第38話 その日まで、頑張るぞ。
数時間前の事。
ボクとはーちゃんは2人で通話をしていた。
雑談中、話題は二ヶ月後に開催されるイベントの話になり、
ボクは初めて憧れの人の事をはーちゃんに話した。
……しかし、返ってきた返事は意外なもので。
はーちゃんは、ボクの憧れの人であるサキさんとディスコードで一度話した事があると言った。ボクは驚き、頭が混乱した。どういう経緯でサキさんと話すことになったのか聞こうとした時、はーちゃんはとんでもない事を言った。
「サキさんに連絡してみる……?」
「えっ!?」
「今度通話しますって言ったっきりしてないから、この機会にどうかなって。その……出てくれるかはわからないけど……」
「えっと……えと……あの……」
「や、やっぱりやめとく?会場で会った方が、いいよね……?」
急な選択に頭が更に混乱していく。
まともな反応が出来たなら、きっとボクは間違いなく「イベントで会うから大丈夫!」と答えれただろう。
「……お」
「あーちゃん、大丈夫?」
「……お……お願いします……」
「出てくれるかな……?」
そう呟きながらはーちゃんがサキさんに電話する。
ボクはコール音を聞きながら、心臓をバクンバクンと鳴らしていた。
あのサキさんと話せるかもしれない。
そう思うと、呼吸が荒くなって、顔が紅くなってくる。
落ち着けボク……!大丈夫、必ず出てくれるとは限らないんだ。
話せるかもしれない、だから。だから大丈夫!
ダメなら、次回頑張れば……!!
「……もしもし?はやて丸ちゃん?」
「あ……さ、サキさんですか!?こ、こんばんはです!」
「こんばんは。久しぶりね。どう?元気だったかしら?」
「あ、はい!元気です!大丈夫です!はい!」
あわわ……あわわ……
ほ、本当に出てしまった……しかも、本物の、サキさんだ……っ!!
あのサキさんがはーちゃんと喋ってる!!ちょっとテンパってるはーちゃんも可愛いなぁ。……って、そうじゃない!!ど、どうしよう!?本当に、あのサキさんが……
「全然連絡ないから忘れられちゃったのかなって思ったわ」
「そ、そんな事ないです!あっ……ないっス!!」
「ふふ。いいのよ、素の方で喋っても」
「あ、じゃあ……えと、全然連絡しなくて、すみません」
「大丈夫よ。はやて丸ちゃんも、いろいろ大変だったものね」
「え?あっ……えと、ご存知で……?」
「ええ。友人だもの、とても心配したわ。
私の方こそごめんなさいね、全然連絡しなくて」
「そ、そんな……わたしの方こそ、
いろいろご迷惑をおかけしてごめんなさい……」
サキさんから友人と言われているはーちゃん……う、羨ましい……
2人がどういう経緯で知り合ったのか、本当に気になる。
あれかな、はーちゃんがサキさんにインタビューしようとしたのかな?
サキさんのインタビュー配信……あったら、ぜひ見てみたい。
それにしても、大好きなはーちゃんと憧れのサキさんが楽しそうに会話してるこの状況。
ひょっとしてはボクは今誰よりも幸せなんじゃないだろうか?
