第27話 エンシェンテラー 深海よりの恐怖

 先行1ターン目はドロー無しのため、4枚の手札を確認してマシアスは一考した。

 どんなカードが来るんだ? できれば転生前のゲームで出ていた、こちらが知識を持っている奴がいいんだけど。


「僕のターン。じゃあ僕はノーマルスキルカード、手札絞殺てふだこうさつを発動するよ。僕は手札を1枚捨てて2枚ドローし、君は手札を2枚捨てて2枚ドローする」


「うっ、何でも捨てれる手札交換か。厄介そうなカードが来そうだな」


「クフ、フ。まあ君も交換できるんだし、ボーナスだと思ってくれよ。ただ君は手札の半分を交換しなきゃならないけどね。うん、僕はエンシェンテラー・オットイアを捨てて2枚ドローする」


「俺は手札の元素鉄英エレメタルスアクア・シールダーとウッド・ハンマーを捨てて2枚ドローだ」


 エンシェンテラー? これまた知らないカードが来た。

 多分、名前の由来は古代エンシェント恐怖テラーとかそういう感じだろう。だけど名前の由来を考えたところでどうにもならない。


 俺とマシアスはカードを2枚ドロー。これで手札を入れ替えつつも、その枚数は4枚から変わらずだ。


「さぁて、僕はエンシェンテラー・ハルキゲニアを召喚。コスト0だ」


 固く踏み慣らされた地面を突き破って現れた、奇怪な……虫!?


「ヒェ!?」


 そいつがどんな形をしているか確認するのも嫌になる! 俺は虫が嫌いなんだ! しかも、普通の虫とは違う狂気的な神話に出てきそうな姿形をしているし!

 ああ、相手の場に、場に!


 細かく見れば、ミミズにムカデのような足が何本も生え、背中側へ剣山みたいに針を何本も生やした暴力的なチューブ。

 ああ駄目だ! 苦手なもの程見てしまうというのはこのことだ!


――――――――――――――――――――

エンシェンテラー・ハルキゲニア

コスト

APアタックポイント2000

BPブレイクポイント

――――――――――――――――――――


「そんなに怖がらなくたっていいだろう? 可愛いじゃないか、ブヨブヨとしていて」


「可愛くねぇよ! というかブヨブヨは可愛いものを表す言葉じゃねぇよ!」


 感情などないように背中の針を前後へ動かし、チューブ型の体を左右へうねうねと揺らす、ピンク色体色のハルキゲニアという生物。

 ……駄目だ! 全然可愛くない! キモイわ!


「僕は召喚に成功したハルキゲニアの効果発動。デッキからもう一体のエンシェンテラーを墓地に送るよ。この効果でエンシェンテラー・ハーペトガスターを墓地に」


 パワーは低いけど、確実に布石を打っていく堅実な効果。パワーが低くて気持ち悪いのにいい効果しているな……。

 そして、もしかしてハーペトガスターとかいうモンスターもコイツみたいな気持ち悪い姿なんだろうか。見たくない!


「最後に2枚カードをセットしてターンエンド。さぁ、遠慮なくハルキゲニアを潰しておくれよ」


「潰すとか言うな! 体液が飛び散るところ想像したじゃないか!」


――――――――――――――――――――

マシアス 手札1枚 LPライフポイント

●モンスター

エンシェンテラー・ハルキゲニア

●スキル

伏せ2枚

――――――――――――――――――――


 明らかに攻撃に対して罠を張っているという布陣だ。ハルキゲニアのパワーは2000と低いけど、2枚も伏せカードがある。

 だけどあえて踏み込んでいかないと相手の防御手段を消費させることができない。ライフには余裕があるし、ここはあえて罠に飛び込む!

 

「俺のターン、ドロー! 手札1枚をコストに、元素鉄英エレメタルスサンド・バウンサーを召喚! APアタックポイント7000だ! そのままメインフェイズからバトルフェイズに入る!」


――――――――――――――――――――

元素鉄英エレメタルスサンド・バウンサー

コスト

APアタックポイント7000

BPブレイクポイント

――――――――――――――――――――


「ふぅん? 恐れず攻撃してくるんだ」


「その気持ち悪い虫に早く退場してもらいたいからな! サンド・バウンサーでハルキゲニアを攻撃!」


 砂と鉄で体を構成したゴーレムが、自身より半分も体長がないトゲトゲの虫に向かって拳を振り下ろす。

 倍以上のAPアタックポイントを持つモンスターの攻撃なら、そうそうカウンターは狙えまい。


 しかし、その拳は突如として透明な壁に阻まれ、その衝突面にエネルギーの火花を散らしながら止まってしまった。


「やっぱり防御か……!」


「ソニックスキル、ディヴォーション・ウォールを発動したよ。相手の攻撃を無効にし、お互いのデッキを上から3枚墓地に送る」


 前髪をかき上げてマシアスがニヤリと笑う。思い通りに事が運んでいるという顔だ。でもサンド・バウンサーが破壊されなかっただけマシか。

 だが、間髪を入れずにマシアスはもう一枚のセットカードを発動する。もう一枚は防御用のカードじゃなかったのか!


「もう一枚のスキルカードを発動、奈落の輝き。攻撃が無効になった時、お互いにカードを1枚ドローして1ダメージを受ける」


「お互いに? うっ!」


 瞬間。俺とマシアスの間の地面が俺達の皮膚を焼くように光を強く放つ。殴られることも蹴られることもない光による衝撃だけど、とっさに目を覆わなければならないほどに強烈だ。


 光が収まるまでの時間で俺は考える。どうもさっきからアイツが発動しているカードはデッキを減らすようなカードばかりだ。今のところは同じ速度で減っていってはいるけど、何とも不可解なカードばかり。

 何かが引っかかるけど、このチャンスを逃すわけにはいかない。


――――――――――――――――――――

朝陽   手札3→4 LPライフポイント6→5

マシアス 手札1→2 LPライフポイント6→5

――――――――――――――――――――


「俺はダメージを受けた瞬間、ソニックスキルのブラスト・ドローを発動! 効果ダメージを受けた時、もう1ダメージを受けることで2枚ドローする!」


「クフ、フフフ。さらに自分を追いこんでドローか。いいねぇ、そういうの好きだよ」


――――――――――――――――――――

朝陽 手札4→3→5 LPライフポイント5→4

――――――――――――――――――――


 よし、この引きなら次の相手の攻撃は防げる。

 ……いや、待てよ? 俺のデッキはもう既に半分ほどにまで枚数を減らしている。早過ぎじゃないか? まだ俺のターンは1回しか来ていない。ここまでデッキが減るなんてことは……?


 ――しまった! この勝負、早く攻めないと俺の負けになる!


「あれあれ? もしかして僕のやりたいことわかっちゃった?」


「俺はバトルフェイズを終了してメインフェイズ2へ。カードを2枚セットしてターンエンド!」


――――――――――――――――――――

朝陽 手札3枚 LPライフポイント

●モンスター

元素鉄英エレメタルスサンド・バウンサー

●スキル

伏せ2枚


マシアス 手札2枚 LPライフポイント

●モンスター

エンシェンテラー・ハルキゲニア

●スキル

なし

――――――――――――――――――――


 いや、焦るな焦るな。アイツのデッキが分かったところで、思い通りになっちゃいけない。冷静に奴の次の手を見極めるんだ。


 あいつの戦術とデッキは間違いなく……デッキ破壊だ!

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