第15話


「残念だが、冒険者登録されていない者には闘技場を使用する許可は与えられない。また冒険者と一般人の争いは禁止されている。ユージンよ。そんなことも忘れたのか?」


ユージンが言った受付からはそんな声が聞こえてきた。

どうやら闘技場は冒険者登録していないと使えないらしい。知らなかった。

というか、ギルドに闘技場があることも知らなかったんだけどね。


「あちゃー。そうだったわ。すっかり忘れてたわ。せっかくリューニャのすごさを知らしめるチャンスだったのになぁ。・・・ねえ、リューニャ。冒険者登録しない?」


シラネ様も闘技場の使用者に制限があることを失念してたのか。そうだよな。覚えてたらあんなこと言わないよな。

それにしても、オレに冒険者になれってそれは話が違うではないか。


「お断りします。オレは王宮料理人になりたいんです。」


「冒険者の方が向いていると思うんだけどな。」


オレは速攻で冒険者になることに対して却下をするが、シラネ様は残念そうにポツリとそう呟いた。

何度も言っているが、オレは冒険者には向いてないと思うんだけど・・・。どうして、そんなにシラネ様はオレを冒険者にしたいのだろうか。


「ははっ。残念だな。シラネ。おまえの選んだ男はとんだ意気地なしではないか。おまえにお似合いだな。まあ、冒険者じゃない男と戦うことは禁止されているんだ。オレもまだギルドに睨まれたくはないんでね。残念だが、勝負はなしだ。まあ、勝負したところでそんな腑抜けにオレが負けるとは思わないがな。」


ユージンはそう言ってオレのことを嘲笑った。

その笑い方になんだかちょっとムッとしてしまった。


「料理の腕じゃ負けません。料理で勝負しませんか?」


「はあ!?料理だとっ!!オレは料理人じゃないんでね。そんな勝負なんか受けるわけないだろう!!馬鹿にしているのか?それとも、おまえは冒険者が一流料理人並の腕でも持っていると思っているのか?馬鹿だろ?」


「そうですか。よくわかっていますね。オレは見習い料理人であって冒険者じゃありません。あなたと勝負してあなたが冒険者じゃないオレに負けたら笑いものですよね。だから、勝負しない方がいいんです。引き分けってことでいかがでしょうか?それに、オレも冒険者登録しないで済みますし。」


「引き分けだと!?この世界は冒険者が一番偉いんだっ!料理人と冒険者を一緒にするなっ!!」


「誰が決めたんですか?そんなこと。」


激昂するユージンに対して、オレは冷静に訊ねる。いつからこの国は、この世界は冒険者が一番偉くなったというのだろうか。


「はんっ!魔物がこの国を取り囲んでいるんだぞ!その魔物を倒して街を守っている冒険者が一番偉いに決まっているだろうっ!」


「本当にそうでしょうか?」


「ふんっ。弱くて守られることしかできない料理人見習いが何を言っている。」


「・・・・・・オレはあなたに守られるほど弱くはないと思います。」


ユージンのことは相手にせずに穏便に済まそうかと思っていたけれど、思わずそう発言してしまっていた。


「なんだとっ!!」


ユージンはオレの言葉に激昂したようだ。ドンッと床に足を打ち鳴らした。


「信じられないのなら勝負しましょうか?でも、オレは冒険者にはなりません。だから、力試しというのはどうでしょうか?一流の冒険者ならコカトリスの卵を割ることなんて朝飯前、ですよね?」


戦闘能力で勝負をするというのであれば、オレは冒険者にならなければならない。だが、コカトリスの卵を割るだけなら冒険者じゃなくてもいいはずだ。


「コカトリスの卵だとぉ!?そんなものどこにあるっていうんだよ!なあ、マスター、ここにはコカトリスの卵などないだろう?」


ユージンはそう言ってオレ達の様子を伺っていたギルドマスターに声をかけた。


あれ?コカトリスの卵ってギルドにないのか?依頼とかでもコカトリスの卵の採取依頼くらいあるだろうに。ああ、依頼品だから渡せないってことなんだろうか。


「・・・・・・今は、ないな。どうだ、コカトリスの卵を取ってくるのであれば冒険者じゃなくても問題ない。コカトリスの卵を割るという勝負ではなく、コカトリスの卵を用意することから初めてはどうだろうか?シラネが言うくらいなんだから、このリューニャという男はコカトリスの卵くらい簡単に用意することができるんだろう?」


「そうね。私がリューニャに会ったのもコカトリスの巣だったわ。リューニャはコカトリスの卵を採取しに来たついでにローゼリアに置いて行かれた私を助けてくれたんだもの。リューニャだったらコカトリスの卵を取ってくるくらいなんてことないわ。」


ギルドマスターとシラネ様は親しい間柄なのだろうか。なんだか随分打ち解けているような気がする。まあ、冒険者とギルドマスターということだからそれなりには親しいのだとは思うけれど。


「・・・・・・わざわざコカトリスの巣まで採りに行かなくてもオレの家にありますよ。今、持ってきます。」


「ほぉ。家にあるのか。ユージンの分もあるのか?」


「ええ。昨日たくさん運びましたから。」


ギルドマスターはニヤッと笑って楽しげに聞いてくる。オレは、それになんてことはないと返答する。すると、ユージンの顔色が青く染まったような気がした。


「・・・・・・ばかな。料理人見習いが、コカトリスの卵を複数個も所持しているだとぉ。」


ユージンは先ほどまでの威勢はどこへやら、少し腰が引けているように見えた。


「じゃあ、オレ家に一度帰りますね。どこでやりましょうか?ギルドの一室をお借りすることは可能でしょうか?」


オレはギルドマスターに一言声をかけた。


するとギルドマスターは豪快に笑った。


「はっはっはっ。闘技場は冒険者じゃなければ使っては行けない。これは何故だというと冒険者と一般人が戦闘を行うことで一般人が怪我をすることを避けるためもある。だが、今回はコカトリスの卵を割るだけだ。ギルドの闘技場を使っても何ら問題はないだろう。どうせなら、観客は多い方がいいだろう。今日だと急すぎて人が集まらないかもしれないからな。準備期間も含めて、明後日というのはどうかね?」


「ええ。オレは構いませんよ。」


どうせなら見物人が多い方がいいとギルドマスターが言う。なぜ、そんなことを言うのかはわからないが、ギルドの闘技場を借りるのだし、頷いておいても問題はないだろう。それに、コカトリスの卵を割るところを見られて困るわけでもない。なんたってただ卵を割るだけなのだ。何の問題もない。


「ユージンもそれでいいな?」


「・・・・・・あ、ああ。」


ユージンは力なく頷いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る