第9話 クレームですか?

「いや、俺はこんなものを頼んだ覚えは無い!」


 ――えっ! もしかしてクレームですか?

 タダノ課長の怒る顔が浮かんがプアールは咄嗟に伝票を確認した。

「えーっと、間違いはありませんよ。だって、『転職雑誌今すぐ会社を見限ろう』1冊と、『お色気ムフフ増刊号』1冊と『SM令嬢1月号』と『BLラバーズ増刊号』『あんたも好きネッ! 変態好色男1巻』『幼女万歳 絶版本』……こんなのが好きなんですか? 変態ですね……」


「待て待て! 俺が頼んだのは『転職雑誌今すぐ会社を見限ろう』だけだ!」


「ほほう……」

 長机の一番上座の男が小さくつぶやいた。

「イヤマ君は転職がしたいのかね……」

 しかし、その声は、末席のイヤマのところまでよく聞こえた。


 そう、一瞬で会議室が凍り付いていたのだ。

 誰一人として声を発しない。

 誰一人として動かない。

 イヤマ自身も、しまったと言う顔をしている。よりによって、社長の前で転職雑誌を頼んだなどと口走ったのだ。冷や汗と共に、体中の温度が急激に下っていく。


 イヤマは、上座の男を見ながらカタカタと震えている。目は何かを考えるようにくるくる泳ぐ。

 どうする……どうする……

 イヤマがつぶやくのが聞こえて来るようだ。

 次の瞬間、イヤマが跳ね飛んだ!

 そして、床の上で土下座した。

 それは見事に跳ね飛んだジャンピング土下座。

 なんでだ、なんでこんなことになっているのだ?

 意味が分からぬイヤマ。だが、今はそんな事、言っている場合ではない!

「ゼウィッス社長! お許しを!」

 今は、社長の怒りをそらさねば……

 だが、遅い! イヤマ自身が転職の意思を示したのだ。しかも、社長の前で! そう、ココはブラック企業のmegazonだ。イヤマ自身がやったことは、イヤマ自身に跳ね返る。情などかかるはずもありゃしない!


 プアールは頭を傾げた?

 はて、ゼウィッスとはどこかで聞いたことがあるような?


 うーん……

 

 思い出せない……

 まっ! いいか!

「受取のサインをお願いしまーす」

 プアールはイヤマの親指を掴むと、勝手に受領書に拇印を押した。

「ご利用ありがとうございました。またのご依頼お待ちしておりまーす」


 その後、イヤマは、平謝り。土下座に次ぐ土下座。

 顔面を涙でグチャグチャにしながら、必死に謝り倒した。最後には、緊張でゲロをはく。社長の前でゲロってまった。もう、無様……

 だが、その日のうちにイヤマ部長の更迭の緊急動議が発案された。

 その後、すぐさま開かれた臨時株主総会の席上で、エロ本の数々をさらされた上で、解任決議が全会一致で可決され、無事、無職となりました。


 退職金?

 そんなものは有りませんよ。

 それどころか、数々のパワハラ及び、不正による会社への損害賠償により、身ぐるみはがされ、何処かの異世界に放り込まれたそうである。泣き叫びながら本社入口から放り出される姿は、末代までの語種。まぁ、刑務所に入らなかっただけましでしょ。


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