第3話 装備品は邪神シリーズらしい

 今更ながらニーナは自分の衣装がボロボロになっている事に気付いた。


 竜騎士の襲撃から逃げる最中に後ろから槍で刺された部分が背中から胸の辺りに掛けてポッカリと穴が空いていたからだ。


 どうやらアレクは衣服には関心が無かった様でそのまま放置していたようだ。


 このまま街に入ると子供が大好きな大きなお友達が襲いかかる事案にもなりかねないので着替えをしなくてはいけないなので適当な代わりの服をアレクが持っていないか訊ねた。


 「アレク、適当な衣類とついでに装備品持ってる?」


 「邪神グッズ《邪神装備》なら出せるけど本当にいいの?」


 何に対して本当にいいのかいまいち疑問だったが今の胸が丸出しになっているよりは遥かにマシなのでそのまま首肯した。


 「山羊の頭とかじゃないなら別にいいんだけど。着替えるにしてもここは街道の真ん中だから少し森の方へいく。」


 アレクがそんな貧相な身体隠さなくても誰も見てないなどと余計な事を言ってニーナに睨まれて視線を逸らす。


 森の木陰まで移動したニーナは辺りを見回し人が居ないのを確認する。


 魔物の反応は所々でまばらにはあるけど人の反応は無いのでここで装備品を出して貰い着替えてから街に向かう事にする。


 「アレク服と装備品出して。それと少しお金持ってる?」


 邪神遣いが荒いんですねぇと言いつつもアドラメレクは口を開けると小さな袋と大きな袋を吐き出した。


 「その出し方どうにか出来ないの?」

 

 「仕方ないんですねぇ。身体も小さくなってるし神界とこの口の中を繋げてあるからこの方法しかないんですねぇ。」


  他の人の前では絶対にやらない様に釘を刺しニーナは小さい袋を開けた。


 中には所々にベルトが付いた黒いオーバーコートと黒いシャツ、黒いミニスカートが入っていた。


 「何このゴスロリみたいな服は。厨二病の人が喜びそうね。」


 必ず一言多いニーナだったがアレクより出された服に着替えた。

 

 服から黒いモヤが発生している気がしたがアレク曰くそういうものらしいので気にしない事にした。


 小さな袋には若干の銀貨と銅貨も入っていたのでそれはオーバーコートの内ポケに放り込んだ。


 「この大きい方の袋には武器が入ってるの?」


 ニーナが訊ねると


 「じゃあ謹製の取っておきが入ってるんですねぇ。少女ちゃんには少し大きいかもしれないけど闇聖女の力があれば問題無く使えると思うんですねぇ。」


 口から簡単に吐き出した割には大きい袋はズッシリとした重量があった。


 ニーナは大きい袋の口紐を解き中から巨大な大剣を取り出した。


 「流石に大き過ぎないかしら?」


 「振ってみれば?」


 アレクに言われたのでニーナは片手で大剣を持ち上げると上下左右に振ってみたが特に重さを感じる事は無かった。


 「意外に振り回せるものね。」


 ニーナは関心した様にアレクに言う


 「普通の人は重過ぎて持ち上げる事すら無理だと思うけど今の少女ちゃんの力なら例え家屋だって動かせると思うんですねぇ。」


 「ふ〜ん。人と握手するにしても手を握り潰さない様に気をつけないといけないね。」


 「手を粉砕ミンチしないように気を付けないといけませんねぇ。」


 聖女なのにそこまで怪力ってどうなの?とニーナは思ったが貰ってしまった物は仕方がない。


 非力で何も出来ないよりは大いなる力には責任が伴うって何処かで聞いた様な気がしたので使い方を間違えない様により一層慎重にしなければと気を引き締める。


 「それじゃあ準備も出来たし街に向かいましょうアレク。」


 そう言ってニーナはアレクの首根っこを摘み自分の肩の上に乗せた。


 「一々摘まなくても飛べるから問題ないんですがねぇ。」


 「猫が喋って飛んでたら目立つでしょ?」


 「邪神なんですがねぇ。」


 こんな猫が居る訳が無いとアレクも思ったが、この姿に変身したのは自分なのでこれ以上余計な事を言ってドS少女から辛辣な言葉を受けたくないのでそれ以上の言葉を飲み込んだ。


