第8話

翌日も、ゴブリンの駐屯地にアタックした。


歩哨を倒して、テントの中にいるゴブリンを殺していく単純作業。

今までのように、モンスターを探し回る必要もないから、黙々と集中できる。

物音をたてないように気をつけないといけないのが、唯一の難点かな。


三時間ほど狩りをしたら、街に行って大きな鷹の看板を掲げた店に行く。


「おお、約束どおり来てくれたか」

ひげ面のおっさんが声をかけてきた。

「夜分遅くにすみません。今日も買取をお願いしたいのですが」

「今日の分の前に、まずは昨日の分の精算をしようか」

そういうと、おっさんは革袋をカウンターの上に出した。

革袋の中からは、金属がこすれあうような音がした。

革袋の口から覗くと、コインがたくさん入っていた。

とくに相場を知ってるわけでもないので、僕は、革袋をそのまま《インベントリ》に入れた。


「一応、金額の確認だけはしておいた方が良いと思うが……。まぁいい、それで、お前を登録する必要があるから、名前を教えてくれ」


おっさんから突如質問された僕は、どう答えるべきか迷った。

まさか本名を名乗るわけにもいかない。


しばし迷った末に、こう答えた。

「タナカです」


咄嗟に名乗れるような名前が、これくらいしかなかった……。

まあ、タナカも僕の一部ではあるし、なんの問題もないだろう。


「分かった。これからよろしく頼むぞ、タナカ。このカードに今後の実績をつけていくから、くれぐれも無くさないようにしてくれ」


そういうと、おっさんは灰色のカードを渡してきた。

会員証か何かだろうか。

僕はそれを受け取ると、昨日同様、奥の部屋に案内された。

今日は、奥の部屋には職員さんが二人待機していて、僕が入ると会釈をしてくれた。


おっさんに促されるままに、僕は、奥の部屋でゴブリン約五百体と装備品を《インベントリ》から出した。

これが今日の成果だ。


「ま、まじか……」

「す、すげぇ……」

「…………」


職員さん二人が、引き気味に声を出していた。

おっさんは、口をあんぐりと開けて、何も発言しない。


「じゃあ、また明日の夜に来ますね」

おっさんは、僕が声をかけると、正気に戻ってくれた。

「ああ、わかった。査定しておくから、また明日来てくれ」


そんなやり取りをして、僕は店を出た。

明日もたくさんお金をもらえるといいなぁ。



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そんな日々を送って一週間過ぎたころ。

とうとう。


僕は、ゴブリンの駐屯地で、ゴブリンに見つかってしまった。


ここのところ、夜に寝ているゴブリンが減ってしまい、なかなか数をこなしづらくなってきた矢先のことだった。


さすがに、数千匹も同じ駐屯地からいなくなったら、そりゃ警戒もされるか……。


「ギィィィイィ!」

「グギャッグギャッ!」

僕を取り囲んだゴブリンたちがしきりに騒いでいる。

ほかにも法螺貝みたいなのを吹いてるやつとか、絶賛ピンチです。


どんどん増えるゴブリンを見ながら、僕は思った。





これって、最高に効率出せるんじゃね?




擲。


そう思った僕は、さっそく手近なゴブリンの頭を掴むと、集団の中に投げ込む。

数十匹を道連れにしてゴブリンが吹き飛んでいくのを見て、これだと思った僕は、どんどんゴブリンを投げて、倒していく。


ゴブリンの方から寄ってきてくれる。なのに、僕は投げるだけで一蹴できるので、かなり爽快感がある。

僕はしばらく投げ続けて、動かなくなったゴブリンたちを《インベントリ》に入れていく。


そうすると、僕を囲んでいたゴブリンをあらかた片付ることができたので、僕は、いままで遠慮をしていた小屋や大きなテントを襲撃することにした。


すでに僕がいることは露見してしまっているので、もはやコソコソする必要もないわけで。


小屋の中にいるゴブリンを殴り殺して、小屋のなかの物資もどんどん《インベントリ》に入れていく。

小さいテントとは違って、食料品が豊富にあった。あとは高そうな武器とか。


これだけのスコアが出せるのなら、もっと早くにやっておけばよかった。


僕はそんな感じで後悔しながら、夢中になって駐屯地を襲撃した。

しばらくすると、駐屯地にはゴブリンの気配はなくなり、物資もすべて収奪してしまった形になっていた。


その日、僕は、ゴブリンの駐屯地を壊滅したのだ。



--------------



そのあと、ひげ面のおっさんのところに行って、その日の収穫を全部インベントリから出した。


すると、僕の目の前で、おっさんは泡を吹いて気絶した。

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