国王 エルフの国に使者を送る


フェイの居所の調査を始めてしばらく経った頃だった。


「国王陛下!」


大臣が王室に飛び込んでくる。


「なんじゃ?」


「なんとフェイ殿の居所がわかりましたぞ!」


「なんじゃと! 奴は! フェイはどこにいるのじゃ!」


「彼は今なんとエルフの国で鍛冶師をしているそうです!」


「なんじゃと! エルフの国じゃと!」


「ええ! エルフの国です」


「ぐぬぬっ。エルフの国に雇われているのか」


 これは大きな障壁である。相手はもはや無職のぷー太郎ではない。無職でないのならば引き抜く上でのハードルがあがる。無職であったならば待遇を少しよくしてやれば元の鞘に戻ると思っていたが。


「どうしましょうか? 国王陛下」


「ぐふふっ。エルフの国に雇われているからと言って、まともな待遇とは限らん。奴らエルフにとって我々人間は他種族だ! 我々の待遇よりももっとひどい条件で奴隷のように働かされているかもしれぬっ!」


「左様であります! 国王陛下! 落ち込むのは早いですぞっ!」


「そうじゃっ! まだ早いっ! 奴は奴隷のような過酷な環境で殆ど無給で働かされているに違いないっ! そんな中でわしらが以前の2倍! 3倍の賃金を出して来たらどうする! 労働時間も一日で10時間労働に改善させてやろう! 一週間に一回は休めるようにしてやる! さすればフェイの奴! 泣きついてまた働かせてくれと頼みこんでくるわい!」


「その通りであります! エルフの国がまともな待遇で奴を雇っているとは限りません! 他種族である人間を家畜のように扱っているやもしれませぬ!」


「そうであるならばまずはエルフの国に使者を送れっ! 早速わしと大臣でフェイのより戻しをするぞっ!」


「ええ! わかっております! 早速使者を送りましょうぞっ!」


 国王と大臣は早速エルフの国に使者を送った。


 ◆◆◆


「フェイ様」


 ソフィアだ。本を読んでいた俺に声をかけてきた。


「どうしたの? ソフィア」


「なんでも人間の王国から使者が来たようです」


「……王国?」


「なんでもフェイ様が以前働いていた王国の王様がどうしてもお会いしたいとの事で」


以前働いていた王国。俺は思い出す。以前の過酷な労働。贋作鍛冶師としてのまともではない待遇。そして俺をクビにした国王の顔。


「いかがされましょうか?」


「……断って追い返しても面倒そうだ。エルフの城まで案内してよ。直接お断りをするよ」


 その方がいい。しつこく使者を送られても迷惑だ。きっぱりと断った方が良い。俺はエルフの国での扱いに何の不満もないのだ。


「わかりました。そのように致します」


◆◆◆


「国王陛下!」


 王国での事だ。王室に大臣が飛び込んでくる。


「使者を送ったエルフの国から返答がありました! 我々がエルフの国を訪れる事が許可されましたぞっ!」


「おおっ! そうかっ! やはりフェイは奴隷のような境遇で過酷に扱われていたのだっ! 我々の王国に戻りたがっているのだっ! そんなフェイに今までよりまともな待遇を提示すれば、泣いてこちらにもどってくるぞっ! 元の鞘に戻るのだっ! これで何もかも元通りだっ!」


「万事解説ですなっ! これでっ! いやー! よかった! よかった!」


 国王と大臣は泣いて喜んでいた。ひとつだけ大きな勘違いを抱えていたが。


 こうして国王と大臣はエルフの国を訪れる事となったのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る