第8話 黒ヶ崎祭り

「ねえ、剛!」

「ん?どうしたんだ幸」


突然かなりの勢いで話しかけてくる幸。

テンション高いことは割とあるけど、ここまでハイテンションなのは中々ないから少し注意をして耳を傾ける。

新作料理とか言い出さないだろうな…?

しかしその口から発せられたのは意外な一言だった。


「夏祭り行こっ!!」




ーーーーーーーーーー



「夏祭りってなんでそんな急に」

「確かに明日は祭りだけど…」


それはそうだが、暁が来ない今年は行く予定がなかった。


「暁君は来れないけど、二人だけも楽しいかなって」

「まぁ確かに、二人で遊びに行くのも楽しいからな」


暁と連絡がつかなくなって以降、俺たちはよく二人でどこかに行くようになった。

事実それは寂しさこそあれどとても楽しいし、祭りに行く提案も嬉しいものだった。


「分かった、じゃあ明日行くか」

「やった!!」


そういうわけで、俺たちの夏祭りが決定した。



ーーーーーーーーーー



「剛!早く行こっ!」

「おう、おまた…せ…」


いざ夏祭りへ赴かんと玄関へ向かった。

そこには先に準備を完了させていた幸がいたのだが…


「どう、似合う?」

「あ、あぁ…」


どこにあったのか浴衣を出して身につけていた。


「まあ、似合ってる…んじゃないか?」


嘘ですめっさ可愛いです。


「えへへ、ありがと」

「じゃあ行こっか」

「だ、だな」


神社に到着するまではずっと落ち着けなかったが、到着するくらいのタイミングでようやく納まり、とりあえず二人で屋台を巡っていくことにした。

てか俺は私服で大丈夫なのか…?




「はへひはほ」

「箸巻き食ってから喋れよ、は行しか発音できてないぞ」


言われて幸は箸巻きを飲み込む。

そして向こうの屋台を指差しながら。


「射的やろ」

「おっ、射的か」


幸が指し示したのは射的の屋台。

俺も射的はやったことがないので興味はあった。


「よっしゃ、景品全滅させてやろうぜ」

「オー!」


「おー、いらっしゃい!」


屋台の人が俺たちを迎えてくれる。

THE・いい人みたいな印象だった。


「じゃあ、私が先やっていい?」

「おう、どうぞ」


スカッ


「あちゃー、外しちまったか」

「まだ弾はあるよ!」


スカッ


「…ま、まだ練習だよ!」


スカッスカッ



穂ノ原幸、全滅。



「なんでぇ…」

「じゃあ、次は俺か」

「さ、倒せるかな?」


こういうのは倒せるケースの方が少ないという。

だが、何故か倒せる気がした。

だから俺は宣言する。


「よし、四発であの帽子落とす!」

「言ったな?やってみろ!」


まずは一発目!


…ここだ!


コツン


初弾から上手いこと命中。

幸先が良い。

この感覚であと三発当てればギリギリ落とせそうだ。


「おっ、やるね!」


そして二発目三発目!


コツン


両方クリティカルヒット。

よっしゃ、ラスト一発!

流れも良い。

絶対落とせる。

そのはずだった。

屋台のお兄さんが、変なことを言わなければ…


「ところでお二人さんはさ」

「付き合ってんの?」

「え…」


スカッ


「……あ」

「…なんかごめん」


外した…外してしまった。

てかあの人が変なこと言うせいで顔真っ赤じゃねぇかどうしてくれんだよ。


「ありゃ、ドンマイ剛」


そして慰めの言葉をかける幸の顔も、心なしか赤いような気がした。





ーーーーーーーーーー

































「じゃあ、帰るか?」

「だね!屋台もだいたい回れたし」

「あ、ちょっと」

「花火は見ないんですか?」

「え?花火とか上がりましたっけ」

「えぇ、上がりますよ」

「そりゃあもう…」

「とびきり綺麗なもんがねぇ!!」

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