第54話 嘘の理由

『シズネさん! 今どこにいますか?』


 慌てたような通信が入って、急いで現在地をマップで確認する


『集合地点から南に500メートルぐらい。【飛行フライ】で向かってるからもう少しで到着するよ!』

『なら、そこからは隠れながら慎重に向かってください。合流地点で待っていたら敵にみつかりました』


 その声に力が入っているってことは、もうすでに戦いが始まっているんだ!


『到着したら好きなタイミングで援護をお願いします。ただ、ヒナのソウルリングを持っているのなら生存優先です。見つかりそうなら、最悪私は捨ててください』


 そして言われた通りに【飛行フライ】を解除し、歩いてユキミちゃんのところへと向かっていく。

 私が到着したとき、ユキミちゃんはかなり危険な状況だった。


 【飛行フライ】の魔法で飛び回るユキミちゃんの周囲を、つかず離れずの距離で五人の魔法少女が取り囲んでいる。さらに離れたところには十人以上の魔法少女が退路を塞ぐように包囲している状況だ。


 どうあっても、ユキミちゃんを倒す。そのための布陣がこれというわけだ。

 ヒナほど多人数との戦いが得意じゃないユキミちゃんにとって、この状況はかなり厳しいと思う。


 私が助けに入らないと。


 さっきユラちゃんからもらっておいたアイテム、ユニコーンの卵を取り出す。

 特殊枠といわれるアイテムだ。

 卵を手で包み込むように温めると、たちまちユニコーンへと成長していった。

 よし、いくよ!


 マナの消費をしないで空が飛べるアイテム。でも、このユニコーンの特徴はそれだけじゃない。


 背後からの攻撃に気づいていないユキミちゃんの元へと、全速力で飛んでいく

 そして――。



「【防御プロテクト】セット!」



 普通は空を飛ぶのに【飛行フライ】の魔法をセットする必要があるけど、ユニコーンが空を飛んでくれるからほかの魔法がセットできる!

 これが特殊枠アイテムの強みだ!


「シズネさん!」

「助けに来たよ!」


 魔法弾は【防御プロテクト】で掻き消えて、ユキミちゃんは無事だった。

 とはいえ、ピンチに変わりはない。

 でも、こっちが二人なら向こうだって戦力は半分になるはず!


「隠れるのが得意って聞いてたけど、そっちから出てきてくれるなら助かるわ」


 ユイさんの指示で、控えていた魔法少女たちが私のほうへとやってくる。


「ユキミちゃん、私が半分受け持つからもうひと踏ん張りするよ!」

「ありがとう、助かったわ」


 短いやり取りをして、すぐに飛び立った。

 後ろから魔法少女が付いてきているのを確認する。これだけ引き付ければ、ユキミちゃんならすぐには倒されないはず。

 まあ、私は正直超キツイんですけどね!


 でも、これで喋る余裕ぐらいはできたかな?


 ヒナを復活させるためにも、合流を目指す。その目標は達成できた。

 じゃあ後は、ユキミちゃんの気持ちを確認するだけだ。


 人の目は素直な言葉を封じてしまう。

 誰かに見られていると、自分の想いを伝えられない。

 ほかでもない、内気な私がそれを一番よく知っている。

 でも通信なら、その気持ちを教えてくれるかもしれない。


『ねえ、ユキミちゃん。個別設定だからさ、ヒナに秘密でお話したいんだ』


 後ろから飛んでくる魔法弾を、木々を使って回避する。

 体力回復のアイテムを使いながら、多少の被弾は覚悟して時間を稼ぐ。


『私はさ、ヒナと一緒にゲームができてすっごく楽しいの。こんな楽しい場所があるって教えてくれて、引っ張って来てくれたヒナとは、これからも一緒にゲームがしたい』


 ユニコーンの体力がなくなり、落下しそうになるところを【飛行フライ】の魔法で持ち直す。


『でも、ゲームはみんなが楽しくないとダメなんだよね。ヒナも私も、それにユキミちゃんも、みんなが楽しいから私だって楽しいんだと思うんだ』


 【防御プロテクト】の効果でマナが尽きかけてくる。

 慌てて地面に降り立つと、走って逃げながら魔法弾を必死の思いでよけ続けた。


『ねえ、どれだけ私が力になれるかはわからないけど、教えてくれないかな? どうしてヒナに嘘をついたのか。ユキミちゃんが悪い人じゃないって私わかってるから。きっとなにか理由があるんだよね?』


 ユキミちゃんからの返事。

 その返事を待つ時間は、途方もなく長く、マナも体力も尽きかけたとき、ようやく小さな小さな返事がきこえた。


『私は……』

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