第2話

 店長はほーっと肩で息をつくと、額の汗を手で拭った。それから急いで警察に通報した。

 五分ほどで、二人組の警察官がやってきた。一人が店長から状況を聞き、もう一人は防犯カメラをチェックしに行った。

 「犯人は一人だったんですね」

 「はい」

 「おい、防犯カメラはどうだった?」と店の奥に声をかける。

 「切られています!」と、防犯カメラをチェックしていた警察官が答えた。

 「やっぱりな……。犯人の服装は覚えていますか? なるほど。黒いニット帽に白のTシャツに黒いズボン。身長は170センチ前後ですね。やはり最近、この界隈に出没している連続コンビニ強盗犯のようですね……。いくら取られたんですか? あー、二十万円。けっこう大きいですね……」

 「近藤巡査長!」

 「なんだ? 今、店長さんから話を聞いているんだ。お前が来い」

 「いえ、そ、そんなの後でいいですから。来てください。早く!」

 近藤巡査長はコンビニの店長を鋭い目つきで見た。

 「犯人はまだ店内に潜んでいたんですか?」

 「そ、そんなはずは……」

 店長は首をブンブンと振った。

 そこで近藤巡査長とコンビニ店長は、一緒に声の方に駆け付けた。店内には誰の姿も見えない、と思ったら、「は、早く来て~……!」と、トイレに続く扉の中から、か細い声がする。

 近藤巡査長が扉をバンッと開けると、もう一人の警察官、志村巡査が腰を抜かして座り込んでいた。

 「ど、どうしたんだ?」

 志村巡査は涙目で近藤巡査長を見上げ、二つあるトイレの個室の大きい方を指さした。

 「犯人がいるのか?」

 近藤巡査部長は拳銃を取り出して構え、ノックした。何も答えがないので、そっと扉を開け……、また閉めた。

 扉を背に振り返ると、店長に「し、知ってました?」と親指で背後を指した。

 「は? 何をですか?」

 コンビニの店長はいぶかしげに首を傾げた。そして近藤巡査部長の後ろに首を伸ばしたが、扉が閉まっているので、何も見ることはできない。

 「見ない方がいいですよ」と、二人の警察官に止められたので、コンビニの店長はトイレの中の惨状を目にすることはなかった。

 トイレの中では、一人の女性が首から血を流して死んでいたのだ。

 「物音とか、声とか、聞こえなかったんですか?」

 「トイレは店の1番奥なので、入り口に近いバックヤードにいると、店内の音はあんまり聞こえなくて……」

 近藤巡査長の質問に、店長は首を振った。大きな体を小さくして、しょぼんと肩を落とす様子は憐みを誘う。

 「バックヤード……? ああ、控え室みたいなところですね。なるほど。しかし、この犯人のコンビニ強盗は九件目だが、殺人は初めてだな。目撃者を口封じに殺したのか?」

 「でも、殺した時点では、まだ強盗をしていなかったんですよ? 殺す必要はないのでは?」

 志村巡査の指摘に、近藤巡査長も首を傾げた。

 「そうだなあ……。いや、でも、コンビニ強盗をするつもりだったんだ。もし顔を見られていたら、後で証言されてしまうかもしれない、と思ったのかもしれないぞ。

 それとも、コンビニ強盗では刺激が足りなくなったのかもしれないな。犯罪というのは、エスカレートする傾向があるから」

 「ああ、なるほど、そうかもしれませんね。さすが近藤巡査長! それにしても、このガイシャまだ若くて綺麗なのに、可哀そうですねえ……」

 あからさまなお世辞に、緩んだ口元を引き締め、近藤巡査部長はいかめしい顔でうなづくと、テキパキと応援を要請し現場を封鎖した。

 「しかし、この首の傷、変わってるなあ。丸い……何かで喉を突いたのかな?」

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