第十二話【みんなでゲーム】

 俺、立花愁たちばなしゅうは皿を洗い終えたので、幼馴染の須藤瑞希すどうみずきらがいるテレビの前へと来た。


 うちのテレビは60インチの液晶テレビ。四人で遊ぶ分には、十分な大きさと言える。

 その下のテレビ台を父さんが漁り、手馴れた手つきでゲームの用意を進めていた。


「どんなゲームするの?」

「今日はこれだよ。」


 瑞希の疑問に、彼女の父親かなめさんがソフトケースを持ち上げて答える。

 要さんが持ち上げたのは、様々なゲームのキャラクターを吹っ飛ばして遊ぶ、愉快なアクションゲームだ。

 このゲームは同い歳である父さん達が中学生の頃……つまり30年ほど前に発売したゲームだけど、今でも人気があるらしい。


 ……けれど。


「これ、要さんが無駄に上手くてゲームにならないのでは?」


 昔、父さん含め三人でやったのだけど…父さんと俺を抑えて要さんはブッチギリになっていた。

 どうやら昔、結構やりこんだらしい。そりゃあ手に負えないわけだ。


「お父さんがゲームするのって本当に意外だよね〜」


──今も昔もお母さんと一緒に本を読んでるイメージしかないなあ……


「昔はしずくさんとよくしていたよ。だけど、本の方が好きだったから、瑞希はそっちに持っていかれたらしいね。」


 それは俺も初めて聞いた。初めてゲームをする時も驚いたけど、まさか夫婦揃ってとは。


「準備出来ましたよ!要さん!」

「……あれ?なんで敬語?」

「そりゃあ要さんが社長、俺が部長だからだよ」


 そう。要さんと父さんの関係はそういう感じだ。それだと交友関係や、呼び方とかに違和感があると思うかもしれない。しかし……


「別にタメ口でもいいって言ってるのにね。」


 苦笑しながら要さんは言った。

 そう、要さんが堅苦しいのがかなり苦手なのだ。


 さすがの父さんも以前は『社長』と呼んでいけど、『隣だから。』と頑なに拒否されていた。

 なので今は仕方なく「要さん」になっている。それでも、要さんに対してさすがに敬語は外せないでいる。


──そういえばお父さん社長だったっけ……


「お父さんって社長だったの忘れてたよ」


 ……さすがに父親なのだから、自分が''社長令嬢''なのは覚えておいた方がいいのではないだろうか。

 まあ、たしかに家はごく一般的なものだったけど。


「別に覚えてなくてもいいよ。そこまで大きくないしね。」

「でも要さんはもう少し社長としての自覚持った方がいいと思いますよ!ま、それも尊敬される所だと思いますけどね!」


 まあ、それは父さんの言う通りだ。俺も密かに要さんのことは尊敬している。……身長が高すぎて少し怖いけど。


「まあそんな事はさておき、早速やろうか。はい、瑞希。これがコントローラーだよ。」

「うん。…をえぇっと……これ、どうやって持つの?」


 コントローラーを上下逆に持ちながら首を傾げる瑞希。なんとも微笑ましい。

 要さんが苦笑しながら操作方法などを説明しているので、俺と父さんは先にゲーム画面を進めておく。


「父さん、バランス的に流石にチームか?」

「そうだな〜……分けるなら親子か?」

「そうだな」

「僕もそれでいいと思うよ。」


──……しゅーくんと組みたかったなあ…


 三人の中で1番弱い俺を指名されても困るものだ。さすがにスルーしてチームを分ける。

 まあ、次は一緒にやってやろう。


「これでいい?」

「うん。」


 説明が一通り終えたらしいので、俺たちはキャラクターセレクトに入る。


 父さんと要さんは迷わずメインに使っているキャラを選んだ。おいおい、瑞希がいるのに……

 俺と瑞希は少し悩んだものの、直に決まり俺&父さんVS瑞希&要さんの試合開始だ。


 今回俺が選んだのは、前に使って面白かった波動の戦士(モンスター)だ。

 瑞希が選んだのは、『可愛いから』という理由で、原作のタイトルに名前を使われているのに主人公ではない姫。

 父さんはたくさん爆発させる蛇(人間)。要さんは原作主人公の両親を〇す化け物。


「……私しか女の子いないじゃん」


 瑞希が開始前のキャラが一斉に出てくる画面でそう言った。

 だけど、現実世界でも女の子1人しか居ないため、なんとなくどっちのことか分からないふりをしておく。


 …しかし、ゲームの方で要さんが使ってるのは設定上、性別不明であるらしいためメスの可能性はあるにはあった。

 まあ、言葉にしてツッコまないでおくが。


 試合開始。そして早々、まさかの父さんが爆弾を撒き散らして、自分諸共爆発していた。


「おい父さん。その攻撃、味方にも被爆するんだけど?」

「それならいいじゃないか!お前のキャラはダメージを受けるほどパワーが上がる!相性ピッタリだ!」


 それでも吹っ飛びやすいキャラだから、できるだけ自傷はやめて欲しいんだけど……

 あ、因みに俺は1番弱くはあるが知識は3人の中で一番あったりする。

 それによって得たテクニックで、1番弱いのを誤魔化す。


「愁くんも中々やるじゃないか。空中の慣性を無効化されると反応が出来ないよ。」

「……今どうなってるの?」


──私のキャラクター……どこ?


