王国ハイゼルと同盟関係に

「申し訳ありません、フェイ様」


 ユースが謝ってきた。


「なぜユースが謝る?」


「同じエルフの不始末です。大変申し訳なく思っております」


「いいんだ。同じ種族じゃない。他種族なんだ。だからこのくらいの軋轢考えれた。だから俺はそんなにショックは受けていないんだ。けどユースの事を諦めたわけじゃない。皆に認められる事を諦めたわけじゃない。無論皆に認められるなんて事はありえない。だけどそれでいいんだ。そういう連中を少数派にできるくらい認められて、それで、君と」


「フェイ様」


 俺達は見つめあう。


「っと、いけない。これからエルフ王との会議があるんだった。ユースも参加するよね」


「ええ」


「行こうか」


「はい」


 俺達はエルフ王のところへいった。


◆◆◆


「フェイ殿。それにユース」


 会議室にはシャロもいた。


「来てくれたか。それでは今後の事を話し合おう」


「ええ」


「まずは侵略戦争をしかけてきた大帝国への使者。これをどうするか」


「帝国の王子ルードは人質としての価値があります。帝王が自らの息子を可愛がればの話ですが」


「うむ。情がなければ自らの息子でも切り捨てる事はありうるな」


「ええ。その場合、人質の価値としてはあまりないと思います。ですが、王国ハイゼるはそうではありません。国王と宰相を人質にしております。彼等は表向きは同盟国という事になります。実際は属国ですが。引き入れる事は可能です」


「うむ。人間の国を同盟国――もとい、属国にするのか。大帝国の反感を買うかもしれぬが、それでも軍事力の強化、領地及び人員の増強には役立つであろうな」


「ええ。国王と宰相を連れて参りましょう」


「そうしよう」


 俺達はハイゼルの国王と宰相を連れてくる事にした。


 ◆◆◆


「な、なんですと! 我々を解放する代わりにエルフ国と同盟を組めと。その為に大帝国との同盟を破棄しろと」


 国王エドモンドは驚いていた。


「ええ。お願いしたいのです」


 ユースは語る。


「どうします? 国王?」


「大帝国フィンは強大な軍事力を持ってはいるが、それでも人間的に非常に冷たい連中だったからのぉ」


「…………………………」


「な、なんじゃ。フェイ殿。その顔は」


 人間を道具のようにこき使って、俺及び多くの鍛冶師をクビにしてきた国王が人間的に温かいとはとても思えはしなかった。まあいい、過去の話だ。俺は今エルフ国での境遇に満ち足りている。先日のような事はあっても、それでも総合的に見て良い環境だ。尽くすだけの価値はあると考えている。勿論ユースの事もある。


「それでいかがされますかな? ハイゼルの国王」


「断ったらどうなるのですかの?」


「また地下牢に戻って頂きます」


「く、くうっ。結局選択肢などないではないか。あの時と同じじゃ」


「しかし国王。エルフ国の方々の方が心が優しそうですぞ。美人揃いですし。同盟を組んでも大帝国よりはマシではありませんかの?」


「大帝国を敵に回すリスクは大きいが、打ち負かした時にはもっとマシな関係になるかもしれんのぉ。そうだの。選ぶ余地などないか。良いでしょうエルフ王、同盟お受けしましょうぞ」


「言葉だけでは足りませぬ。契約書にサインをお願いします」


「そうだの。そういうのは大事だの。しらばっくられてもたまらんだろうし。仕方ない」


 色々と書かれた書類に国王はサインをした。


「ほれ。これでいいかの」


「それで我々を解放してくれるのでしょうか」


「ええ。構いません。馬車を出します」


「ありがとうございます」


「ふう。これでおうちに帰れる。長かったわい」


「実際は一週間も経ってはおりません」


「しかしルード王子はまだ軟禁されている。良い気味だわい」


「ええ。酒も女もない中一日中ただ無為に過ごすのは大変苦痛でしょうて」


 国王と宰相は笑っていた。力関係から仕方なく服従していただけで、二人とも大帝国をよくは思っていなかったのだ。


 力による支配には限界がある。やはり相手への信用があってこそだ。


こうしてエルフ国は俺がかつて勤めていた王国。ハイゼルと同盟関係になった。


 実際は属国としての関係かもしれないが。これもまた大きな一歩だ。大帝国に対抗できるだけの力を得る為に。


 だが、もっとだ。もっと足場を固めないと。俺とユースの望む結末にはならないだろう。


 だがその為の大きな第一歩だ。その事に満足し、俺達はその日を終えた。

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