 飛ぶ事にそれ程労力は掛からないのだが肩に乗ってる方が楽なので昼寝でもしていようと大人しく肩の上で収まっていた。


 ニーナは町に向かって歩き出した。


 森から街道を伝い街に向かう。特に魔物が出現したりする事もなく街の入り口についた。


 幸いまだ日は完全に落ちてなく明るかったので入口でそれ程並ぶ事なく街へ入る事が出来た。


 衛兵に二、三質問されたが少女だったので特に疑われる事は無かったが、変わった猫ですねと言われたので希少種という事にしておいた。


 アレクも猫の鳴き真似をしていたので面倒事は避けたかったのだろう。


 街に入るのに銅貨を三枚渡したが、身分証を見せれば二枚返ってくるとの事だったので早急に身分証を作らないといけないだろう。

 

 「ねぇアレク? 身分証ってやはり冒険者ギルド?」


 「冒険者ギルドか商人ギルドだねぇ。」


 「どっちがいいの?」


 「商人ちゃんの場合は商人ギルドの方がいいかもしれないけどどちらでもいいんじゃない?」


 「アレク真面目にやって!」


 「いまの自然な会話の流れにワタシが怒られる要素が何処にあったんですかねぇ?」


 理不尽ですがねぇと呟くアレス


 衛兵に聞いた冒険者ギルドへ向かいながら街を見渡すと孤児院やらスラムやら商店やらTHEファンタジーといった風景が広がっている。

 香ばしい匂いを放っている串焼等もある。


 ニーナの居た村は田舎だったのでファンタジー感は薄かったが、やはり大きな街へ来るとここが異世界なのだと思い知らされる。


 色々思案しながら歩いていると剣と縦をモチーフにした看板が見えて来た。


 「あれが冒険者ギルドみたいねアレク。ここはやはりテンプレ的に私は絡まれるのかしら?」


 異世界のお約束について言及すると


 面倒事はおかさないで欲しいとアレクに言われた。


 まるで私が問題児みたいじゃないかとアレクに言い返すも


 自覚ないんですねぇと呆れた声で言われた。


 私は問題児じゃないとアレクを黙らせた。


 ギルドの扉を開けると予想通りの光景が広がっていた。


 左側にはカウンター

 その隣には依頼の紙を貼っている掲示板

 右側に席と傷だらけのテーブルが並べられており多分夜になってなったらお酒や料理が出されるのだと思う。


 「ここまで期待を裏切らない光景も感慨深いものね。」


 まだ外は明るいので冒険者の数はまばらだった。


 周囲をぐるっ見回した後カウンターに向かう。


 どうやら受付のお姉さんは規定通りの美人なお姉さんだった。


 「すいません。冒険者登録について説明を受けたいんですが?」


 美人のお姉さんの目は優しい子供を見る目になっている。


 「ようこそ! 冒険者ギルドへ失礼ですがお客様は何歳でしょうか?」


 「10歳ですが、冒険者登録に年齢制限とかあるんですか?」


 「いえ、特には年齢には規定はありましひんが、冒険者は命の危険が伴う依頼もあります。お父さんやお母さんの許可ひ貰っていますか?」


 「私の村は竜に襲われ私以外生き残りは居ません。」


 「それは失礼致しました。それではこちらに記入をお願いしますが、文字は書けますか? 代筆も承りますが?」


 「問題ありません。」


 そういうとニーナはサラサラと書いていく。


 どうやら異世界の文字の読み書きは問題ないらしい。


 流石チート転生と内心で呟く。


 必要事項を記入し冒険者について簡単な説明を受ける。


 大体本やゲームで見知った事と大差なかったので違和感無く受け入れられた。


 「これで登録完了となります。ギルドカードは無くされますと次回から再発行に銀貨1枚掛かりますので無くさない様に気を付けて下さい。以上になります。」


 丁寧で完結な説明からこの受付のお姉さんは仕事が出来る人なんだろう。


 ニーナは冒険者ギルドと商人ギルドの両方に登録出来るのかを訊ねたら問題児無いとの事だったので商人ギルドに向かうべく冒険者ギルドを後にした。


 「絡まれ無かったねアレク。」


 テンプレワクワクイベントが無かった事で若干がっかり気味のニーナにアレクは


 「それだけ身体から黒いオーラ出してたら絡んで来ないんですねぇ。」


 黒いオーラ? 自分では見えないので気にしない事にする。

 

 すれ違う街の人の目が怯えていたりニーナを見た小動物が慌て逃げて行くのも全て気のせいだろう。


 誰にも絡まれないままニーナは商人ギルドに向かうのだった。


 「自覚が無いのが恐らしいですねぇ。」


 アレクの呟きは風に消えた

 


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る