第27話ライバルからの賛辞
=アルテミ研究所 被験者の居住区画=
「宗吾さん、本当に実験の生存がいるの?」
「間違いないよ、……俺が拘束される時に所長が話していたんだ。俺の実験以外でも並行して進めていたって言って。」
「……。」
「マキちゃん……、ツラいなら無理についてこなくても良いんだよ?」
「エリ、ありがとうね。でもね、私がやらないと駄目なの。……お姉ちゃんが死んで、そのお姉ちゃんが望んだことって何かなって考えてみたの。」
「うん……。」
「そう考えたら答えは簡単だった、……家族が笑い合える日常のを取り戻すこと。それを得るためにはこの研究施設は邪魔なのよ。」
エリは共に走るマキに気を遣ったわけだが、その気遣いは無用、と当のマキに拒絶されることになった。
言葉を投げかけるマキの表情は普段では考えられない程に強張っていた、そしてそれは彼女の怒りを浮き彫りにしていた。
そんなマキの性格を知ってか、エリは返す言葉が思い浮かばなかったのだ。
研究施設の廊下を走る四人に緊張が伝わってくる。
そして、そんな緊迫した状況のバランスを崩した人物がいた。
その人物とはレンジだった。
「マキ、だったらそんな顔をするな! ……今のお前の顔のままで『家族が笑い合える日常』と言うのは実現出来るのか?」
「……レンジ! 私がどんな想いを抱えていようと結果を出せば問題ないじゃない!?」
「違うだろ? 俺はお前の家族じゃないけど……、それでもお前の姉さんが願ったことが『お前の幸せ』が含まれていることくらい分かる!! ……お前はもっと笑えよ? エリの隣でさ……。」
「っ!!」
マキは気負っていた、だが、それは仕方がないことだ。
姉を失い、その上で姉が命を落としたこの研究所に足を踏み入れているのだから、その感情は他者には容易に想像がつかないだろう。
それでもレンジは落ち着け、と。
マキには負の感情が似合わない、と言っているのだ。
それは彼がマキのことをエリと同様に心配しているのだから、チームSの中でマキの異変に最も早く気付いたのが……このレンジなのだから。
そして、そんな二人の様子を見てか、エリも静かに口を開いて想いを伝えていた。
「マキちゃんは自分を責めてるんだよね? ……良いよ、マキちゃんはお姉さんを想って戦いなよ。」
「エリ?」
「だったら私はマキちゃんを想って戦う!! それで良いでしょ、レンジ君?」
「はあ……、創也の苦労がよく分かるよ。良いさ、どっちにしろ俺はバランサーだから二人を全力でサポートするだけだからね。」
「ははは、あのレンジ君がここまで成長してくれていただなんて、私は本当に嬉しく思う。
……ですが、我々は捉えられている残りの被験者を救出することが目的だと言うことをお忘れなく。」
「……今回の突入に香月先生が一緒なのは大きな救いです。何しろ被験者を連れながらだと、どうしても火力持ちがいないと駄目でしょ? なのに創也はあっちに持っていかれるし……、はあ。」
「そうですね、ですが今回の最大戦力は沖津であり、その沖津をサポート出来そうなのはラン君だけ。そしてそのラン君をサポート出来るのは……。」
「創也だけ、分かっているんですけどね。……そして何故にスナイパー女子二人がこっちにいるかもね。」
「「?」」
「ははは、レンジ君は本当に苦労をしていそうですね。……マキさんにエリさん。被験者の救出が終わったら二人には重要な役割を担って貰います。」
香月先生は優しく笑いながらも、どこか心配そうにスナイパーの二人を見つめていた。
捉えられた被験者を連れ出すと言うことは、必然的に殿を務める戦力が必要になるわけだが、それはガンナーである香月先生とレンジが主力となることを意味する。
……今からエリとマキに別の重荷を背負わせることになる、と香月先生は思っていた。
「香月先生、あの扉が被験者区画の別棟です! あそこに残りの被験者たちがいるはずですから、気を引き締めて下さい!!」
走りながら会話を進める香月先生に対して、宗吾は目の前に見えてきた鉄ごしらえの扉を指差しながら警戒を促してくる。
すると、その警戒と共に香月先生はその表情を一変させていた、……教師のそれから防衛隊員だった頃のものに。
「……そうですか。では、まずあの扉を破壊しましょうか。」
「えっ!? あれも宗吾さんのカードキーで開けるんじゃないの?」
「……宗吾さんも把握してない実験なんだから開くわけないだろ? エリも少しは頭を使ってくれ……。」
「ああ!! レンジ君、創也だってもう少し優しく言うよ!?」
「エリ、レンジってスイッチが入ると手厳しくなるの……。」
「マキも気負うなとは言ったけど、気を緩めるなとは言っていないからね?」
「「……はい。」」
「うわあ……、レンジ君って創也から聞いてた通りの子だね?」
「……宗吾さん、創也は俺のことをなんて言ってるんですか?」
「うん、チームSがもしリーダーがレンジ君だったらチームRはもっと苦戦しそうだって。」
レンジは宗吾の言葉に内心で歓喜していた、それは自分のライバルであり自分が目標としている創也からの純粋な賛辞だったからだ。
そしてレンジは感じていた、この言葉をあの扉をこじ開ける前に聞いておいて良かったと。
それはレンジにとって大きなモチベーションになるのだから。
「みなさん、おしゃべりはそこまでです!! レンジ君は私のサポートをお願いします!!」
そんな歓喜の感情で満たされていたレンジに対して、香月先生はさらにスイッチを入れろと言ってきていた。
するとレンジもその表情を香月先生と同様に戦いに身を投じる男のものへと変えていた。
「……香月先生、あの扉って壊したら警報が鳴るみたいだから、時間との勝負だね?」
「話が早くて助かります。……後は我々と沖津たちのどっちに戦力が割かれるか、と言うことですが……。」
「じゃあ派手やりましょうか、なるべく、こっちに戦力を割いてもらうように!! おあああああああああああああ!!」
レンジは咆哮と共にアサルトライフルを扉に構えてから、最大火力で攻撃を開始した。
レンジの攻撃の最大の特徴はその貫通力にある。
創也のように攻撃の回転力や連射性は劣るものの、攻撃力がアタッカーよりも落ちると見られがちなガンナーにとっては異質の特徴だった。
……先ほどの創也からの賛辞がそんなレンジの長所を含めてのことだとは、この場にいる全員が知る由もないわけだが。
「レンジ君は本当に成長してますね、では私も!! があああああああああああ!!」
被験者の居住区画でその別棟に繋がる扉の前で、二人のガンナーが発する銃声と咆哮はこの区画に鳴り響き始めた警報でかき消されて行くのだった。
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