オン・パレード

 最初の戦いは、山に入った初日のさらに始まりだった。

 挨拶代わりにイェルダントのつがいが二頭、隊を横殴りにするように攻撃してきた。

 さらに上空からはアンドルゴンの番が二頭来て、火炎弾を吐き散らす。

「分散し、攻撃せよ!!」

 一応は命令するが、精鋭せいえい部隊だ。

 多少の損害が出ても、乱れずに各班を構成し、戦う。それは番程度の連携の比ではない。

 イェルダントは何発か巨弓きょきゅうで攻撃すると逃げていった。上空のアンドルゴンも弓兵が狙い撃つと、追い払えた。

 怪我人を介抱かいほうしながら、食事を取る。

 遠征隊えんせいたいは厚手の革袋に入れた水を飲み、干し肉を食べる。

 大怪我を負ったものは、巨弓の上に載せて運んだ。始めからこうなることを見越して、遠征隊の巨弓には人や物を載せて運びやすいように改良がなされていた。

 誰も見捨てないという連携は、何よりも強固な軍事力であった。

 三日目。

 対の最前列を指揮するイェードが白いつるを見かけた。珍しく不覚をとり、得物の一つであるファングボーンをその動く蔓に絡め取られてしまった。

「まさか、イモートだと!!」

 どうやら寒冷種らしい、白い脚をしている。

 山にある森林の奥深くに、その本体が居るようだ。

「持久戦を考慮せよ!!

 巨弓で陣形を組め!」

 イェードが腰の、骨を薄く加工してできた長剣を抜いてイモートのあしを叩き切る。

 ひるんだそのすきを見て、イェードたち最前列が一時撤退。

 巨弓に弓が用意され、周囲を覆う脚の群れを攻撃していった。

「奥に本体が居るわけか」

 中枢ちゅうすうに居るアザトが、興味深げに言った。

「巨弓を貸してくれ」

「え、しかし。よろしいのですか、王よ」

「なんとなくわかるのだ。貸してくれ」

 言葉の意味を図りかねた部下の軍人だったが、強引にその場にある巨弓を借りられてしまう。

「脚だか触手しょくしゅだかの動きからしてこんなところか」

 まだわからない軍人たちだったが、射角をかなり上げていることからして、遠くを狙っているのは明らかだった。

「この位置だ! 放て!」

 狙いをつける役目を果たした王の謎の厳命と共に、残る二名の発射がかりによって矢が放たれる。

 その矢はイェードのはるか頭上を抜けると、確かに何かに突き刺さった。

 その後、アザト曰く『脚だか触手』がとてつもなく暴れ狂い、動きが相当に弱まっていく。

「弓は得意でな。

 これだけ判断材料が多ければ、最終位置を把握するのは難しくない」

 得意とか、そういう領域の話ではなかった。

 アザトは推定により本体の位置を厳密に探り当て、直接見もせずに射抜いたのだ。

「わかってはいたが、イモートより遥かに恐ろしいな」

 イェードつぶやくと念のため、さらに巨弓隊の一部を引き連れてイモート本体にトドメをさした。

 イモートはようやく動きを止め、さらに進軍を続ける。

 雪が強まってきた。

 それどころか先ほどまで晴れ晴れとしていた空に暗雲が立ち込め、稲妻いなづまが走るようになった。

 とてつもなく荒れた、猛吹雪もうふぶきである。

「なんだ、ただのボルテクスか」

 イェードは呆れたように言った。

 いくつか巨弓が放たれると、すぐに吹雪は止んだ。

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