第7話罪

「なっ!? 確かに手応えがあったぞ!? スキルを使ってないとはいえ」


 一歩下がり、四人は互いの顔を伺っている。リガルはその間に、相手の武器種をしっかりと見た。片手斧が一人にロングソードも一人、弓が二人。


「手応えは、あるに決まってるだろ。間違いなく、その剣は俺に触れてるんだから」

「触れたなら、防御力が低いとされる最弱職が、高攻撃力を持つ前衛職の撃を食らって無傷なんだよ!」

「そんなん、ただ単にお前の攻撃が俺にダメージを与えられない程に弱いだけだろ」


 両手を広げ、鼻で笑ってみせると地面が揺れる。


「バカにしやがって!! おい、連携でいくぞ! 見た所仲間もいねぇ。死んでも気付かれねえさ!」


 大柄な男が片手斧を、頭上で円を描く様に振り回し始めると、三人はリガルから一定の距離を取る。


 いつしか、さながらハリケーンのように、男を中心にして吹き荒れ始めた。水面は波たち、茂った草は抜けたり揺れたりしている。


 ──きっと、物凄い力なのだろう。


「吹き飛べや! テンペストインパクトォ!!」


 力強く跳躍し、上空で斧を構える。遠心力に任せた一撃をリガルに叩きつける勢いだ。


「どれぐらいの威力なんだろう。全くわかんねえや」


 だが一切、焦る事もせずリガルは言葉を漏らす。


 風に呑まれた白装束は、踊り狂っている。だが、リガルは表情一つ崩さず男を見上げていた。


 ──そんな中。


「「スピアニードル!!」」


 緑色のエフェクトがかかった弓矢が六本、風を切り裂きリガルに迫る。


「まだだ! 兜割りッ! だ、おらぁ!!」と、正面から飛び込んできた男は剣を振り上げつつ吼えた。


 一人は上空、弓は左右と後ろ、斬撃は真正面。逃げ場のない包囲攻撃が、リガルを襲う。


 ──だが、逃げ場がないにすぎない。


「アイアンウール」


【アイアンウール】

 鋼を全身に纏ったような高い防御力を素早さを代償に、一時的に、得られるものだ。

 リガルの全身を銀色のオーラが包む。ハイプロテクションとアイアンウールの二段構えの防御だ。


「くたばれや!!」


 五方向の攻撃が交わった刹那、リガルを中心に、爆音が鳴り砂煙が慌ただしく舞い上がった。


「これで終わりか?」


 砂煙が去る頃、リガルの冷ややかな声が静寂を切り裂く。


「なん……だよ、これ!!」と、震え怯えたような声がリガルに届いた。


 今まで聞いた事もない技名から察するに、結構な鍛錬を積み習得出来る特技なのだろう。だとしても、リガルはダメージを全く負ってはいなかった。寧ろ、無駄にバフをかけた感も否めない。全能力が遥かに上回っているのを実感し、リガルはほくそ笑む。


