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「わたし。わたし、誰にも。見えないの」


 彼。ようやく喋りはじめたわたしを、ぼうっと、見ている。


「わたし。気が付いたら、ひとりでここにいて。ひとりで。わけがわからなくて。学校に来て。誰かに見つけてもらいたくて。学校が終わったら、夜通し誰かを探して。男でも女でも、とにかく、見つけて、ほしくて」


「はじめて会ったとき。殴ったり蹴ったりしてきたな」


「邪魔してきたから。はずかしくなって。それで。わたしも、わからない。なんで逃げたのか。どうして、はずかしかったのか」


「そうか」


「学校で、あなたを見つけたとき。どきどきした。はずかしかった。だから、声をかけられなくて。逃げた。逃げたの。わたし。わたしのことが、分からない」


「そうか」


「わたし。どうしたらいいか分からなくて。それで。あなたが。欲しかった」


「それは違うな」


 彼。わたしのいるベッドに腰かけて。


「欲しいのは、俺の身体じゃないはずだ」


 手を、握られた。


「こういうことだろ、たぶん」


 握られた手が。暖かくて。だんだん、じわじわと、温度が感じられてくる。


「うう」


 涙が。

 あふれてきた。


「ごめんなさい。ごめんなさい。わたし。あなたに。ひどいことを」


「身体は頑丈だから、殴られたり蹴られたりしても大丈夫だが」


「違うの。わたし」


 どう言葉にすればいいか、やっぱり、分からない。


「無理に喋らなくていい。何かを伝えようと、しなくていい。身体を求めなくていい。見えてるよ。大丈夫」


 この言葉が。それだけが、欲しかったのだと。心の底から。感じた。


 どれだけ、泣いただろうか。


 目覚めたとき。


 また、ひとりだった。


 彼はいない。

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