第32話 自分に挑む
「そんなわけ……ねぇだろ……」
「僕だってそうじゃないと思いたいし、あくまでこれは仮説の話だよ。……でも、残念ながらそれ以外には考えられない」
それ以外考えられないことを頭では理解していながらも弱い反論をする。
でも翔は冷静に俺に現実を知らせた。
「だとしたら、俺はどうなる?裏切り者ってことになるのか?」
「いいや、そうはならないよ。そうであったとして、それは君自身ですらも忘れている過去の話。それに剛が僕たちに牙を剥くメリットも、それだけの力も今の剛にはまだない」
「うぐっ」
痛いところを突くな…
「ただ剛がそれで意識を失う原因も不明瞭だし、危険であることに違いはない」
「それ取り除く事って出来ないのか?」
「それはあくまで体内に仕込まれるものだから、取り出すのは難しいね。僕もそれなりに医療技術は修めてるけど、そんな未知の物を体内から取り出そうとするのは流石にリスクが大きすぎる」
「じゃあ俺はどうすれば良い?」
「どうにかしてそれを制御する術を見つけるくらいしかないね。大変でどうすれば良いのかも分からないかもしれないけど、能力とは別の独立した身体能力を強化出来る物なんだ。使いこなせればきっと大きな武器になるはずだよ」
「それもそうだな」
「そうと決まれば早速訓練だ。制御の術がないなら試して見つけるまで!」
立ち上がって伸びをする翔。
そういえば翔の事で気になっていた事がある。
「なあ、翔」
「どうしたの?剛」
「最近カケル出てこないけど、どうしたんだ?」
あの戦い以来、カケルが出てこないのだ。
前は訓練の時やそれ以外の日常でもカケルと翔が法則性もなく切り替わりながら過ごしていた感じだが、最近は常に翔が出てきている。
それに翔は、ちょっと悲しい顔をしてから。
「……カケルは、うん。大丈夫だよ」
分かりやすい作り笑顔で誤魔化す翔に、俺は声をかけられなかった。
…………
「とりあえず気合いでどうにかしてみよう」
「頭脳派とは思えない脳筋な解決策だな……」
「何も分からないんだし、科学にも物にも頼れないなら後は根性でどうにかしようとするしかないよ。そこから見えるものもある」
「何か凄い説得力だな」
「へへ、どうも。それじゃあ始めようか」
「フーーッ……」
深呼吸。
息を整えて心の準備をする。
訓練の前にはいつもこうやって気持ちを整理して臨む。
「……用意が良いなら、早速始めるとしようか」
「ああ」
「あ、そうだ剛」
「どうしたんだ?」
「枯葉に蕎麦の作り方教えたのって剛でしょ?ありがとう。美味しかった」
「今言うのかよ」
「言うタイミング見失う前に言おうかと」
「今そのタイミングではねえだろ……」
「まあどうだって良いじゃない。始めるよ!」
「おう!」
力を入れて、意識を保とうとする。
だが俺はそれに抗えない。
辛うじて以前より少し長く意識を保てた俺が感じたのは、自分の足で地面を蹴ったとは思えない速さだった。
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