なしょなるとれじゃー

それはある日の日曜日の出来事だった。普段、平日は仕事があって中々入念に掃除ができないから、休日に隅々までやっちゃうのが私と圭吾さんのやり方だ。


今日の圭吾さんは休日にも関わらず出勤だ。その代わり、平日に代休があるんだけどね。だから私は、圭吾さんが居ない間に、隅々まで掃除をやっちゃおうとはりきっていた。


「……。」


私と圭吾さんが同棲している部屋は、元々圭吾さんが一人暮らしをしていた部屋。課長をやっているだけあって、私と比べ物にならないくらい稼いでらっしゃるようで、2LDKと、圭吾さんが一人暮らしをしていたにはちょっと広い部屋に住んでいる。


部屋の一つは、私も使う寝室。もう一つは、書斎。書斎は圭吾さんが使うことが多いけど、本棚とかパソコンとかが置いてあるから、私もたまに使う。


「……。」


だから、掃除だって普通にするこの書斎。私は掃除機を床に置いてエプロンをつけたまま、床で正座をして、ソレと向き合っていた。


「……。」


はて。どうしたものか。


この家でソレを発見したのは、初めてだった。もう何度も書斎を掃除したのか数え切れないくらいなのに、ここにきて初めてソレを発見するなんて、取り扱いに困ってしまう。


「ん~。」


だから、腕組をして唸るしかない。いや、圭吾さんがソレを持っていたっていうことが嫌なんじゃない。健康な男子なら、こういうコレクションを持っていて当たり前なんだろうと思っている。……ただ。


いつ見てるんだろう?


今日ソレを発見したのは、書斎に入ってきてすぐだった。書斎には、パソコン用に勉強机が置いてある。その勉強机は、普段はパソコン以外に何も置いていない。その机の上に普通に置いてあった。ここに普通に置かれていたということは、昨日見たってことなんだろうか。


でも、いつ?昨日は土曜日で、定時まで私も圭吾さんも会社に居た。その後は、この家に2人共帰ってきたけど、昨日は圭吾さんが書斎で何かをしている様子はなかった。


「う~ん。」


昨日の朝、書斎に入った時にソレは無かったはずだから、やっぱり圭吾さんがソレを机の上に置いたのは、昨日会社から帰ってきてからってことになる。昨日圭吾さんと離れていたのは、私がお風呂に入っている間くらいだから、その時?


私に隠れて見るなんて、圭吾さんも可愛いなぁ、なんて思う。それにまだまだ元気な証拠だしね。


ただ、ソレを見つけちゃった今、私はどういう反応をすればいいんだろうか。見てみないふりしておくのか。それとも、追求しちゃうのか。


「う~ん。」


追求した方が、面白そうなんだよねぇ。しかし、こういう類のものって本当にパッケージからしてエグイよね。こんな格好しちゃう女の人って、実際に居るのか疑問だし。それが性癖ってもんなんだろうけど。


圭吾さんがこういう系統を好きだったとは……。よし、うちのお母さんがお父さんのエロ本を発見した時の手を使わせていただくとするか。


私はソレを手に取り、ある場所へと持って行った。






「ただいま。」

「おかえりなさい!」


夕方、圭吾さんが仕事から帰宅した。


「休日もお仕事ご苦労様です。」

「ありがとう。今日ともみは、なにしてたの?」

「私は掃除したり洗濯したりしてた。」

「そうか。いつもありがとうな。」


圭吾さんの顔を見ると、思わずニヤけてしまう。


「……どうした?」


だから圭吾さんは何かしらの異変にすぐに気づいた。


「え?」

「いいことでもあった?」


いけない、いけない。


「圭吾さんが帰って来てくれて嬉しいんだよ。」

「可愛いこと言ってくれるな。」


チュッと軽いリップ音を立てて、キスをしてくれた圭吾さん。むふっ。圭吾さんがアレを発見したら、どんな表情をするんだろうか。


「ああぁあぁぁぁ?!」


その瞬間は夜ご飯を食べた後、すぐに訪れた。


「ともみ!なんだこれ!」


慌ててトイレから出てきた圭吾さん。


「え?あ、ちゃんと手洗った?」

「洗った!だからこれ、なんだって!!!」


圭吾さんの片手に握られているのは、昼間私が書斎で発見した例のソレ。


「なにって。圭吾さんが一番ご存知でしょう。」


私は例のソレを、トイレのドアの内側に貼っつけておいた。落ちないようにセロハンテープできっちりと。


「いや、知ってるけど!なんで?!」


見たことないほど驚いていて、顔を赤くしたらいいのか青くしたらいいのかと百面相する圭吾さん。


「なんでって、書斎の机の上に普通に置いてあったよ。」

「書斎……?あ……っ!」


なぜ書斎の上に出しっぱなしだったのか、圭吾さんは心当たりがあったらしい。


「ともみ、これは、だな。」


しどろもどろの圭吾さん。圭吾さんでも、こんなに慌てることってあるんだね。


「ごめんね、圭吾さん。からかったりして。」

「え?」


だから私は早めに白状した。


「私、圭吾さんがそういうもの見るの、別に嫌じゃないの。むしろ、自然なことだってちゃんと理解してる。」

「は……?」


小さい頃、お父さんがそういう類のビデオをどこに隠していたのかも知っていた。だから、男の人はそういうものを見るものだって理解しているから、持っていたからといって嫌悪感を抱いたりすることはない。


「圭吾さんも持っていたんだって思うと、イタズラしたくなっちゃっただけなの。」


いつも仕事でもスマートな圭吾さん。私を抱くときは、まぁちょっとエロいけど。どんな性癖なんだろうって、前々から少し興味はあった。


「……圭吾さん、微乳が好きなんだね。」


圭吾さんが持っていたDVDは、童顔女子だったり、微乳ものだったりだった。あのあと、他にも無いのかと探したら、書斎の本棚の奥から5点ほど見つけた。


「ちょ、他にも見つけたの?」

「うん。探しちゃった。」


「はぁぁぁぁ。」


大きくため息を吐いた圭吾さん。


「……なんか。母親に見つけられた時とは、また違う気分だな。」

「お義母さんに見つかったこと、あるの?」

「高校生の時な。家に帰ったら玄関に並べてあった。」

「うわー……。」


それは非常にむごいかもしれない。


「トイレのドアにこれが貼ってあったときは、吃驚したよ。ていうか、焦った。」

「そうだろうね。」


さっきの慌てようの圭吾さんを思い出すと、可笑しくて仕方がない。


「でも、俺をからかうなんて、100年早いよなぁ。」


圭吾さんは妖しくニヤッと口端をあげながら微笑んだ。


「え?」


その瞬間、背中を冷や汗が伝う。


「悪いことした子には、お仕置きしないとな。」


すると、私が何かを考える間もなく、圭吾さんの大きな腕によって楽しそうにお姫様抱っこをされてしまう。


「え?!ちょっと待って!お風呂入ってないし!」

「いいよ、あとで。」

「よくない!明日仕事だし!」

「俺は休み。」


圭吾さんは今日の代休かもしれないけど!!!私がなんと喚こうと、お姫様抱っこされたまま寝室へとたどり着く。


「今夜は寝かさないからな。」


耳元でそんな甘い囁きをされたら、もう私の負け。


「圭吾さんの馬鹿ぁ!!」


翌日、私がそう叫ぶくらい腰痛に悩まされたのは、言うまでもない。


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