 何気に要さんに守られているからか、戦闘に参加していないからか。1番有利である瑞希が<カチャカチャと>と乱雑にコントローラーを動かしている。

 まだ操作に慣れていなくて、どうすればいいか分かっていないらしい。微笑ましい。


「よし、そこだ。」

「うおぉ!?」


 二人同時に狙って、強いコマンドを要さんが使う。

 俺はなんとか交わすことが出来たけど、動きが比較的遅い父さんのキャラは交わしきれなくなり、無惨にやられてしまった。


「すまん愁!」

「任せてくれ。味方が居なくなれば俺のキャラクターは更に強く──」

「こう?」


<GAME SET!>


 瑞希の空中攻撃がクリーンヒットし、ダメージが溜まっていた俺はやられてしまった。知識を活かすチャンスだったのに……


──やったあ!しゅーくんを倒した!


 まあ、嬉しそうにしていた瑞希を見れば悔しくはない。寧ろ嬉しさがうつった。


「フラグ回収が早いなぁ愁!」


 ……とりあえず父さんは無視しておいた。今日の晩飯は抜いてやろうかな。



 □



 要さんも瑞希の願望は分かっていたらしく、しばらくやっていたら子供VS父親のチーム戦をしていた。

 瑞希は嬉しそうにキャラを動かし、空中攻撃を何度もクリーンヒットさせて父親らを葬り去って言った。


「瑞希も強いね。」

「そうですね……そろそろキャラクターを変えてみます?」

「そうだね。」


 何気に俺以外キャラクターを変えていないから、少しだけ飽きていたところだ。瑞希がいなかったら直ぐに抜けていただろう。


 キャラを選び直し、試合開始。


 今回の俺は、遅い動きの瑞希のキャラの弱点を補うため運命を変える剣士にした。瑞希は先程から変わらずだ。

 父さんは瑞希の使うキャラの原作の主人公、要さんはそのボスを選んだ。


「……何故俺以外シリーズが同じなんだ?」

「おや?じゃあ愁くんを集中的に狙おうか。」


 瑞希の調子の良さを見て本格的に1番弱い俺を?勘弁願いたいものだ。


「安心してしゅーくん!私が守ってあげる!」


 なんとも勇ましい幼馴染だろうか。逆に守ってやりたくなり、俺は鼻から強い息を吐く。


 幸いにも俺の使うキャラ以外動きが遅いキャラなので、瑞希の飛び道具を補助にドンドン翻弄していく。

 しかし、判定が持続する攻撃を軸に、父さんたちが持ち前のパワーで崩してくる。


 俺はダメージが比較的稼ぎやすい翔んで流れて斬る技を、何度も使う。

 そして瑞希が隙をついて、空中攻撃をクリーンヒット。

 先程から思っていたけど、俺たちのコンビネーションは完璧じゃないだろうか。


 瑞希も操作に慣れてきていて、それに磨きがかかっている。




 □



「強いなあ二人とも。相性バッチリじゃないか。」

「えへへ……」


──しゅーくんと上手く連携できた……嬉しいな……


 試合結果は俺たちの圧勝。そもそも瑞希の飛び道具で動きにくそうだったのもあるが、コンビネーション力で差をつけた。


「じゃあ、もう夕方だしそろそろ帰るよ。」

「え?……ほんとだ!?私も帰るね、しゅーくん!」

「了解です!」

「わかった」


 ゲームを中断して玄関に向かう。二人が靴を履いて、扉を開けた。


「……しゅーくん、明日って暇かな?」

「うん、暇だけど」


 モジモジとして瑞希がそう切り出した。用件はわかったし、ついて行くつもりなので瑞希を促す。


「えっと……明日買い物に付き合ってくれない?」


──頷いてくれるかな……


 ……何故そんなに緊張しているのだろうか?

 瑞希は荷物持ちで連れていきたいと、俺は勝手に思っているんだけど……


「おう。いいぞ」

「ありがとう!じゃあ明日10時に駅前の噴水で!」


 瑞希がそうまくし立てて急いで出ていった。え?噴水……?


──デート…をデート……


 その声が聞こえてきた瞬間、俺の顔が熱くなる。そういうことか…


「お、いいね。行ってらっしゃい。」

「明日の昼飯は母さんのか〜……楽しみだな〜?」


 二人がニヤニヤした顔で俺を見てくるので、俺は顔を背ける。父さんは先程のことはもういいのだろうか……


「じゃあ、今日もありがとうございました要さん。また来てください!」

「こっちこそありがとう。また来るね。」


 そう言って要さんは家を出ていった。俺はニヤニヤした顔を仕舞わない父さんを睨み、晩飯を作るためキッチンに向かった。

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