第9話 野生の力、発揮します!
ダリアさんの作ってくれた美味しい料理を頬張った俺たち一行は、新たに舞い降りた任務の為にシャルツ森周辺に陣取った。
空は快晴、そして無風。
任務内容が害獣討伐でなかったら絶好のピクニック日和だ。
「ここはアタシの領域だ。少々
尖った白い耳と、高い鼻をぴくぴくと動かして得意げな表情を作ったルイス。
以前のガルロック先輩戦での地面クレーター製作を見ていると、このシャルツ森も壊滅状態にしてしまうんじゃないかという心配が浮かび上がってくる。
「大丈夫ですよ、エリクさん。彼女の
飄々とした様子でシュゼットは呟く。
「対自然におけるルイスは、群を抜いています。それはひとえに彼女自身の野生の勘という所でしょうか」
「……野生の、勘?」
「元々の出身が
「それっていわゆる野生児ってやつじゃ」
「そうとも言いますね」
しれっと言い放ったシュゼットを尻目に、ルイスの民族衣装がゆらりと揺れる。
「アナスタシア。今回のルイスは消耗が激しそうなので、後方支援はしっかり固めておきましょう」
「了解ですっ!」
ナーシャも左手薬指に嵌めた白銀の指輪を太陽に照らした。
なるほど……ナーシャは治癒魔法師だったのか。
戦闘する所を見たことがなかったが、そういうことなら合点がいく。
ということは、このパーティーには前衛のパワー圧倒型の近距離戦士、中衛の治癒魔法師、後衛の精密援護射撃銃士と、任務を受注する上での理想的パーティー構成じゃないかここは。
何でこんなバランスのいい強パーティーが魔王軍討伐攻勢に出てなかったんだ。
あっという間に前線の英雄になれるぞ……!?
あっという間に
ともあれ、ナーシャの持つ白銀の指輪はモノも相当良さそうだ。
治癒魔法師ともなれば重要な要素は三つ――治癒速度、治癒深度、治癒頻度だ。
戦闘において、要救護者の元にどれだけ速く治癒魔法を飛ばせるか、どの程度の重傷者ならば完全治癒できるか、、どのくらいの頻度で治癒出来るかでそのパーティー内における治癒魔法師の重要度が変わってくる。ま、ナーシャがどんな治癒魔法の使い手でもここの面々は変わらない扱いなのだろうが。
「よっしゃ、行くぜ!
「……は!? もう見つけたのか!?」
「今はちょうど狩りの最中で5、6匹が集団行動してるとこだ。足音と、息使い、血の匂いと腐臭からして獲物を狩った後でまだ臨戦態勢なのは間違いない。自分の身は自分で守ることだなッ!」
言うだけ言って。ルイスは手に何も持たずに森の中に突っ込んでいく。
「私たちも追いましょう! 森の中で彼女から離れてしまうと帰ってこられなくなります!」
「エリクさん、道中の魔物には充分気をつけてください!」
シュゼットはいつものような背丈ほどのある大型銃を右肩に添ええて、ナーシャを護るように移動を開始した。
大方、魔法力かで宙に浮遊させているんだろうが、あれほどの巨大質量の銃を扱うには相当な魔法力が必要だろうに――。
○○○
「ふん……ふんふん……くん……」
四つん這いになった脳筋エルフさんは顔を地面に近付けた。
緑と白を基調としたエルフの民族衣装の谷間から揺れるたわわなおっぱいを見ていると、シュゼットの銃口が俺の方を向いていた。
俺がちらりとシュゼットの胸に目を落とすと、彼女は眼鏡をクイとあげて銃口に膨大量の魔法力を集約させ始めた。
無言の狂気ってやつだな。
「見つけた。さっきよりも少し移動してる。あいつらの縄張りに獲物持ってった……ってとこか。この先に少し大きい広場がある。そこで餌食らってるよ」
ルイスは険しい目つきであたりを見回した。
正確無比なその視線の先からは、確かに何らかの気配は感じる。
ルイスは四つん這いのままで、続けた。
「アタシはこのまま突っ込む。あの群れの中に突っ込んで中をかき乱してくれば、どっからかボス狼が姿を現すはずだ」
「分かりました。それではあなたが群れの中で撹乱している間にボス狼が出てくれば、そちらの方に標的を変える。私たちは群れ狼があなたに近付かないようにいなし、倒していけばいいんですね」
「そーゆーことだな。統率主のボス狼さえ倒しきってしまえば、後は烏合の衆だ。大型の獲物はアタシが受け持つ」
ルイスは八重歯をきらりと反射させてはにかんだ。
何か物欲しそうに涎が見え隠れしていたけどね。
「ルイスさん、今回は張り切ってますね! お怪我をなされた時にはすぐに治癒魔法を飛ばします! 全力で暴れちゃって下さい!」
「おう、期待してるぜナーシャ!」
「大丈夫ですよアナスタシア。ルイスは今、前回の任務での失態をエリクの前で取り戻したいのと、新しく入っていた彼に、最高級のご飯を振る舞いたいのでモチベーションは最高潮ですから」
「最高級の、ご飯……?」
俺は、顔を赤くするルイスを見つめる。
シュゼットはくすくすと笑みを浮かべた。
「
「シュゼット! 何でそんな全部言うんだよ!? そうだよ! その通りだよ! 悪いかよ!」
「誰も悪いとは言っていませんよ。むしろあなたの暴力加減からは想像も出来ない律儀さには見習いたいほどですから」
赤縁眼鏡を冷静にあげたシュゼットに対し、ルイスは恥ずかしげにその白く尖った耳をぽりぽりと搔く。
その顔は、少し紅潮しているように見えた。
「この前、美味い飯も連れてってやれなかったし……それに、こんな
恥ずかしげに薄いピンクのポニーテールの毛先をくるくるさせるルイス。
その仕草は、いつものようなざっくばらんとした態度とは裏腹にとても女の子らしいものだった。
俺はついつい笑いを浮かべてしまうと、ルイスに右腕を差し出した。
「こっちで何とか引きつけておく。帰ったら、美味いもん食わしてもらうよ」
「おう。楽しみに待ってろ新人!」
にやり、不適な笑みを浮かべながら腕を交差させてルイスは主戦場となる広場に飛び出していった。
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