ファンが聞いたら羨ましがるかな。
……そうだ、今度、雹夜さんに自慢してみよう。
ふふふ……あー、出来ることならこのままずっと2人の会話を聞いていたい。
「――それで、もう1人居るみたいだけれど、もしかして、アカネちゃんかしら?」
「……ふぇ?」
唐突に、サキさんがそう言ってボクに声を掛けてきた。
忘れていた。元々、ボクが話したくてはーちゃんに頼んだんだ。
完全に2人の会話を楽しんでいる視聴者側になっていた。
……ど、どうしよう。全然、何も考えていなかった。
「えとあのそのあの……す、好きです!!」
「え?」
「あ、あーちゃん落ち着いて!」
「あーちゃん……?」
「お、落ち着こう……ふぅ……
あ、あの!ボク、サキさんに憧れてて……!」
「ふふ。ええ、よく知っているわ。
インタビュー配信で言っていたわよね」
「え?み、見てくれていたんですか……!?」
「ええ。見たのはたまたまだけれども、憧れていると聞いてびっくりしちゃった。ありがとう、嬉しかったわ」
「そ、そんな……こちらこそ、あの、
見ていただいて、ありがとうございます……!」
「はやて丸ちゃんのインタビューも、なかなか良かったわよ?」
「え?わわ、ありがとうございまス!!嬉しいなぁ……!」
「よかったね、はーちゃん……!」
「うん!あーちゃんもね!」
「ふふ、本当に、仲が良いわね」
自分が褒められたのも凄く嬉しいけど、はーちゃんが褒められた事も同じように嬉しい。それからボクはサキさんとはーちゃんと三人で話して、緊張は少しずつ落ち着いていった。
サキさんから、実は怖いもの苦手だということ事実を教えてもらったり、苦手だったお酒にも最近はハマったりしている事も知った。話している時のサキさんが、配信の時とは違って、凄く、楽しそうに見えた。ボクが知ることもなかったサキさんの姿。
想像とは違った、少しお茶目で、とても可愛らしい女性が、そこにはいた。その姿を知って、ボクはガッカリよりも、自分と同じように悩んだり苦しんだりする事を知って嬉しくなった。まだまだ遠い存在だけれど、何故か、今だけは近くに居るような感じがしたんだ。
「――あら、もうこんな時間だったのね。
ごめんなさい、そろそろ落ちなきゃ」
「え?……はわわ、本当だ!わたしもそろそろ落ちないと……」
「気付いたら、長く話してましたね……」
「ふふ、とても楽しかったわ。二人共、呼んでくれてありがとう」
「こちらこそ!急に呼んで、ごめんなさいでス!!」
「あの、いろいろ知れて、嬉しかったです……!!
ありがとうございました……!!」
「ふふ、ありがとう。今度は、もっとゆっくり話したいわね」
サキさんがそう言った時、チャンスはここだと思った。
ずっと緊張していて言えなかったけど、今なら、言えるかな。
いや、言うんだ。まだまだ未熟だろうけど、それでも……
「あ、あの……サキさん……!!」
「うん?どうかしたかしら?」
「えと……ボク、二ヶ月後の例のイベントに、出る予定なんです……
だから、その……頑張るので、見てほしいです……!!」
わがままだったかな?急に、馴れ馴れしくなかったかな?
声に出して、それが言葉になった瞬間、後悔が襲ってくる。
言わなければよかったかもしれないという後悔が、ボクを襲ってくる。
不安と恐怖が同時にやってくる。喉が絞まるように、苦しくなる。
今になって、後悔を感じる。
「――ええ、わかったわ。
誰よりも大きな声で、応援させてもらうわね」
「……ふぇ……?」
「わっ……わっ……やった……やったよあーちゃん……っ!!」
「え?え?……ほんとう、に?」
「何があっても、絶対に応援に行くわね。
だから、頑張って、アカネちゃん」
「……は、はい……っ!!が、がんばりましゅ……ますっ!!」
「ふふ。それじゃ、私は先に落ちるわね。二人共、お疲れ様」
「お疲れさまでス!!」
「お疲れさまです……っ!!」
またね。サキさんは最後にそう言って通話を切った。
心臓が飛び出るくらい叫んでいる。額から、汗が少し流れる。
本当はもっともっと、言いたいことが沢山あった。
会場で応援しますとか、会えたら会いたいです!とか。
でも、よりにもよって、憧れの人に見てほしいと頼んでしまった。
サキさんの期待と、ちゃんとプレイ出来るかの不安と、
はーちゃんの「良かったね!」という可愛い声と、
姉さんのお風呂に入りなさいという声を聞きながら、
ボクの頭は真っ白になりつつも、内心は嬉しさでいっぱいだった。
「――ということで、イベントに、出演します……っ!!」
:まじかああああああああああ!?
:きたああああああああああ!!
:マジか!!絶対見に行くわ!!
:出たら嬉しいと思ってたけど、本当に出るとは……
:やべぇ、テンション上がってきた
:イベントでゲーム配信?
:だね。他のVtuberさんと対戦らしい。
:緊張感ヤバそうだな
:サキさんも出るらしいね。憧れの人に会えるかな?
:サキさんと一緒のステージだったら俺爆発してたわ
:アカネちゃんのカッコいい所サキさんに見せましょ!!
まだ少し先の事だけど、それでも、少しでも憧れの人に近づけるように。 サキさんに、雹夜さんに、近づけるように、その日までひたすら練習を頑張る……!そして、絶対に優勝するんだ……っ!!
ゲーマーVtuberアカネ@エンドレス所属 18時間
【公式でも情報が出ましたが、
Vtuber祭(ぶい祭!)に出演することになりました……!
精一杯頑張るので、応援、お願いします……!
ボクも、頑張るぞ……! 】
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