第45話 旅人の手記

「……そういえば、色んなことがあったなぁ」


ボソッと呟く。

今は十月も後半に差し掛かった頃。

幸と出会った日からだいたい二ヶ月半といったところだ。

まぁ、二ヶ月半と言っても俺の認識としてはそこから更に一ヶ月近く長いのだが。

その間に起きた色んな出来事が頭の中に蘇る。

恋をして、自分の命を失って、繰り返して、仲間と出会って、でも今度は仲間の命を失って……

俗に言う普通の人生とはかけ離れた、まさに波乱万丈と言える時間を過ごしているのだろう。

けど、これらはきっと俺にとってかけがえのない時間だ。

けれど、それも……


「いつか、忘れるのかもな」


今存在しているものは明確に認識できる。

けど、過去のものはいずれ風化してしまうものなのだろう。

もっとも、その思い出を風化どころかまるっと喪失してる俺が言えたことなのかは分からないが。


「そうだ」


忘れないように、これまでの事を書き留めておこう。

この間、余ったからと翔に貰ったメモ帳を開いて記していく。



……………


八月初旬


幸と出会った時期。

思えば、随分変な出会い方をしたんだな。

確か、幸が財布を失くしてて、黒ヶ崎に行きたくても行けなかったんだっけ。

幸の優しさを好きになったって前に自覚したけど、初対面だったこの時点でなんとなく仲良くしたいなと今考えれば思っていた気がするし、初対面じゃなかったような気がしたりもする。

……もしかして、一目惚れ?

それとも前世で知り合いだったりしたか?

まぁ、何でも良いや。

なんせ、幸と出会えたんだし。

その後はだし巻き玉子で苦しんだり、幸と暁の初対面だったりと、後者はともかく前者のせいでこの時も今も命の保証がないという状況は変わってない気がする。

幸の料理下手、自覚させてあげた方が良いんだろうなぁ……



八月中旬


翔との初対面も確かこの辺だ。

この時期は俺と暁、そして幸で遊んでることが多かったっけ。

あぁそうそう、うどん屋行って幸に


『剛のうどんより美味しい!』


なんて事を言われたっけ。

いや、だって相手はうどん作りのプロだもん、プロフェッショナルだもん。

だから、勝てなくたって仕方ないもん。

……今度うどん作るの練習しとこ。

そして、突然いなくなった暁。

今でも時々メッセージを送ってみるけど、既読すら付かない。

暁、何やってんだろ。



八月下旬


そう、あの祭りがあった時期だ。

一回ここで死んで、その時幸に告白したんだ。

俺はこの時幸への好意を自覚したけど、自覚したのがあの時ってだけでいつから幸の事が好きだったんだろう。

分からないけど、俺の想いに幸は応えてくれた。

それを聞けただけで、俺としては満ち足りてたんだけどな。

俺は幸運なことに、同じ時間を繰り返すチャンスを貰えた。

それであの祭りを生き延びた今も思うことがある。

幸は、俺の事を好きでいてくれてるのかなって。

……まぁ、気にしてもしょうがない。

この時期には、本当によく分からない謎が二つも一気に起きた。

一つは俺の今際の際、俺と敵との間に割り込んできた人物のこと。

そして、イブキのこと。

色々あってこれに考えが回らなかったが、よく考えれば何よりの謎だ。

まず俺が死ぬ寸前現れた人物。

その時の事を思い出してみる。

その時はそんなこと考えてられなかったけど、女性っぽい声だったように感じる。

でも、俺を助けたのかと言うとどこか違う気もする。

あの時点で俺が死ぬのはほとんど確定していたようなもの。

何か、別の目的があったのだろうか?

分からない。

ただ恐らく言えるのは、その人物はコーストとレボルブのどちらにも所属していないが、かと言ってどちらに敵対するでもない。

そんな中立に近い存在であるということだ。

……いや、待て、本当に中立か?

何の目的もなく戦闘……いや、まぁ戦闘と呼べるような代物じゃなかったけど。

まぁ、それに目的も持たずに割り込んでくる理由があるか?

ということだ。

俺たちが全く知らない、第三勢力の可能性は?


……やめておこう、埒が明かない。

別の事を考えていこう。

イブキについては、本当に何者なんだろう。

俺がイブキと出会ったあの場所。

あの真っ白な空間は、イメージだが天国のような印象を受けた。

俺が死後あそこに辿り着いたのも天国というイメージに拍車を掛けている。

そして、イブキは俺が死んだあの世界での出来事を把握していた。

自己紹介を求めてきた事は、本人確認だと認識しておこう。

そんなイブキのヒントに従った結果、俺は夏祭りを生き延びてここにいる。

ありがたいなんて言葉じゃ済まされない奇跡だが、それでもイブキの言葉が引っ掛かる。

それは俺に繰り返す権利があると言った時の一言。


「そうして貰わないと困る……」


これは明確に、俺のタイムリープが何かしらイブキにとって利益を生むということだろう。

そしてそれがどうしてなのかは、いずれ分かると。

……引っ掛かるけど、今はそれを信じるしかないな。

何しろ、今俺からイブキを疑う意味はない。

この辺は濃密過ぎたからか長くなり過ぎたな。

次はちょっと短めに纏めようとしてみよう。



レボルブ加入以後


翔、桜見、新雲、望月、端寺さん……そして理仁。

ここで新しく出会った仲間たち。

望月とか特に新雲とはそんなに喋れてないけど、仲良く出来なさそうとは思わない。

おっちゃんがここのリーダーだったことも驚きだ。

しかし、まぁ。

ここに来てから失ったものも得たものもあった。

俺はこれまでの日常、仲間の命を失った。

でもそれを代償としてか、きっと幸をそれなりに守れる程度の力は得た。

もう今度こそ、戦うことは躊躇しない。

他者から奪うことを恐れたら、奪われるのは俺だから。

人でなしと言われたって良い。

幸のために、俺は戦う。

例え俺がかつてレボルブの構成員だろうと、今の俺は。

この大風剛は、穂ノ原幸を愛する大風剛は。

その時の俺とは違うんだ。





……………………




愛する者を守る誓い。

その明確な意思は、彼を強く突き動かす。

が、それは果たして何のための意思なのか。

その本質は……


「そりゃあ、まだまだ見えないよね。……再会は、近いかな?」


クスッと笑う。

彼の幸せは無論望んでいるが、仮に失敗するのならばそれは僕の目的にも利用させてもらう。

あと、何百回?いや、もっと必要かな?

まぁいい。

これまでも気の遠くなるような時間を掛けて来たんだ。

今さら、こんなとこで止まらないさ。

彼女と、約束したんだから。

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