第3話 ハズレア少女

「助けるって言ってもどうすればいいんだ? 俺、ブレイクコードではランキング上位だけど、この腕についている機械のこととかよくわからないし……」


 だが、この言葉にクロンはくわっとした顔で急接近。そして俺の手を掴んで、目の前へグイっと顔を近づけてくる。

 彼女の友達がピンチだという状況で不謹慎だけど、口を開くたびに見える八重歯が特徴的でカワイイ。

 そして近い近い! 手もさらさらとしていて触り心地がいいし!


「どこのランキングかは知りませんがブレイクコードのトップなんですか!? すごいです! これならリームを助けられます! 付いてきてください!」


「えっ!? ちょっ!? トップまでとは――」


 彼女は俺の腕を引っ張り、森の奥へ奥へとどんどん進んでいく。

 俺達はこれからリームという少女を助けに向かうのだろうが、悪人に立ち向かうことに対して怖くなってきたことは言ったら駄目だろうか……?


「あっ、そういえばまだ名前聞いてませんでしたね! もう一度自己紹介ですが、私はクロンです!」


「うー、俺は風間かざま朝陽あさひだ……」


「アサヒさんっていうんですね! ランキングトップになれるほど強いのなら、悪い商人なら楽勝ですよね! よかったぁ~。悪い人じゃなかったし、これならリームがカード化される前に間に合いそうです!」


 深く暗くなっていく森とは対照的に、どんどんとクロンの顔色は明るくなっていく。そして俺の顔色は青くなっているだろう。


 無理矢理手を振りほどいて逃げることは簡単だけど、クロンの友達を見捨ててしまうことになってしまうのは後味が悪い。できるなら助けてあげたい。

 だったら、相手の情報を――


「な、なぁ、友達を助けるっていうけど、なんか作戦とかないの? 相手が何人いるとかさ」


「何人かはわかりませんけど、アサヒさんの相手じゃありませんよ! もうケチョンケチョンのギッタンギッタンにやっつけちゃってください!」


 まずい、この子、アホの子だ! 戦略も何もあったもんじゃない!


「いや、戦うって言っても、どう戦えばいいのとか――この機械! 左腕についてるこの機械、これどう使えばいいんだっけ!?」


「わからないなんてまっさかぁ。面白いことを言いますねぇ! それの使い方と、ブレイクコードによる争闘コンフリクトの方法がわからない人なんているわけないじゃないですか!」


 頼む! 決め付けで思考停止しないでこっちの質問に答えてくれ!

 このままじゃ、何も知らないまま相手に挑むことに……


「私たちが襲われたのはこの辺ですね。えっと、私も竜族というレアな種族ですから、悪い人たちはリームの他に私も探しているはずです。ここからは静かに隠れながら進んでいきましょう」


 ……いや、襲われた所まで大声出して話していたのかよ! もうちょっと前から静かに進ませてくれ!


 マフィアの銃撃戦に躍り込んでいくような真似をしたせいか、もう俺は冷静に状況を分析できていない。

 今から俺は戦うことになるだろう。チュートリアルや頼もしいサポートキャラの助太刀とか、そういうのをくれ!


「むぅ、誰もいませんね。誰もいないのは誰もいないでマズいんですけど」


 そう不満げに語るクロン。一方俺は緊張感で喉が渇いてきた。

 心臓もバクバクといってきたし、気休めにクロンと何か話したくなってくる。

 そう思った先に頭に浮かんだのは、先程のクロンに対してのある疑問だった。


「なぁ、そういえばさ。さっき自分のことハズレアって言ってただろ? あれってどういうこと? カード化とかよくわからなくて」


「私はハズレアじゃな……! くないです……」


 尻尾をしゅんと下げ、ぽつりぽつりとクロンは自分のことを話し出す。

 先程は意味も解らずふざけられているのかと思ったけど、どうやら地雷な話題だったようだ。


「カード化の呪術のことは先ほどお話ししましたよね? 私は竜族でカード化の対象です。だから、分かるんです。自分がカード化された時のステータスと能力が」


 先程聞いたカード化の呪術。

 確か、カードを扱う決闘者ブレイカーが人間以外の生物と契約し、その生物をカードとして扱えるという世界にかかった呪いのことだ。


「普通は大抵のカードはメリットのある効果を持っています。私は訳あって2枚のカードになれるんですけど……その……どちらも大して強くなくて。というかどっちもデメリットぐらいで……私、種族としてはレアなのに」


「ゴメン、だいたいわかった。嫌なこと話させちゃったな」


 ファンタジー作品においてドラゴンやワイバーンなどの竜は、大抵の場合は強力で人間にとって恐怖の対象として描かれる。

 だけどその竜族|(にはあまり見えないけど)のクロンは、種族にとって低すぎる能力を持っていることがコンプレックスになっているらしい。


「いいんです。もうどうやってもひっくり返せないものですから。いらない私なんかより、早くリームのことです!」


 いらない私。その自虐の言葉が俺の心に引っかかる。本当に彼女はいらないと言われるほどに弱いのだろうか?

 俺はブレイクコードをやっている時期がそこそこあるし、彼女も助けてあげられないだろうか。


 と、その時だった。木の幹から男がぬっと姿を現したのは。


「やっと見つけたぜ。緑の嬢ちゃん」


 170cmはある俺の身長なんて優に超え、傷のある顔でむっとした表情の巨漢。

 何だコイツ。初めて戦うことになるだろう相手にしては強敵感が漂い過ぎじゃないか!?

 それに見た目はとても商人には見えない。さしずめ用心棒ってところか?


「あっ! アサヒさんあの人です! あの人とその仲間がリームと私を襲ったんです! ランキングトップの力でちゃちゃっと倒しちゃってください!」


「ほう? 助っ人呼んできたのかい。だったらな」


 目前に立つ巨漢は、腰から楕円だえん形の機械を手に取って左腕につける。それは俺の左腕についている機械と形が似ていた。


 続いて、ぽっかりとあいたそれの挿入口に巨漢のデッキが差し込まれる。

 そして水平に構えられた左腕の先に出る、カードを置くと思われる場であろうテーブル。あれと同じ事を俺もやればいいのか?


 俺の横でこくりとクロンは頷く。やるしかないと俺はつばを飲み込み、ベルトに付けられたケースからデッキを取り出した。

 やってやるさ、ブレイクコードでの勝負なら負けるわけにもいかないし!

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