第27話 釣り合える要素がどこにもない

 ――――勝てるどころか釣り合える要素がどこにもないんですけど!?


「んな睨むなって。いいよ。別に。味とかどんなんでもミウが作ったんなら気にしねーから」

「シェルディナード先輩が気にしなくてもあたしは気になります!」

「えー」

「えー。じゃないです! ただでさえ釣り合ってる所無いのに、差を確認してあたしの心がぺちゃんこになるだけじゃないですか!」

「釣り合ってる所が無い、ねえ……」

 ミウの言葉に、シェルディナードがクスクスと笑って、テーブルに片頬杖をつく。

「むぅ。何ですか、その顔」

「いや? 別に」


 ――――絶対ウソだ!! シェルディナード先輩、笑ってるじゃないですか!


 ニヤリと笑うシェルディナードに、ミウが頬をふくらませる。

 が、それはそれ、これはこれで。シチューは見る間に無くなっていくのだが。




     ◆ ◆ ◆ ◇ ◆ ◆ ◆




「あ。そだ。ミウ」

「はい」

 食べ終えて食器を下げたシェルディナードは席に戻ってくると、軽く指でテーブルを叩く。

「今日やった必修講義のノート、出してみ?」

「あ、はい……?」

 学年が違うシェルディナードが見ても仕方ない……というか、シェルディナードは去年やった内容のはず。何故かと不思議に思いつつ、ミウは素直にノートをかばんから取り出して渡す。

 パラパラとノートを確認して、シェルディナードは頷いた。

「追試になるな。これ」

「ひぇ!? え!? 何でですか!!」

「だって課題やったみてーだけどここと、ここの式間違えてっし。ミウ、この式嫌いだろ。試験でこれ避けたら半分間違えることになっけど?」

「ウソー!!」

「嫌いな式使わないようにしようとして、こことこっちに矛盾が出来て、ここで破綻するのに気づいてるか?」

「うぐぅ!?」

 ノートの問題箇所を的確にツッコミつつ、シェルディナードがミウの課題を採点すると、大体半分くらいがやり直しの結果になるという結果に。

 ミウの瞳が絶望に染まる。

「勉強、見てやろっか?」

「!」

 目の前に垂らされた蜘蛛くもの糸にすがる思いで、ミウはシェルディナードの顔を見た。

 にっこりとシェルディナードが笑む。

「平日毎日、弁当作ってきてくれんなら家庭教師、やってやるけど?」

「っ…………!」

 この先輩足元見てる! という思いと、そんな事を言ってる場合じゃない! という思いが激しくせめぎ合う。

「~~っ」

 ミウは絞り出すような声で言った。

「お願い、します……」

「ん。りょーかい」

 ぐぬぬ、と敗北に打ちひしがれつつ負け惜しみのようにミウが言う。

「味は保証しませんよ!?」

「物体Xになってても完食してやんよ」

「そこまで酷くないですよ!!」

 クツクツ笑うシェルディナードの赤い瞳が楽しそうに輝いて、映り込む灯りが揺れている。


 ――――シェルディナード先輩のバカ! ドSっ!


 赤いその瞳を見ていたくなくて、ミウは顔を逸らす。


 ――――バカバカバカ!


 シェルディナードに見られると胸の奥がザワザワして、落ち着かない。

「お客さーん。熱いねー」

「ザッツ。イイトコロで邪魔すんなって」

「何にもないですよ!」

 肩をすくめるザッツに、シェルディナードが笑う。

「シェルディナード、一時間だけホール出てくんね?」

「俺、デート中」

「デートじゃありません!」

 反射的に抗議するものの、ミウの声はあっさり黙殺され。

「頼むって」

「しかたねーな。ミウ」

「は、はい」

「俺が戻るまでに、ここの問題解き直し」

「ふえ!?」

 にぃっと三日月めいた悪戯な笑みがシェルディナードの顔に浮かんでいる。

「正解してたら、ご褒美やるよ」

「顔と言い方がいかがわしいんで遠慮します!!」

「あはは」

 ひらりと片手を振って、シェルディナードがザッツと共に席を離れる。

 かくして一時間後。

「終わったかー?」

「お、終わりましたよ……」

 どれどれー? なんてシェルディナードがノートを覗き込む。

「…………」

「…………」


 ――――あ。シェルディナード先輩て、睫毛まつげ長い……。


 サラの美少女めいた美貌が近くにあって、シェルディナードは比較すると男性みが強くて気づきにくいが、パーツ自体は綺麗系と言える。

「ん。頑張ったじゃん。正解」

 思わずまじまじと見てしまい、シェルディナードからそう言われて我に返る。

「ど、どうも。……こ、子供じゃないんですから! 頭撫でないで下さい!」

「ふーん? じゃ、オトナのご褒美の方が良いか?」

「子供です! 子供なんで遠慮しますっ!!」

「ハハハ。冗談だって」

 行くぞという言葉に、ミウも立ち上がり後に続く。

「あ。お会計」

「良いって。あれまかないだから」

 それよりとミウの手を引く。当然ミウより大きくて柔らかさはないシェルディナードの手。

 しかし思ったよりも温かく。

「うわ!?」

「デザートは別腹だろ?」

 夕闇の落ちる大通り。街路に立ち並ぶ煌々とした灯りが連なり、中程にはテーブルやイス、ベンチが置かれて買ったものを食べている人々も多い。

 手を引かれるミウの顔にも、いつの間にか淡い笑みが浮かんでいた。

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