第15話 新たな流れ

「こんにちは」

「こ、こんにちは…」


普通に挨拶された。

雰囲気でなんとなく分かる、この人絶対いい人だ。

というか、同年代?


「あなたは?」

「俺?」

「そうそう、自己紹介です」

「は、はぁ」


なんか距離が近い。

俺は知らないし、向こうの口ぶりから察するに俺が記憶を失う前の知り合いとかでもなさそうだ。

とりあえず自己紹介だ。


「大風剛です」

「なるほど、剛」

「そっちは?」

「僕は鍔越翔つばごしかける

「17です」


あ、同い年なんだ。


「俺も17です」

「じゃあ同い年?」

「はい」

「なら敬語は良いかな」

「そっちの方が気楽だし」

「よろしく」

「よ、よろしく」


速い速い、ペースが速い。

仲良くしようとしてくれてるのは確かなんだしこっちもそうしたいんだけどさ、速いわ。


「もうちょい話してたいけど、そろそろ行かないと」

「用事でも?」

「うん、ちょっとね」

「連絡先だけ渡しとくから、なんか困ったことがあったら連絡してきて」

「…呼んでくれれば、命の危機くらいなら救ってみせるよ」


唐突に用事があると言って連絡先を渡してきた翔は、去り際に小さく囁いた。


「え?」

「じゃあね!」


俺の疑問が晴れる事はなく、原付に乗って去っていった。

って言うかさ…


「あの原付、なんか速くね…?」


原付ってあんな速度出るんだ…



………………


「ただいま」

「おかえり!」


帰宅し、家へと入る。

すると、美味そうな香りが漂ってきて…

…ん?何故だろう思い出したくない記憶が


「ちょっと遅いから、オムレツ作ってみたんだ!」

「あー…」


脳裏で存在感を放つひとつの記憶。

それは、あの地獄のようなだし巻き。

今回はオムレツか…

前回はこんなことなかったけど、翔と話す時間が生まれたせいで幸がオムレツを作ってたのか。

恨むぞ翔この野郎。

とまぁついさっき初対面の友人(?)に恨み言を吐きつつそのオムレツとご対面。


「美味そ」


これは紛れもない本心である。

実際に美味いのかはともかくとして見た目とか香りとかは本当に美味そうだからだ。

実際に美味いのかはともかくとして。


「召し上がれ!」

「いただきます…」


パクっと一口。

待て、待て待て待て待て待て待て待て待て。

何混ぜたの?

何混ぜたらこんな味になるの?

醤油に角砂糖溶かしたみたいな味してるよ?


「あ、味付けは…?」

「卵だけも寂しいなって思って」


幸は調味料入れとコーヒーが入ってる棚からおもむろに何かを取り出して…


「じゃん!角砂糖と醤油を混ぜてみたの!」

「そのまんまかよおおおおおお!!!!!」


肝心な祭りの日を前に命の危機に瀕したのは言うまでもない。

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