ピア

星埜銀杏

Episode01 三珠イタコ

#01 登場ッ!?

「むにゅむにゅ、もう飲めないわさ。ゲップも出ない。ファンタグレープだけどさ」


 銀髪の少女がジュースの飲み過ぎで酔いつぶれている。寝相が悪く床に転がって。


 着ている寝間着もはだけてしまって、はだけた胸から小麦色の裾野がチラリズム。


 小さく赤い干しぶどうは、見えない。


 いや、見えてはいけないのだ。それは良い子とのお約束だから。


 彼女は三珠イタコ〔みたま・イタコ〕。今年、十四歳になる愛らしい褐色の少女。


 唇の間からは小さい八重歯がのぞく。


 青森県は、むつ市の宇曽利山に本拠を持つ、三珠流降霊術を継承する霊能一家を三珠家という。その三珠家の一人娘で跡取りなイタコ。イタコという名が示す通り、彼女は生まれた瞬間から霊能者であるイタコとなるべく教育を受け続けた少女。


「だから飲ませるなっちゅうの。……これ以上、酔っ払っても、何にも出ないわさ」


 もちろん、彼女自身の秘められていた素質も素晴らしく、修行が進み、徐々に才能が開花し始める。すると世界中から数多の霊が救いを求めて集まってきた。その数は膨大なものであり、イタコは一年の大半を霊との対話に時間を充てる事となる。


 そうして、昨夜もリストラされて自殺したサラリーマンの霊と飲み明かしていた。


 飲み会は明け方まで続き愚痴を聞かされ続けたイタコはノックダウンしたわけだ。


「てか、おっぱい触るな、よっぱらい」


 ノックダウンをしているにも拘わらずに、いまだに飲み会を継続しているようだ。


「ロリコン、おっぱい星人な、よっぱらいには天誅ッ!? 熱き拳を喰らえッ!!」


 彼女の右拳が碧きオーラを纏い、ゆらゆらと霞んできて揺らぐ。


「黄泉の送り火!」


 眠ったまま、ボクシングのファイティングポーズを取り、華麗なるワンツー。どうやら夢の中で件のサラリーマンの霊をボコボコにしているようだ。そして、天真爛漫に笑う。にへらと。寝返りをうち右腕を床の上へと放り出す。左手でお尻をかく。


 ボリボリボリッ。


 こう書くとイタコは、粗野な元気っ子とも思われそうだが、実は、そうではない。


 見た目だけなのだが、可憐な少女という表現がまさにピッタリ。


 今は、銀髪の長い髪を流れるままに降ろしているが、普段は長い髪で大きな三編みを作っている。それを赤いベッコウ製の和柄な髪留めで留めている。瞳は丸く愛らしい。緑色をした黒目は銀髪と相まり、とても神秘的な雰囲気を醸し出している。


 加えて、頭の右の部分に大きなコスモスの花飾りを付けている。


 薄桃色の華は、可愛さを倍増させる。


 狙っているならば小憎らしくもある。


 そうして、……。


 眉間の少し上辺りにあるホクロも、また彼女の幻想的な雰囲気を加速させている。


 ただし、繰り返しにはなるが、色白ではない。小麦色に、こんがりと焼けている。


 いや、むしろ、ほんのりと焼けた肌は余計に彼女の可愛さを乗算しているとも言える。体の線も細い。細いがゆえに胸は平野。どこにも丘はない。丘がないどころか、木すらも生えていない。そう。有り体に言えば、まな板で干しぶどうなわけだ。


「てかさ。今、触り甲斐のないおっぱいだって笑ったでしょ? よっぱらいッ!?」


 また拳が揺れる。


 碧くも揺らめく。


「わがまま言うなや。ロリコン、おっぱい星人にはご褒美でしょうが? それともアレかいや。ロリ巨乳なんてファンタジーを信じてる生粋なのか、あんたは?」


 どういう話の流れになっているかは分からないが、イタコは夢の中で暴れ続ける。

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