第41話 誘拐犯と勘違い探偵

「このパックをタダで貰っていいんですか? えっ、プロモーションで配っている!? ありがとうございます! 何が入ってるんだろーなー、ワクワクするなー。……ご主人様! カードのパックを貰えまし――うええ!?」


「ふぇふひゃふっぉひゃ!? はへふぇ!」


「むーん。ゆうかいは、だめ」


 クロンが呼んでいるようだけど、こっちはそれどころじゃない! 背負っているウルティに頬を物凄い力で左右に引っ張られている! 痛いし唇が裂ける! ていうか口が左右に開いてしまう!

 それにこれ、幼女の力じゃないぞ!? どう考えても大人に引っ張られているような力だ!


「うわー!? ご主人様の口が凄いことに! ウルティちゃんやめてください! 唇が4つになっちゃいます! やめてー! グロ注意です! レクタングル大広場が血みどろ展開に!」


「ひょ! ふうふぃひゃん! はひゃひっへ!」


「うんめいのひとがゆうかいはん……げんめつ」


 グイグイと絶妙な力で裂けるか裂けないかの寸前の力を入れられていて、痛みと怖さが同時にやってくる! なんてことをするんだこの幼女は!

 怪我するといけないから支えている手を放して無理矢理降ろすわけには行かないし、そんなことをしたら俺の唇は口裂け女みたいに上下に割れる!

 たまらず俺はクロンにヘルプを求めた。もう一人の力ではどうにもできない!


「ふほほ! へふふ! へふふ!」


「ウルティちゃんウルティちゃん! 待ってください誤解です! あんな暗いところで一人で寝てたら危ないので、警備員や騎士さんに預けられないかと……!」


「ひとはそれを、ゆうかいという」


「ひぃーん!? 反論できませーん!」


 ぐいぐいと伸びる俺の頬。強い力で離さず引っ張り続けるウルティ。もう駄目だよろしく四つの唇――と思ったその時だった。俺の騒ぎを見ていた人の中から、やっと助け船が来てくれた!


「ウルティ! アンタ何やっているのよ!?」


「……ぷろめ?」


 やっと俺の頬からウルティの手が離れた。今鏡を見たら絶対に頬は赤くなっているだろう。後で青くなったりしないだろうなこれ……。それより、助けになってくれた人にお礼を言わなければ。


 いつの間にか人の波をかき分けて目の前に立っていたのは、燃えているような赤い髪を持ち、それを後ろで一まとめにした大きなシニョンが特徴的な女の子だ。ウルティの言葉からこの人がプロメと見て間違いない。

 ウルティやクロンと同じ竜族であるのか、頭には黄色の角が生えていて、お尻のあたりからは赤い尻尾も生えている。

 だけど、背中から生えている翼はワシとかタカみたいなような気がする。ドラゴンというよりはキメラみたいな種族なのだろうか?


 笑顔の時ならくりくりとして可愛らしそうな黄の眼光は、目つきが悪いせいか鋭く俺を睨んでいるようにも見える。

 口も固くきゅっと結ばれていて、なんだか不機嫌そうだ。その顔つき通りに彼女はどこか警戒心があって――。


「いてて。えっと、あなたがプロメさんですか? すいません、このウルティという子を――」


「ぷろめ、このひとゆうかいはん」


「なぁんですってぇ!? アンタ、ウルティをさらって何をしようというの!? はっ、まさかここ最近のモンスター及び決闘者ブレイカー失踪事件の犯人はアンタ――」

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「はい? いや、誤解だ! それにこんな白昼でこんな目だった誘拐はしないぞ!? 俺はただこの子の保護者を探していただけで……」


「ふん! 犯罪者はみんなみーんな言い訳をするものよ! 騙そうったってそうはいかないわ! このアタシ、争闘コンフリクト探偵のプロメの目が黒い内は、どんな悪事も見逃さないわ!」


 なんてことを言ってくれるんだウルティは! 

 いや、明らかに誤解されそうな行動をした俺も軽薄だったけど、こちらの言い分を全く聞いてくれないこのプロメという女の子にも問題がないか!? あっという間に俺が大犯罪者みたいな扱いになっていってる!?


 そして探偵という、絶対に決めつけをやっちゃいけない職業についているのかこの人は……。


「えっ、何あの人。誘拐を企んでいたの?」


「あいつの背中にいる女の子、あの・・プロメといつも一緒にいる女の子だろ? ヤバい子に手を出してしまったな」


「俺、プロメに真っ向から争闘コンフリクトして勝っている犯罪者を見たことないよ……。本当に挑んだ人が犯罪者だったのかどうかは知らないけど」


「あのプロメって子、探偵というより喧嘩屋よね。推理するところを見たことあるけど、その時は大外れだっわ。犯人を捕まえる時の争闘コンフリクトはすごかったけど」


 周りの見物人がひそひそと話し出す。なんか無視できないことを聞いてしまった気がする。

 え? だとしたら俺はこのまま誘拐犯として捕まってしまうのか? クロムベルに着いた当日に?


「さあ卑怯者! 人質のウルティを解放しなさい!」


「いや急に被害者から人質にランクアップしたぞ!? ごめんウルティちゃん。この場を収めるために一旦降りてくれないか?」


「すぴー……すぴー……」


「寝てるし!?」


「うわっ、寝るの早すぎません!? この状況でご主人様の背中で眠るとかどれだけ眠たいんですか!?」


「くっ、解放しないのね!? ……さぁ、いくら要求するの!? 言っておくけど、その子を傷つけでもしたら、アタシはアンタを絶対に許さないから!」


「いくら!? 身代金の話になった!?」


 あれよこれよという間に話がどんどんと危ない方向へそれていく。プロメのあまりの剣幕に見物人たちも半信半疑の状態から、俺が本当に誘拐犯だと信じる人が多くなってきたみたいだ。

 これは本当にまずい! 勘違いで俺の転生後の人生が終わりそうになる! いや、誘拐したのは本当かもしれないのがやらかしてしまった感がある!


「ウルティ! そんな奴の背中で寝てないで、さっさと起きなさい! 晩御飯抜きにするわよ!」


「ごはん!? ごはん!」


「うわっ!?」


 ご飯の一言でウルティが俺の背中から無理矢理跳ねるように飛び降りた。そしてプロメの下にすがるようにとてとてと走り、今までに見なかったような慌て具合でプロメの服のすそをぐいぐいと引っ張る。

 なんだあの可愛い生物。こんな状況だけど和んでしまいそうになる。


「ぷろめ! ごはんぬきはいやだ! むり、わたししぬ! きちく! ぷろめの、おに!」


「冗談よ、きちんと帰ってきたんだからちゃんとご飯用意するから。……さぁて人質は奪還したわ! さっさとお縄につくことね! 世間を騒がせる凶悪誘拐犯! 今謝れば争闘コンフリクトで痛めつけるのはナシにしてあげるわ!」


「謝ったら、許してくれますか……?」


「無理ね! 痛めつけて凶悪犯罪者として警備に突き出すか、痛めつけないで凶悪犯罪者として警備に突き出すかよ。どちらが酷い目に遭わずに済むかわかると思うけど?」


「どっちも凶悪犯罪者じゃないか!?」


 ああ誤解した目撃者も大量にいるし、ここで突き出されたら完全に俺は終わる! どうすれば、どうすればいいんだこの状況!?

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