが、嬉しかったんだろ。私もまだまだ小さな小娘だよ」
「かおりちゃんは彼のことどう思ってるの」
ぶくぶくと顔を湯船に沈めながら言った。
「・・・だよ」
「何何?」
「私は、あいつのことが大好きだよ!!!」
「あ、ありがとう」
「「!?!??」」
ドアの向こうから声が聞こえた。
「えっと、風呂場からへんな音が聞こえてきたから、心配になって。ぼ、僕も君のことが大好きだよ、かおり」
「な、な、な、なあああ〜〜〜」
「か、かおりちゃんが倒れたっ!!」
「だ、大丈夫っきゅ?」
「お前はすっこんでろ!」
ミッキュ を投げ飛ばし、騒ぎを聞きつけたさきちゃんが事態を納めてくれるまで、大騒ぎになった。
「と、とりあえず、魔力を測らせて」
お風呂場のゴタゴタが落ち着いて、1階のお店で向かい合う。
そっと手をとる。思わずドキッとしてしまうが、背後のかおりちゃんの顔を見て、気を引き締めた。まだ死にたくないもんね。台の上には木々や生き物の1部、私の髪の毛がひと房置かれていた。ポニーテールの先をさきちゃんに切ってもらった。
「よし、君は記憶の魔法を使えるんだね。魔力は少ないから使い勝手が難しいだろう。バッテリーのような機能をつけとくね。少ない魔力でも、少しずつ魔力を貯めておけばいざというときに、君を助けてくれる。あとは術式もさまざまな魔法に対応できるようなオールマイティな物にしておくよ。」
「ありがとうございます!」
いやいやと首を振る。
「杖は魔法使いにとって大事な一品だ。作らせてもらえて光栄だよ。ちょっと下がってくれるかい?」
さて、と杖職人は杖をふるう。
「
次々に木々が刻まれて、さまざまな光が現れては用意された木に吸い込まれていき、最後には様々な木が絡み合ったマーブル模様の杖が残されていた。細かな術式がびっしり杖に刻まれていた。
「さぁ、君の杖だ」
表面の数多の窪みが手に馴染み、心地よい。
「これが私の杖」
「振ってみて」
「うん!」
これが私の新しい杖!可愛らしく、ちっちゃな花火でもあげよう。そいや!
「ミキュキュキュ!!ミギャアアア!」ちゅどーん
あれ?
あっきたねえ花火だ。
「しっしっし感謝しろよほのか。こいつの杖は普通手に入らない超超超一級品。カウンターズの6番六駆の杖と言えば、魔法国の人間がだれしも欲しがる品物だ。ぶっちゃけ家が立つほどの金額がする。」
え、、、。私の気持ちは花火と同じようにしおれていった。そんな金額中学2年生の私には到底払えない。
「わ、わたし、お金ないよ、」
「金は要らん」
その時、2階から男が降りてきた。
「持ってけ」
「お、親方」
「そこの2人も杖の手入れなら、うちを頼りなさい」
「え、え、どうして」
親方が私たちを見て、かおりちゃんに視線が止まる。
「あんたら、名前は」
「しっしっし凶川かおりだ」
「宮内ほのかです」
「龍崎さきです」
「そうか。…さちよという魔女がさっき出ていった。彼女から金は預かっている。だから安心しな」
「さちよさんが?」
「あぁ…追われているようだったが彼女なら大丈夫だろう。危ない事件もある。きょうは帰りなさい」
後ろ髪を引かれる思いだったが促されるままに杖屋さんを後にして、家に帰ることになった。
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