第30話 閑話その1 大風先生のお料理教室

翔が目覚めてから数日後の深夜。

たまにあることだが今日は眠れず、かといって部屋にいてもやることがないので適当に共有スペースでくつろいでいると。


「あっ、大風」

「桜見?何してんだ?」

「いやー、ちょっとね」


両手人差し指の先端と先端をちょんちょん突き合わせて何やら言いにくそうな様子だ。


「あ、そうだ。大風料理得意よね?お願いしたいことがあるんだけど……」


そう思ってたら今度は何やら思いついたようで、俺に耳打ちしてくる。


「……あー、なるほど。翔のために料理をしたいから教えてくれと」

「復唱せんでいい!!」


やめて、耳元で怒鳴らないで。

それにしても何で?と思ったが、そこから桜見が翔に抱く感情を理解するのにあまり時間は要らなかった。


「とは言っても何を教えれば良いんだよ。料理って言っても色々あるぞ?」

「そうね……蕎麦が好物とは言ってたけど」

「すっげえDestiny」

「ネイティブに言おうとしなくて良いから、絶妙に言えてないし。てか何でDestiny?」

「得意なんだよ、蕎麦」

「なるほど、そりゃDestinyね」


言えてなかった?

嘘、俺なりにネイティブ感頑張って出したのに。


「でもいつまでやるんだ?」

「あたしは徹夜で全然大丈夫だけど、大風がそういうわけにいかないでしょ?」

「安心しろ、今日は余裕だ」

「ホント?じゃあお願いできる?」

「任せとけ」


かくして大風先生のお料理教室。

……もとい、友人同士をクッキングを通じてくっつけちゃおう作戦at perfect。

略してY(友人同士を)K(クッキングを通じて)K(心を通わせ)A(愛を育もう)P(project)が始動したのだった。



そこからしばらくの間、俺はほぼ毎晩桜見の練習に付き合っていた。

徹夜したのは初日だけだがそれ以降もかなりの時間やっている。

それにしても桜見、誰かさんと違って筋がいい。

誰かさんとは違って。

色々把握するのもコツを掴んだりするのも早くて教える側としても中々にやりやすい。

一週間を数える頃には、まだまだ俺には流石に及ばないながらもかなり良いものが仕上がっている。

多分これが普通に家庭で出てきたらかなり喜ばれるだろう。

というか俺だって夏休みの間だけでも食堂を任された身だ。

抜かれては困るしそうなったら流石に泣ける。


「もう良いんじゃないか?翔絶対喜ぶぞ」

「ホント!?」

「嘘ついてどうする。おめでとう」

「やった!ありがとね!大風せんせ!」

「ははは、敬いたまえ奉りたまえ」

「いやそれはちょっと……」

「え、この流れで普通に引かれるとかある?」

「まあいいじゃない。それじゃあ明日の昼、翔に作ってみるわ!」

「おう、頑張れ」


ハイタッチを交わす。

ここにきっと、多分、恐らく。

新たな師弟の絆が誕生した。

……YKKAP(友人同士をクッキングを通じて心を通わせ愛を育もうproject)、完遂!!

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