第36話 最後の日

もう大丈夫だな。

俺が教える事は、もうないよ。

この先の人生、姫は迷わず生きていけるよ。

魂だけは絶対に人に売るなよ、あと絶対に諦めるな。

それが最後に彼と交わした会話だった。

最後のデートは、私達がよく行くハンバーグ屋さんにした。

いつも通りのデートだった。本当に終わりなのかな?自分で決めた日程だったがなんだか信じられない気持ちだった。

食事をして私のアパートに帰ってケーキを食べた。

忙しいのに一日中一緒に居てくれた。

私の為に時間を作ってくれて嬉しかったが寂しかった。

彼と出会った数年間が、こんなに人生が変わる出来事になるなんて夢にも思わなかった。

正直なところ世の中の事を知らないままでも良かったかもと偶に思うが、自分の人生を生きる上で本当に必要な事を知ることが出来た。

自分の力で生きていく事を知った。

今までの私の人生は、どこか他人に依存していたのだと。

そして、思ったより世の中の人たちは何も知らないのだという事も。それは私自身にも当てはまる。

無知は損をするというのも学んだ。数えきれない学びを私は彼から直接教えてもらった。これは彼がいなくなっても私の中に生き続ける。

夜9時半頃彼が見えなくなるまで手を振って見送った。

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