第13話
「へぇ~。ギルドの中ってこうなってるのかぁ。」
ギルドの中はだだっ広い空間がひろがっていた。所々に建物を支えるための柱があるが、それ以外はワンフロアになっているようで、小部屋があるわけではないようだ。
見渡すと奥の方に階段が見えるので二階もあるみたいだ。もしかすると二階には小部屋があるかもしれないが。
「ほぉ。あそこで酒を飲んでおるのぉ。妾も飲みたいものじゃ。」
「トリス酒飲めるの?」
「うむ。好物なのじゃ。」
ギルドの中は冒険者でいっぱいだった。もうすぐお昼の時間だというのにも関わらずだ。
てっきり冒険者という職種の人間は朝一にギルドに行って、仕事を探し昼前にはギルドを出て行くというイメージがあったのだが違うらしい。
トリスが指摘したように朝から酒を飲んでいる冒険者もいるみたいだし。
「はいはい。今日はリューニャのステータス鑑定が目的だからお酒はまた今度ね。」
「うむ。わかったのじゃ。」
「あら。以外に物わかりがいいのね。」
「妾だって馬鹿ではないのじゃ。それに、後でリューニャに果実酒をもらうのじゃ。家の中に果実酒があったのを見つけたのじゃ。」
「まあ。そっちが本命だったのね。」
「いつの間に・・・。」
「リューニャが師匠とやらと話しておったときじゃ。」
まったくトリスってば油断も隙もない。まさか、あの果実酒を見つけられてしまうとは。
あの果実酒は作りたくてもなかなか材料が集まらなくて作れないから大切にとっておいたんだけどな。
まあ、でもいっか。
そのうちまた作れるかもしれないしな。一回作れたってことはまた材料が手に入るってことだよな。
「わかったよ。でも、あの果実酒のことは誰にも言うなよ。」
「わかったのじゃ。妾は言わぬのじゃ。」
「なにそれ。私も気になるわ。私にも飲ませてちょうだい。」
「わかりましたよ。後で一緒に飲みましょう。」
「約束だからね。」
「はいはい。」
シラネ様もお酒はいける口のようだ。見た目からはお酒は苦手そうに見えるんだよなぁ。
「あら。シラネじゃないの。」
オレ達が話をしているとトリスに負けず劣らずスタイルの良い美女が話しかけてきた。
口ぶりからするとシラネ様の知り合いのようだ。
シラネ様も聖女として活躍をしていたのだから、ギルドに知り合いがいたっておかしくはない。
だけれども、この女性からはシラネ様に対する悪意のようなものを感じる。オレの気のせいだろうか。
「・・・ローゼリア。」
シラネ様は感情の籠もらない声で目の前の女性の名前を呟いた。
「それにしても無事だったのね。心配していたのよ。私。ごめんなさいねぇ。色つきのコカトリスがいるだなんて知らなかったから。私だけ先に逃げてしまってごめんなさいねぇ。」
ローゼリアと呼ばれた女性はそう言って「ふふふっ。」とどこか楽しそうに笑った。
言葉はシラネ様のことを気にかけているように聞こえたが、声音からはシラネ様のことを良く思っていないのがダダ漏れである。
そうか。ローゼリアさんがシラネ様をあの洞窟に置き去りにしたのか。そして、助けも呼ばなかった、と。
「いいのよ。こうして無事に帰ってこれたのだから。ローゼリアこそ無事でよかったわ。」
シラネ様はそう言って気丈に笑った。だが、握り締めた手が小刻みに震えている。怒りを押し殺しているのだろう。
「でも、シラネがいたパーティにはもう居場所はないわよ?私がシラネの代わりを務めることになったのだから。」
「・・・そう。ユージンはそれでいいと言っていたのね?」
「ええ。ユージン様はシラネより私の方が良いらしいわ。でも聖女という職についてるのはシラネだったからシラネをパーティに入れていただけだったみたいよ。うふふ。私ももうすぐ聖女に昇進する予定なのよ。だから、ユージン様はあなたみたいな小娘より、私を選んだのよ。」
ローゼリアさんはそう言って勝ち誇ったようにシラネ様に笑って見せた。
ユージンというのはシラネ様がいたパーティのリーダーかなにかだろうか。
だが、聖女という肩書きだけでシラネ様をパーティメンバーにしていたというならば、ユージンという男の力量もたかがしれている。
シラネ様がそのようなパーティから離脱することができてよかったのかもしれない。
「そう。あなたも聖女になるのね。」
「ええ。今までの私の功績が認められたのよ。いつまでもあなただけが聖女だと思わないことね。」
「ローゼリア、何をしているんだ?」
「あら、ユージン。シラネが生きていたのよ。だから無事でよかったと挨拶をしていたのよ。」
突如、言い合いをしているシラネ様とローゼリアさんの間に金髪の男が割り込んできた。
キリリとした瞳が印象的だが、どこか冷酷そうにも見える。
この男がシラネ様の元パーティメンバーのユージン、か。
「ああ。シラネ生きていたんだね。心配したよ。でも、安心してね。シラネの代わりにローゼリアが俺たちのパーティに入ってくれたから。シラネはゆっくり休んでいるといいよ。」
ユージンはそう言ってにっこりと微笑んだ。だが、その眼は全く笑ってはいない。
それどころか何やら冷たいものが混ざっているような気がする。
この男もシラネ様のことを邪魔に思っていたのだろうか。
「そうね。私はもうユージンとは何があっても組まないわ。」
「おや?俺からシラネにパーティを組もうなどとは金輪際言わないからね。シラネから言ってきたとしても組む気はないよ。」
「私ももう二度とユージンと組む気はないわ。私にはリューニャがいるもの。」
ちょっとシラネ様!そこでなんでオレの名前をだすの!?
「へぇ~。リューニャとはそこにいる貧相な男のことかな?冒険者ランクは?」
ユージンの声が1オクターブ低くなったような気がした。そうしてオレに対して殺気が放たれる。
「オレに冒険者ランクはない。」
「どういうことだ?」
ユージンの冷たい声が鼓膜を刺激する。
だが、そんなことは知ったことではない。
「オレは冒険者なんかじゃない。オレは、見習い料理人だっ!」
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