第5話

「俺は、今の杏子の恋人よりも格好良くないかもしれない。

でも、俺は杏子を泣かせた奴に杏子を返したくない。絶対に俺は杏子を泣かせない。」

「俺が杏子を幸せにしたい。」

豪君はいつだって私の事を見てくれて、前と変わらず真剣に愛してくれている。

なのに、何を動揺しているのだろう。


「豪君・・・・」

眠っている豪君の頬に触れると、豪君は無意識に私を引き寄せて抱きしめた。

何故自分からまた不幸を呼び寄せようとするの?

私は豪君と沙莉に囲まれて幸せなはずなのに。


「ママー、イルカさんまだ?」

「もう少しよ。お腹すいた?」

「沙莉、何か飲み物買ってこようか。」

イルカショーが始まる前にへそを曲げてしまいそうな沙莉を豪君が優しく問いかけた。

「りんごジュースのむ!」

「よし、決まりだ。杏子は?」

「じゃあ、アイスコーヒー。」

「了解。」

豪君は笑みを浮かべ、私の頭をポンと撫でると沙莉を抱き上げて売店に向かった。

そう、これが私の求めていた幸せ。

これ以上、なにを求めると言うの?

売店でジュースを受け取り、嬉しそうに私に手を振る沙莉に応えるように、手を振り返した時だった。


そこには、見たことのある面影。

「好孝・・・・・」

好孝と、あの時別れたはずの美加が寄り添う様に現れた。


ああ、神様。

なんであなたは、こんなにも残酷な現実を見せつけるのですか?

私はこのままの幸せを願っているだけなのに。


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