「これが俺とお前らの実力差だよ」


 剣士の振りかざした刃は、リガルの額で止まっている。それだけではない、矢は貫く事も刺さる事もなく、地に落ちているし片手斧に関してはが折れていた。


「ぐっぁぁあ!! 指が……折れやがった……!」


 悲痛に満ちた声を出したのは、全体重をのせた一撃だったであろう片手斧の持ち主だった。彼の指は、へし折れており膝をつき悶えている。


 いい気味だ。


 リガルは目もくれず、額で止まっている剣を手の甲で叩いた。


「なんで俺の斬撃が……」


 目を見開き、声を震わせる男性にリガルは鼻で笑い答える。


「違うな。お前の斬撃は殴打おうだとなんら変わらない」

「殴打……だって?」

「ああ。しかも赤ちゃん並のな」


 剣が小刻みに震え「ふざけるなよ」と、歯を食いしばり、剣士は怒った様子を見せた。


「白等級……しかも、白魔道士に負けるはずがねぇんだよ!!」


 諦めの悪い剣士が、剣を振り上げるとリガルは杖を向ける。


「煩い。はい、バインド」


 四つの白いリングが剣士を拘束し、その場に倒れ込んだ。


「身動きが……とれねぇ……」

「だろーな。白魔道士がいれば、デスペルで解除出来たのによ」


 リガルは蹲る男性に近寄ると、しゃがんで質問をした。


「お前らは、獣人を何人殺した?」

「覚えてねえよ!」

「あ、そう」


 リガルはバインドの締め付けを強める。


「ぐぎゃぁぁっ!! 息がっ」

「ほれ、言わなきゃ仲間の内蔵飛び散るよ」

「は、八人だよ!」

「ふうん? じゃあ次。獣人をどこで攫った? 因みに俺には嘘が通用しないからな。看破のスキル・アリスィアがある」

「なんで白等級の白魔道士が、アリスィアを」

「そんなのはどうでもいいから。どこで攫った?」


 男はめいいっぱい首を横に振るった。


「俺は攫ってなんかいねぇよ!! 買ったんだ! 本当だ」


 目の動き、呼吸、声の張り具合、どれをとっても男性は嘘をついていない。


「誰から買ったんだ? 名前は、人相は?」

「し、知らねぇよ! 人間なのかもエルフなのかも」

「そうか。分かった。なら、ここでお前らは何をしていた?」

「俺達は、この湖に住む水竜を釣り上げようと」

「水竜──ね」


 リガルは立ち上がり、凪いだ湖を見た。


「頼む。ギルドに報告は」

「しないから大丈夫。つか、する必要もないしな」


「あ、ありがとう」と、肩を撫で下ろす男性の髪を掴み、リガルは嘲笑う。


「お前等は、これから八回以上死ぬ痛みを味わってから、くたばるんだからよ」

「え?」

「バインド」

「リジェネ」


 リガルは、四人に継続的な微回復魔法と拘束魔法をかけた後にロープで縛る。


「な、何を!?」


 苦しむ表情を浮かべる男に、宙へ浮いたリガルは無表情で口を開く。


「ん? 釣りだよ。つーり」

「ハイ・アウダース」


 自分に筋力超向上のバフを付与して、四人を纏めて宙吊りにして湖中央に向かった。


「頼む、助けてくれ」

「なんでもする、俺には家族が!」

「お前等は、今まで数多くの、懇願を聞いていた筈だ。なのに酒を飲み笑っていた。今更、赦しを乞うなんざ都合がよすぎるだろ」

「ぐぁぁあっ!!」

「緩めてくれ、頼むっ!!」

「大丈夫だよ。これぐらいなら、リジェネですぐ治癒するだろ。ただ、血を垂らさなきゃ、水竜?も寄ってこねえかなってさ」


 四人の血が、綺麗な湖に垂れては薄く広がってゆく。


「う、嘘だよな? たのむ、もうこんな事しねえから! 頼む」


 蒼白した顔色で、四人は必死に叫ぶ。


「たのっ──!?」


 リガルはそんな声を聞き流し、ロープを湖に投げた。水しぶきがリガルの居る場所まで届くと、濡れた額を拭って飛び去る。


「じゃ、バイバイ。嘘つき野郎共が」


 片手斧の男性は、リガルにアリスィアを習得している事を信じてはいなかった。


 攫ってない事は事実でも、他は全部嘘。


 リガルは、獣人の女性が身を隠している茂みに近づいて話を持ちかけた。


「俺が君の復讐をしてあげるよ」


 別に彼女が、放っておけないとかではない。きっと、此処に居たのが違う者でもリガルは同じ台詞を言っていたに違いない。


 ただ単に許せない。何かを騙すこと貶める事が。


 ──それは、ある種の執着かもしれない。あるいは呪いか。

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