問い

 まだ何も分かっていない。

 まずは、この違和感の正体を探ってみよう。


「何か随分余裕だね、こんな状況なのに……」


「え、そ、そう? 別に余裕じゃないけどいくら悩んでも仕方ないじゃん?」


 やはり違和感を感じる。先程よりも更に色濃く。


 私と有咲は友達同士だ。だから彼女の普段を知っていて、この答えがいつもの彼女ならば出ないことも知っているのだ。


 こんな楽観的に考えられるはずがない。

 有咲の性格と失うものを考えれば。


 ならば、なぜ有咲はあっさりと選択してしまいそうになったのか。


 私の中には一つの考えが打ち出された。

 これをぶつける事で新たな道が開かれるかもしれない。


 私は意を決して、口を開く。


「凄いね、そんな思い切った事するなんて、まるで……答えを知っているみたいだね」


「え……」


 有咲は文字通り固まった。

 それは私の仮説が正しいと肯定してくれているように見えた。


「な、何言ってんの、そんな訳ないじゃん!!」


 怒気を露わにして声を荒らげた。

 これは有咲らしい自然な反応だ。


「だ、だってどうやって知るの? 私見れないじゃん!」


 有咲はこのままではまずいと思ったのか、私の考えを崩しにかかる。


 だが、この質問が来ることは想定済みだ。


「そうだね、私達は見れないからね

 でもそれを証明するのは、ここにいる三人でしょ?

 つまりこの三人さえ味方につければ、どうとでも出来ちゃうよね?」


 私は攻撃の手を緩めずに話した。

 僅かに差した光明を更に広げていくように。


「ということはつまり……有咲は答えを知っていることになるね」


 そうであればやり方は見えてくる。

 運に任せるより、よっぽど可能性は高いだろう。


「し、知らないもん……京香! 私知らないからね!」


 有咲は私の名前を呼びながら怯えている。

 先程までの威勢は嘘みたいに消えて、当てられてしまうという不安に身を包まれている。


 その姿に私は少しゾクゾクしてしまった。

 こんなサディスティックな一面が自分にあるなんて新発見だ。


「ねぇ有咲? 教えてくれない? 机の上にあるコインが表か、裏か」


「……やだ」


 まるで子供のように拗ねた声が聞こえ、その可愛さにキュンとしてしまう。


 こんな状況でなければ抱き着いてしまいたいところだ。


 だが、今は心を鬼にしてでも勝たなければならない。


 私は可哀想と思いながらも問い詰める。


「ねぇ、どっち? 表か……裏か……裏か……表か……」


 話し掛けながら、有咲の反応を聞く。

 姿が見えればもっと楽に分かるのに、耳でしか判断出来ないのでなかなか分かりづらい。


「あー! もう! 何も聞こえないもんねー!! ぜーんぜん聞こえなーい!」


 苛立ちながら声を上げる有咲。

 この言い方は恐らく耳を閉ざしているのだろうか。


「そうなの? 聞こえないの? 全然?」


「うん! 全然聞こえないよ! ふーんだ!!」


 有咲は私の問いにそう律儀に答えてくれて、しっかり聞こえているのだと実感する。


「そうなんだ……ねぇ、有咲……表なの?」


「知らない」


「じゃあ裏?」


「知らない」


 問いを再開した私に、耳を塞いでいる設定はどこへやら、有咲はしっかりと質問に答えてくれる。


 ならば、と私は勝負に出ることにした。

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