7月6日


 日曜日。

 生まれて初めてできたカノジョと出かけることにした。

 いわゆる、初デートってやつだ。



「やぁ、おはよう」


「おはよう、ずいぶんと早いのね」


「だから、キミが遅刻してるんだからね」


「沖縄の人は――」


「――そのくだりは、先週やったから」


「……ツレナイわね」


「私服、かわいいね」


「えっ!?」


「……そんな大きい声、出せるんだ」


「……なんて言ったのかしら?」


「えっ」


「よく聞こえなかったわ。もう一度言って欲しいわ」


「……」


「……」


「今日、天気良いね」


「さっきと、違うじゃない」


「いや、聞こえてるじゃん」





「今日はどこへ行くのかしら?」


「いや、映画に行こうって、チャットアプリで連絡してたじゃん」


「あら、冗談だと思ってたわ」


「どこをどう解釈したら、そうなるのさ」


「映画館なんて、久しぶり」


「僕も……、ちょっと緊張するね」


「……もしかして、エッチなことを考えているのかしら?」


「どこをどう解釈したら、そうなるのさ」


「おなかすいたわ」


「会話のキャッチボールって、知ってる?」


「ポップコーンが食べたいわ」


「……映画館行くのが楽しみなんだね」





「……どうだった? 映画」


「すごく良かったわ、スクリーンの大画面で観るのは、やっぱり迫力が違うわね」


「マトモな受け答え、できるんだね」


「あら失礼ね、私はいつだって真面目よ」


「どういうところが良かった?」


「……そうね、深い人間ドラマがあったわ。登場人物たちの心の機微というか、心情描写がとても丁寧に描かれていると感じた。随所にちりばめられた伏線、ラストシーンで明かされた切ない真実……、スタッフロールが流れている間、涙が止まらなかったわ」


「……」


「あなたは、どうだった?」


「……いや、面白かったけど」


「けど?」


「ホラー映画で号泣する人、珍しいなって」





「おなかがすいたわ」


「今回に限っては、僕も同じことを考えていたよ。何か食べてから帰ろうか」


「とんかつが食べたいわ」


「……初デートでとんかつって、結構トリッキーな選択肢だけど、まぁいいか。近くに良いお店がないか、探してみるよ」


「えっ!?」


「えっ?」


「……なんて言ったのかしら?」


「……いや、近くに良いお店がないか、探してみるって」


「それじゃない、その、ちょっと前」


「……初デートでとんかつって――」


「――コレって、デートだったの?」


「……恋人同士、日曜日に映画観てるんだから、誰がどう考えてもデートでしょ?」


「……」


「……顔、赤くない?」


「……夏風邪を引いたのよ」


「……急に?」


「そういう、体質なの」


「……フーン、じゃあ、とんかつやめとく?」


「……沖縄の人は、とんかつを食べて風邪を治すそうよ」


「ココは東京だし、それ絶対ウソだよね」


「……」


「……」


「……ねぇ」


「……何?」



「来週の日曜日、初デートをやり直すことはできないかしら?」


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