第6話

『ツーク山』での狩りに連日連夜通った。


当初は、群れているモンスターに苦しんだ。

けれど、パターンが分かってきてからは、仲間を呼ぶモンスターの方が効率的に狩りをできるということが分かってきた。


なんせ、こちらが移動しなくても、敵の方から勝手にやってきてくれるのだ。

コツを掴めば、これほど時間効率の良い話もない。

もし、囲まれそうになったら、全力で逃げ切れば良いことも体験して分かったし。


そうして僕は、血犬と魔蜂を狩り続けるようになった。

とくに、僕はある目的から、可能な限り魔蜂を狙っていた。


そして、魔蜂の釣り狩りにいそしんだ結果。


「ははっ・・・!やった!」


その日、とうとう僕は魔蜂の巣を手に入れた。

営巣している魔蜂を釣り狩りして、魔蜂を減らせるだけ減らして。最後は、一回り身体の大きい女王蜂を討伐したら、あとは巨大な巣が残る。

それを、僕はどうしても入手したかった。


僕は魔蜂の巣を《インベントリ》に入れると、ホクホク顔で帰宅の途につく。

これで目的の一つは達成だ。


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それからは、『はじまりの村近くの平原』で一角兎を狙って狩りをした。

僕は、どうしても《幸運の指輪》がもう一つ欲しかった。

千匹倒して一個落とすかどうかのレアドロップらしいので、魔蜂の巣よりも大変かもしれないけど。どうしても欲しかったんだ。


しかし、ここのところ毎日五時間は費やしているけど、全然ドロップしない。

『物欲センサーってやつだな』

タナカが呟く。

なんでも、欲しいと思えば思うほど、ドロップしない法則らしい。

なにそれ怖い。


今日がラストチャンスなんだけど。


そう思いながら、一角兎を倒すと。


やっとこさ銀色の指輪が現れた。

「やったーーー!!!!」

僕は思わず飛び跳ねた。


これで、無事、目的はすべて達成だ。

そのあと、すぐに帰宅して就寝し、翌日に備えた。


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翌日、待望のクロエとの遊びの時間がやってきた。


いつものように、彼女の木刀を無手で受ける。

最近、僕は無手で相手をするようになっている。


僕は、木刀を器用に使いこなせないんだよね……。

無手でケガをしても《ヒール》で治せばいいだけだし。


ひとしきり彼女が撃ち込んだ後、休憩することにした。

二人で広場に腰を下ろす。


涼しい風が流れたので、風が流れてくるほうを眺めた。

周りの景色は六歳のころから何も変わっていない。

流れる雲、誰か耕している畑、遠くに見える河川と『ツーク山』、風にのってくる草木の薫り。

どれも、あの事故の日と変わらない。

田舎というのは、時間による変化に乏しいのかもしれない。


でも、僕たち二人は、六歳のころからだいぶ変わった。

僕は、八歳で身長170センチという大柄になってしまった。

かなりガタイも良くなっているので、村を歩いてても大人としか思われない。

まだ八歳なんだけど……。

この間は徴兵されそうになったし。トホホ……。


一方、クロエは140センチぐらいだろうか。

その黒い瞳や流れる黒髪は変わらないけど、桜色の唇はハリを増して、彼女の身体は少し女性っぽくなってきたかもしれない。

僕は、彼女の丸みを帯びた身体を視界に入れるだけで、なんとなく気持ちがそわそわしてしまう。


「なにを見てるの?」


僕の視線に気づいたのだろう。

僕を見上げながら、彼女が声をかけてきた。


彼女を見ながら物思いに耽っていたとは、とても言えない。


でも、いいタイミングだと思ったので、僕は。


「これ、あげる」


魔蜂のハチミツが入った瓶を差し出した。


「えっ、これ、どうしたの?」

「蜂蜜だよ。甘いもの好きだろ?」


僕たちが甘いものを口にすることなんて、ほとんどない。

年に何回かあるお祭りの日ぐらいかな。

そうしたお祭りのとき、彼女は本当に美味しそうに頬張っていたから。

僕は、これをどうしても彼女に渡したかった。


瓶を両手で大事そうに受け取ると、彼女は言った。

「ありがとう……」


彼女に面と向かってお礼を言われたのは初めてだったので、柄にもなくドキドキしてしまう。


僕は、さらに勇気を出す。


「あと、もう一個、プレゼントがあるんだ」


僕は勇気をもって、《幸運の指輪》を彼女に渡した。

それを掌の上に乗せながら、クロエは、大きな瞳を更に広げて驚いている。


「これ、本当に……もらっていいの?」

「《幸運の指輪》っていうんだ。クロエに貰ってほしい」

「ありがとう。本当に、すごく嬉しい……」


彼女の顔は耳まで真っ赤になり、目がどこか潤んでいた。


ひとしきり彼女は掌の上で指輪を触って、そして、右手の薬指に《幸運の指輪》をつけてくれた。

そして、赤くなった顔の近くに右手をもっていっては、ボーっと見つめている。


そんな彼女を見ながら、僕は心のなかで願った。

この《幸運の指輪》のペアリングが、僕たち二人を結び付けてくれますように。

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