第51話 信じるため

人の話から生まれた信頼なんて、所詮上辺だけ。その言葉が、何度も頭をよぎる。実際そうなんだろう。人はいくらでも嘘を吐けるから、それがバレるかどうかはともかく一旦偽るのは簡単だ。けれどそれが正しいとは思いたくない。だってそれが真理なら、俺は幸も、翔も、おっちゃんも、他の誰も信用できないことになってしまう。

……正直昨日の夜から、みんなを見る目がどこか歪んでしまって仕方ない。そんな歪んだ視界に入ってきたのは……


「や、剛。なんか元気なさそうだけど、何かあった?」

「翔……」


翔だった。

これは聞いても良いのだろうか。そしてこの話を翔にしたとして、その言葉を俺は真っ直ぐに受け止められるだろうか。そもそも翔は本当に俺の味方なのだろうか。

……いや、疑うのは一旦やめよう。俺は今まで何度翔に助けられたか分からない。信頼出来るのが事実だけだとしたら、俺には幾度も翔に助けてもらった事実が確かにある。


「翔はさ、みんなのことどれくらい信頼してるんだ?」

「ん?……そうだなぁ。日常的な話なら全面的に信頼してるよ」

「日常的な面以外は?」

「ああ、僕にすればこれが日常だからね。多分剛が言うところの日常とはズレがあるんじゃないかな。でも多分そこはそんなに重要じゃなくて、ほら。僕はずっとここにいるから、みんなのことは概ね知ってる。でも君は?」

「……あんまり知らないかな」

「でしょ?人っていくらでも嘘を吐けるから、言葉を信じられないのは分かる。ならいっそ、その人の事を色々調べてみても良いんじゃない?その人の秘密を丸裸にするだとか疑わしいからだとかそんな理由じゃなくて、その人を信じるために」

「……え?なんで俺の考え見透かされてるんだ?」

「それくらい分かるよ。僕が何年、こんな簡単に人を信じられない世界に生きてると思ってるの」

「はは、本当に凄いよ翔は。同い年とは到底思えない」

「ありがたいけど、僕なんて全然だよ。時間がみんなとの信頼を作っただけ」

「でも、俺がみんなといた時間なんかほんのちょっとだ」

「だからその時間を埋めるために、みんなについて色々調べてみても良いんじゃないの?」

「それもそっか……ありがとな。ちょっとみんなと話してくる」

「うん」


翔との話を終え、俺は共有スペースを後にした。宛もなく拠点内を歩き回る。この拠点には共有スペース以外にも結構部屋があって、割と広い。俺はあまり利用しないが、ダーツとかビリヤード台、雀卓まで置いてあるような部屋もある。ただ、何人かはそこでしょっちゅう遊んでいるらしい。もしかしたら誰かいるかもしれないと思って、俺はその部屋の扉を開いた。


「……あれ?何か用でも?」

「ああ、ちょっとな」


そこには、ダーツを嗜む桜見の姿があった。

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