第32話 応援の声が、聞こえます!
腹の底が焼け付くように熱い。
まるで、熱した鉄を直接地肌に喰らわされたかのような痛みと熱さに、目の前が瞬間的に真っ暗になってしまった。
両の脚が上手く動いてくれない。なんで。なんで動いてくれないんだ?
目の前には、驚愕したように両手で口を押さえるドルゴ村の村長の姿があった。
その様子に呆然としつつも、我に返ったかのように村の青年が村長を抱えて俺たちに背を向けた。
ギギギと、全く言うことを聞いてくれない身体を捻って俺はガルマを見た。
奴は、にやにやと笑いながらも何かを察したように聖剣に力を込めた。
「なるほど。君たち魔王軍がなぜこの村に肩入れしているのかはぼくの知るところではないが、どうやら
下卑た笑みを浮かべたガルマは、構えた聖剣を一振りする。
その先には、復興したばかりのドルゴ村の田畑がある――!
「……ァァァッ!!!」
俺は震える脚に鞭を打って、
空中に飛び散った魔力は、ドルゴ村の田畑に向かっていた聖力とぶつかり、煙を上げて霧散していく。
ドルゴ村の田畑は、先のガルロック襲撃戦からようやく復興し、元通りになっていた。
第1次魔王軍大規模攻勢の時も、この村は犠牲になった。
そして、ナーシャが命を賭して守ろうとしていた土地だ。
『ディアード』の報酬金を復興資金に当ててまでナーシャが救おうとしたこの村を――。
「譲れるかよ……ッ!」
魔王軍の軍服は完全に裁たれてはいないが、聖なる力に充てられて摩耗している。
「……ふんっ。薄汚い魔族が吠えてくれる」
一瞬の静寂が場を支配する。直後、聖と魔の力がその場に渦を巻き始める。
――こんな所で倒れるかよ……。
銀光を迸らせて交錯する剣と剣。火花を散らし、聖力を、魔力を散らして俺たちはぶつかり合っていた。
ガルマが大振りに剣を振るうと同時に俺は一時後方に下がる。
そして俺が奴との間合いを詰めようとすると、避けることもせずに聖力を剣にありったけ注ぎ込んで剣戟を受け止める。
聖と魔のぶつかり合いによって、お互いの波動がお互いの身体をどんどん蝕んでいく。
ガルマの白い純白に包まれたマント姿からは、体内に入り込んだ魔力が暴走して皮膚を突き破ったために出来る生傷からの鮮血がこびりつく。
俺は全身から聖力の影響で白い消滅の煙が立ち込める。
それでも、互いに攻撃を止めない。攻撃の手を緩めることは、決してない。
「はぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
「おぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
俺が剣を横に振るえば、ガルマはそれに向かい打つかのように聖剣を強引にぶつけて勢いを弾く。
体勢を崩した俺が正面を向くと、そこには既にガルマの聖剣による突きが待っていた。
目の前に迫ったそれを何とか魔剣でいなすものの、魔力の充填が完璧ではなかったために聖力に打ち負け、飛び散った白い光が俺の皮膚をじっくりと焼いていく。
力の入りにくくなったそれに緊急的に魔力を込めると、奴も予想外だったのか顔を怯ませて俺の攻撃をそのまま身体で受け止める。
鮮血が白いマントに迸り、虚ろながらもギラついた眼光を俺に絶えず突きつける。
剣戟に次ぐ剣戟だった。
経験値や、聖力は圧倒的にガルマの方が上だろう。
手数で言っても俺は圧倒されっぱなしだ。俺が魔力で奴の内部を破壊しようとしても、その倍の力が俺に降り注ぐ。
身体中が焼けるように熱い。脂汗も止まらない。頭はずっとガンガンと危険を俺の本能に投げかけているし、身体中がガタガタ震えている。
――っ!?
