第21話
『ラスダン』の攻略が進み、ありとあらゆる部屋を荒らしていった。
モンスターを殺して、宝物があれば《インベントリ》に入れる。
どこからどう見ても、僕の方が「悪」っぽいが……。
途中から細かいことは気にしないことにした。
最近、細かいことを気にしないようにしてるんだよね~。
そして、僕は大広間と思しき部屋にたどり着いた。
巨大な扉を蹴破って入ってきた僕に対して、まるで玉座と見紛うような立派な椅子に座った巨漢が見下ろしてきた。
今までに出会ったどんなモンスターよりも、強者のオーラを発している。
おもむろに巨漢が立ち上がったので、その身長が分かった。
はるかに僕より大きい三メートルぐらいの魔人族だ。
その鍛え抜かれた隆々とした肉体で、巨漢は一段一段と階段を降り、僕に近づいてくる。
踊りあがるように動く筋肉に、巨漢の「武」を感じざるをえない。
そして、僕の前で、巨漢は歩みを止めた。
だいたい三メートルぐらいの距離だろうか。
そして、男が口を開いた。
「お前が……邪魔さえしなければ……絶対に殺す」
「黙れ死ね」
瞬。
僕がそう言い放った瞬間、男が拳を打ち下ろしてきた。
僕もカウンターで相手の顔面をとらえる。
首がねじ切れるような感覚に僕は陥るが、巨漢は容赦なく、僕の顔面に上から拳を立て続けに放つ。
僕は《ヒール》を続けざまに使用しながら、巨漢の顔面にパンチを放つ。
避。
だが、僕のパンチをいくら顔面に放っても、体を反らしながらスウェー気味のスタンスをとる男には効かない!
リーチの差がありすぎて、有効打にならない!
だが、巨漢からの殴り下ろしは、僕にダメージを確実に与えてくる。
一発一発が、僕の首を撥ね飛ばさんばかりの威力をもっている。
いかに《ヒール》で即座に回復しようとも、MPも有限だ。
このままこの態勢で戦いつづけるのは危険だ。
僕は、ボディを狙ってパンチを放つようにシフトした。
だが、これは悪手だった。
男はパンチの振り下ろしをするのをやめ、両手で僕の頭を上から押さえた。
僕の頭部は、巨漢により固定されてしまった。
そして、巨漢は膝蹴りを顔面に打ち込んできた。
「……クソが!」
僕の放つパンチの威力を削ぐように膝を巧みに使ってくる。
僕の攻撃は効かないのに対し、僕の顔面には絶え間なく膝蹴りがされる。
《ヒール》をしていても、回復が追い付かない!
僕は両腕を十字に交差し、なんとか膝蹴りの衝撃を弱める。
だが、ここにきて巨漢は更に膝蹴りの勢いを増す。
当たり前だ。
僕はすでにサンドバック状態だ。
すでに幾度となく眼底出血を繰り返している。
その
徐々にMPが減っていく恐怖が僕を襲う。
僕は腕を交差した。
そして、交差した腕で顔面を守りながら、なんとかローキックを放つ。
だが、巨漢の軸となっている右脚はびくともしなかった。
堅牢なること大樹の如く。
地に根差したかのように、巨漢の足は僕のローキックに動じない。
だが、僕にはこれしかない。
いま、僕にできるのは、このローキックだけだ。
僕は、巨漢の膝蹴りを腕で守りながら、ひたすらローキックを打ち続けた。
僕が数百発ほどローキックを放った頃だろうか。
僕の我慢が実を結び、巨漢という巨大な堤に蟻の一穴が開いた。
巨漢が僕のローを嫌がるように身をよじりだしたのだ。
効いている!
僕はローキックを放つ!
放ち続ける!
それに対し、巨漢が烈火の如く膝蹴りを繰り出してきた。
だが、開戦直後に比べ、明らかに威力が落ちている。
疲労だけでなく、僕のローキックのダメージが蓄積されているのだろう。
とうとう。
巨漢は、僕から距離をとろうとした。
前蹴りで、僕の腹部を蹴りぬいた。
衝撃で、僕は後ろに吹き飛ばされた。
僕は後ろに吹きとばされながらも、何とか前かがみに体勢を整えようとする。
突。
僕が体勢を整える前に、巨漢は前かがみとなり、タックルを放とうとする。
咄嗟に、僕は重心を下にして、前傾姿勢となった。
タックルをさばくために。
だが。
シャイニングウィザード。
僕はおろかにも巨漢の策を読み違えた。
前傾姿勢をとっていたため、巨漢の右膝を顔面にくらった。
巨漢の全体重を顔面で受け止めたのだ。
ボキュキュッ。
視界が真っ赤に染まるだけでなく、顔面骨骨折をし、頚椎を損傷した感覚があった。
だが、僕は《ヒール》を連打し、瞬時に回復する。
そのとき、僕は初めて、巨漢の顔に恐怖が浮かんだのを見た。
そして、僕は、シャイニングウィザード後に空中で硬直している巨漢の左脚を、倒れそうになりながら自らの両脚で捕まえた。
我慢に我慢を重ねた末のチャンス。
僕は、両脚を畳むようにして巨漢の左脚を巻き込み、右手を添えた。
極。
脚をつかったアームロックが決まった。
そして、僕は全身をバネのように反り返らせ、固定した両脚から、巨漢の左脚を掴んだ右手を引き離す。
クチャッブツン。
僕は、巨漢の左膝の靭帯と半月板を破壊した。
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