第16話 鬼畜! 鬼! ハンター!

 中間レクリエーション。

 それは仁義じんぎなき考査イベントである。

 全学年合同で行われるまさにハンティング。

 各人が自ら指定した獲物ターゲットを捕まえるのが内容であり、高等部の全生徒が強制参加。獲物指定してきた人物を指定仕返す事は出来ず、先に指定した者勝ちだ。

 しかも、獲物が被ってはいけないというルールは、無い。

「シェルディナード先輩の鬼畜! 鬼! ハンター!」

「ま、確かに」

 ハンターだなー? なんてニヤニヤ笑う親友シェルディナードは実に楽しそうだと、サラは微笑みを目出し帽の下で浮かべる。

「ミウ、ホームルームでターゲット受付のお知らせあったはずよ?」

「どーせホームルーム終わった直後のダッシュに備えてて、聴いてなかったとかそーいうオチでしょ」

 アルデラの言葉が真実らしく、ミウが涙目で小さくなる。

「はぁ。ミウは獲物指定、アタシにしときなよ。既に獲物指定してきたシェルディナード様は指定できないんだし」

「で、出来てもやらない。それよりアルデラちゃんを指定って」

「開始したら即捕まってあげる。別に捕まってもペナルティもマイナス評価もないし」

 実はこの中間考査、捕まえられたらプラスだが捕まっても捕まえられなくても、特に不利にはならない。ただし各講義の期末考査に自信のない者にとってはあと少しが決め手になる事もあり、大半の生徒は少しでもと保険の意味で本気を出す。

「シェルディナード先輩……そう言えば成績って」

「ん? いや、普通だけど」

「おい、シェルディナード……」

「何だよ。ケル」

 どうした? と首を傾げるシェルディナードに、ケルが半眼で睨み付ける。

「学年で上から五番目の成績は普通扱いされるものじゃないだろう。しかも君、あれ手を抜いてるな?」

「えー。実力だって」

「いや、五番目はトップクラスじゃないですか!」

「ちなみに一位はサラだぞ」

「ウソぉ!?」

「……なんで、ウソなの」

 サラとしては心外だ。

「で。ケルの獲物ターゲットはエイミーで、そのエイミーは誰にしたんだ?」

「あら。シアンレードの若様がわたくしにご興味を持たれるなんて意外ですわ」

「えー。俺ってそんなお高くとまって見える?」

「うふふ。いえ、どちらかと言えば気さくですわね」

「だっろー?」

「エイミー。シェルディナードに付き合うと話が進まない。適当に切り上げてくれ」

 ケルが呆れたようにそう言うと、エイミーはおっとり笑って頷いた。

かしこまりましたわ。それで、獲物を誰にするか、でしたわね」

 チラとエイミーがミウを見て、にっこりと。

「わたくし、シアンレードの若様を指定することに決めました」

「エイミーちゃん!?」

「そっか。じゃ、それで。いいよな? ケル」

「ああ。……と言うか、そのつもりで私をここに呼んでいたのだろう?」

「エイミーの主家だからな。本人の意思確認と承諾もケルが居ればすぐ出来て楽だろ」

 そんなやり取りをミウが青い顔で見ているのを確認したサラは、そっとため息を吐いた。

「ミウ。わかって、ないでしょ」

「ふぇ!?」

「……やっぱり」

 何故、親友の配慮はいりょが伝わらないのだろう?

 そう思うものの、サラは静かに説明しようと口を開くがそれよりも早くアルデラがミウに言う。

「エイミーはミウの為に、シェルディナード様の邪魔してくれるって言ってるの」

 獲物がハンターを指定仕返す事は出来ない。が、それだけだ。

 そのハンターに獲物指定されていなければ、獲物指定する事は出来るし、死なない程度に抵抗も妨害も許されている。

「エイミーはケル様の獲物。シェルディナード様の指定は受けてないから、獲物指定できる」

「で、でも」

「シェルディナード様の獲物であるミウの側に居ればあっちから来てくれるから楽だよね」

 アルデラがエイミーにそう言うと、エイミーも笑顔で頷いた。

「そうなのよ。それに、ケル様の協力も頂けるでしょう?」

「やはり私も巻き込まれるのか……仕方ないな」




     ◆ ◆ ◆ ◇ ◆ ◆ ◆




「そんで、アルデラは誰タゲるん?」

 妨害宣言されても変わらず楽しそうに、シェルディナードはいつの間にか自分で淹れたお茶を楽しみながら首を傾げる(目出し帽姿で)。

「あー……。ケル様、良いですか。あんま動きたくないんで」

 まあ、捕まえられなくても構わないんですけどね。なんて言っている。

「構わない。この温室に集合するからな」

「決定。って事でみんな開始と同時にここに集合って事で」

 そんな風にミウの混乱を他所にサクサク決まった諸々。

 と、そこでシェルディナードが生徒手帳でもある黒曜石で出来た板状の端末を取り出し、「へぇ……」と呟いてクスクスと笑い出す。


 ――――ものすっごい嫌な予感するんですけどっ!!


「ミウ、中間レクリエーションの自分のページ確認してみ」

 嫌な予感が確信に変わる。絶対ろくでもない。

 見たくない。が、確認しないわけにもいかない。

「…………何ですかこれ!?」

 自分の生徒手帳、中間レクリエーションの特設ページにログインして見た情報に、ミウの顔がザッと青ざめる。

 誰が自分をターゲットにしているか、自分が誰をターゲット指定しているか(自分と同じターゲットを指定しているのは誰か)を確認できるのだが、ミウをターゲットにしているのはシェルディナードとサラだけではなかった。

 その数、十数名。全学年から見れば大した数ではないが、一人にそれだけ集まるのは珍しい。

「ミウ、モテモテじゃん」

「う、嬉しくないですー! 本気で嬉しくないっ!」

 むしろ恐怖なんですけど!? と追いかけられる前から涙目である。

「しかし何でまた……」

 ケルがミウの了承を取ってから画面を覗き込み、不可解そうに形の良い眉をひそめた。

「そりゃ、ミウ弱そうだし」

 自分でも自覚し、つい昨日言われた言葉再び。

 捕まえられればプラス評価獲得。そりゃ楽勝だろう弱者から狙う。ガタガタと震えが止まらないミウに、シェルディナードは楽しそうに声を掛ける。

「ミウ。昨日、俺が言ったこと、覚えてるかー?」

「ひっ」


 ――――怖い!! すっごく楽しそうなシェルディナード先輩怖いぃぃぃぃぃ!


「落ち着けって」

「ふにゅ!?」

 目出し帽先輩そのシェルディナードがミウの頬を指でつっつく。

「こんだけ求婚者ハンターが多いんだから、しっかり要求アビリティ申請しとけよ? 輝夜姫ミウ

「あ、アビ?」

「…………そこから?」

 ミウの全然わかってない感にサラが呆れたような声を出す。

獲物ターゲット指定された方、は、ハンターに、対して、妨害の申請が出来る、の」

「前日にアビリティに必要な分だけ魔力納品が必要になるけどな」

「誰に、どんな妨害要求するか、マイページから申請、出来るから。忘れたら、知らない」

「今っすぐやります!!」

「アビリティによって必要な魔力違うから、気をつけろよ」

 そして、恐怖の中間レクリエーションは刻一刻と迫ってくる。

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