1-10 俺のステータスは平凡だけどデッキからスキルをドローできるらしい

「俺はスキル・ドローを発動! この効果により! 俺はこの世界に存在する全ての超級スキルというデッキから、ランダムにスキルをドロー! それを習得する!」


導かれるように、ツバサはそのスキルを発動していた。


世界中に存在する超級スキルを無数のカードとして『捉え』、

それを一つに束ね、世界に一つだけのデッキを構築する。

そして、そこから1枚を……引く!

必然。それは切り札。


「ドロー! 俺が引いたスキルは、超級スキル! ジャックポット!」


そう、これこそがスキル・ドロー。

上級を超えたスキルを習得できる、凄まじいスキルだ。

だが勿論、制約はある。

スキル・ドローは一度発動したらその後、24時間の間は使用ができなくなる。

更に、このスキルで習得したスキルは24時間の経過、もしくは使用する事で消滅する。その後、『生涯、そのスキルを習得することができなくなる』。


そしてジャックポット、ツバサの習得したこのスキルは。

『自身が消費できる最大のゾロ目のSPを消費し発動。自身と対象のHP下3桁が【共に同じゾロ目】の場合、自身が対象に与える攻撃の威力が超倍化する』

攻撃力の『超倍化』。ああそうだ、欲しかったのはこれだ。

だが問題はその厳しすぎる条件。少なくともツバサ1人では無理だ。

でも、ルリがいる。2人なら選択肢は増える。

ツバサとルリのステータス、スキル、全ての手札から逆算する、勝利までの道を。

そして、ツバサには見えた。ただ1つの勝利の方程式。

不確定な要素が多い。確実ではない。だが、やるしかない。


「スキル・ドロー……ジャックポット……?」


ルリが呆然と呟く。

ツバサが発動した事により、スキル・ドローの詳細は解析できたはずだ。

だが、まだ発動していないジャックポットはルリの認識の外。


「ルリ!」


ルリの元まで駆け、作戦を伝える。


「……うん、多分、それはある。ツバサの方は大丈夫。でも私の方は……MP、ギリギリになると思う。でも、やる」


ルリは難しい顔をするが、最後は承諾してくれた。頼もしい限りだ。


「じゃあ、作戦開始だ!」


一手目開始。

ツバサはまず、ルリが先ほど投げ捨てた道具袋を拾う。


森林王のHPは5135。

ツバサのHPは130。

ツバサのSPは47。SPは最後のゾロ目である11を切るまでは気にする必要はない。


「ファイア・バレット。アゲイン、アゲイン!」


続いて二手目が始動する。

森林王に炎の弾丸が連続して着弾していく。

王は傲慢にして怠惰。ダメージを1に抑える『神威』がある王は、下賤の者の取るに足らぬ攻撃をさして気にも留めない。


ルリを尻目に、ツバサは森の中に飛び込む。

『神罰の結界』があり、王から逃げる事はできない。

それは承知している。狙いは、別にある。


「アゲイン、アゲイン、アゲイン!」


王のHPは5120まで減った。

流石に煩わしく思ったか、王が低くうなり声をあげる。

それに応えるかのように、大地の中から巨大な木の根が現れ、上空からルリに向け、叩きつけてくる。


「アイアン・ツイン・ハンド」


ルリはアゲインを停止し、岩の両手を召喚。

片手で木の根を受け止め、片手はルリ自身を掴み、その場から逃がす。

攻撃を受けた方の手は、やはり耐え切れずすぐさま消滅。


「……この使い方、便利」


岩の手から降りる。

ツバサから言われた作戦の完了まであと少し。


「ファイア・バレット、アゲイン、アゲイン、アゲイン……」


炎の弾丸の連射を再開。

いい加減にしろと言わんばかりに、王が動く。

両の前足をゆっくりと持ち上げる。ルリにゾクリと悪寒が走る。

確証はない。だが、あれは、マズいと。


ズズンッ……!


音は背後から聞こえた。巨木が倒れたような音。

それが三手目開始の合図だった。二手目も何とか完了している。間に合った。


「とびきりの……アイアン・フィスト!」


王が何かする前に、ルリの魔法で生み出された岩のこぶしが上空から降り注ぎ、王の眼前の大地に炸裂。

大地と衝突した魔法は込めた魔力の大きさからか、大気を揺るがし、巻き上げられた砂塵が周囲を覆う。

王は転倒を防ぐためか、思わず前足を降ろした。


「これが最後」


ルリは最後の魔力を振り絞る。


「アイアン・ツイン・ハンド」


四手目。

再度出現した岩の手が、ルリの背後で切り倒されていた巨木を掴み、砂塵を突き進んで王の目前へと迫る。フルスイング、顔面目掛け。

王は哀れむように眼を細め、反射のスキル『不敬』を発動する。

巨木が砕け、その衝撃で岩の手も砕ける。

が、その砕けた手の後ろから、もう片方の岩の手が出現。


「お前の敗因はたった一つだ」


握られたその手が開かれ、その中からツバサが飛び出した。


「王で『在ろうとしすぎた』。それも、傲慢で、怠惰で、他者を見下し、侮る『愚王』だ。それになにより、王である前に、お前も俺も、ただの獣なんだ。あまり驕るなよ」


王の目が驚愕に見開かせる。

頭部全体に掛けられた『不敬』が切れる。

王のHPは5111。

ツバサのSPは46。HPは111。

両者のHP、下3桁は共に『111』。

舞台は整った。さあステージの幕を開けよう。

ツバサは剣を頭上高く掲げ、力の限り、王の頭蓋を叩き割るように振り下ろした。

これが五手目。詰みだ。


「ジャックポット」

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