「ヴァウハウッ!!」
突如、俺の視界に飛び込んできたのは三つの頭だった。
俺が魔剣を打ち付け、奴の聖剣を弾き飛ばして隙が出来たその一瞬。
俺は攻撃する余力が残っていなかったが、その隙を突いた勇猛な一撃だった。
「――んだよ君たちはっ!!」
腕に噛みついてきた
すんでの所で避けるガルマに、威嚇の声を上げながら二頭は並んで俺の方を向いた。
「ケルちゃん……ベロちゃん……!?」
それは、今やドルゴ村のアイドルにもなったケルベロス二頭組。
彼らの背後には、建物の影に隠れながらもこちらを見守るドルゴ村の人たちの姿があった。
ガルマはそれにイラッとしたような仕草を見せつつも、笑顔で応える。
「皆さん、何か誤解をされているようですが……ぼくはあなた方を護りにやってきたんですよ? ここにいる少年は、かの魔王軍が大隊長格の危険因子。ここで潰しておくに越したことはないのですよ」
「……兄ちゃん、魔族だったんか……」
建物の影から、恐る恐る出てくるのはドルゴ村長。
ガルマは、追撃をかけるかのように肩をすくめる。
「魔王軍は根っからの悪ですからね。ドルゴ村の方々に危害を加える前にこうして処理しているんですよ」
聖剣を持ってにこやかに話そうとするガルマ。
だが――。
「ケルちゃん、ベロちゃん、その兄ちゃん助けてやっとくれ!」
老婆の村長は、俺の方を指さしてケルベロス二頭に指示をだした。
ケルベロスはその意を受け入れたかのようにこくりとうなずき、口の中に魔力の波動を込めた。
『バウッ!!』
ケルちゃんとベロちゃんは息を合わせて魔力の砲弾をガルマに突きつけていく!
「……ん?」
余裕の顔つきで聖剣を振るい、ケルベロス達の魔力弾をふるい落とすガルマ。
村長は、物陰から言う。
「あんたよりかは、そっちの兄ちゃんの方がなんぼか信用できるんじゃ」
村長は続ける。
「さっきから、兄ちゃんが私らの村を護りながら闘ってくれてるのは百も承知さね。魔族だろうが勇者だろうが、私らはこの村を護ってくれる……『ディアード』の勇者の兄ちゃんを応援するまでさね」
震えながらの声音だった。
勇者に対抗する、ということがどれほどの事かを知ってのことだったのだろう。
それでもなお、こんな俺を応援してくれるというんだ。
「勇者の兄ちゃん、さっさとそいつぶっ潰せー!」
「君たちがくれたお金でこの村は立ち直ってんだ! 邪魔はさせねぇぞ!」
「ナーシャちゃん達が護ってくれた村だ! あたしらも全力で立ち向かうんだから!」
口々に言葉を投げるドルゴ村の人々に、俺はうかつにも目が潤むのを感じていた。
「……これだから魔族は……っ! 人の心を蝕み、喰らい、征服する……! これだから世界はいつまでたっても浄化されないんだ……ッ!!」
再び極大の聖力を込めてガルマが、憤怒の表情で俺に剣を受けた。
俺は枯渇し掛かっている魔力を魔剣に注ぎ込んだが、足りない。
奴の聖力に対抗できるだけの魔力は、俺にはもう――。
死すら覚悟した、そんなときだった。
「んじゃ、アタシらも魔族に蝕み、喰らい、征服された残念な奴等って事だな」
「仕方が無いですね。こうして魔族に心を蝕まれて、あろうことか勇者様に手を挙げようとするなんて」
「優しい魔族さんだって、やっぱりこの世にはたくさんいるんですッ!」
一閃。
俺の目の前に突如現れたのは3人の少女だった。
一人は、拳にありったけの力を入れてガルマのボディに一発かます。
一人は、遠方から巨大な白銀銃で光の銃弾を放つ。
そして最後の一人は、優しい緑色の光を発しながら俺の身体に手を当てる。
「皆さん、エリクさんを援護しますッ!」
「任せろっ!」
「任せて下さい!」
『ディアード』の面々が、燦然と俺の前に姿を現したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます