第51話 たぬきの魔法少女

 ユキミがプロをあきらめた。

 その言葉に頭が真っ白になる。


「あの子はあなたが転校してすぐ、プロをあきらめたわ。信用できないなら本人に確認してみたら?」


 そんなわけない。だってユキミはプロになるために、一緒に試合に参加してほしいって……。


『ユ、ユキミ。プロをあきらめたって本当?』

『ッ!?』

『ねえ、私を試合に誘ったとき、言ってたことは嘘だったの?』

『…………』

『答えてよ!』


 つい言葉が荒くなった。

 どうしてユキミは嘘をついたんだろう?

 どうしてユキミは私を試合に誘ったんだろう?

 どうしてユキミは戦ってるんだろう?

 いろいろな疑問が頭の中をグルグルグルグル回っていく。


 でも、戦いは止まってくれなかった。


「痛ッ!?」


 後ろから飛んできた魔法弾が後頭部に直撃して、体力がガッツリと減り、途端にピンチに陥った。


「なにかそっちで問題がおこってるみたいだけど、待ってあげる余裕はないわよ」

「ッ……今はそれどころじゃないんだってば!」


 そしてユイから距離をとるように飛び立った。

 戦況は圧倒的不利。それに、ユキミの話を聞かないことには戦えない。

 私の退路を塞いでいた魔法少女が食い止めにやってくるが、その二人をどこかから飛んできた【砲撃ルーインズ】が撃ち落した。


『なんとか一発だけ撃てたよ!』

『ナイスシズネ!』


 そのまま、急いでシズネと合流する。


『ユキミ、下がれる?』

『厳しいわね。合流は難しいから別々で逃げるわよ』

『わかった……』

『……』


 そしてそのままシズネの手を引いて戦線を離脱した。


◆◆◆◆◆


 後ろからの追撃を警戒しながら、全速力で戦闘エリアギリギリまで移動すると、ユイは追って来ていなかった。


 とりあえず、ここまで逃げれば安心かな?


 そう思ったとき、見覚えのない魔法少女が私たちの前に現れた。というよりも逃げる方向に偶然いたという感じだ。


「まさか包囲を脱出するなんて、すごいポンね! 見に来てよかった!」


 魔法少女という割には和風な雰囲気の女の子。

 頭には葉っぱが乗せられていて、太いしましま模様のしっぽが生えた衣装を着ていた。


「えっと……タヌキ?」


 私が知らない部員の一人? そうだとしたらユイたちと一緒に戦ってたはずだし、一人で迷子になってたとか? でもそんな雰囲気はない。


「私のことはいいポン! それより回復はできてる?」


 言われて確認してみる。逃げながら回復アイテムを使っていたおかげで、体力もマナも9割ほどまで回復していた。


「残念だけどほとんど全快だよ。私たちを倒しに来るにしては遅かったんじゃない?」

「いや、むしろちょうどよかったポン」


 そして女の子は距離を詰めてきた。

 私が得意な距離で勝負しようということなら、望むところだ!


「シズネは追手が来ないか警戒してて。こいつは私が倒すから!」

「わかった。頑張ってね。【透明ハイド】セット!」


 シズネが隠れるのを視界の端で確認すると、迎え撃つようにステッキを振る。【散弾サプレッション】による面制圧。避けたところを狙い打てば私の勝ちだ!


「【防御プロテクト】セット!」


 相手は回避を捨てて、防御しながらお構いなしに詰めてくる。

 そして――

 相手の手に握られていたステッキが、【ソード】の形へと変わっていることに気が付いた。


「ッ!?」


 ヒュン――と横なぎの一閃。


「うんうん、反応はいいポン。学生にしては、だけどね」


 大きく後ろに下がったことで、なんとか致命傷にはならなかったけど、浅くお腹に攻撃が当たっていた。


「捨て身の攻撃すぎでしょ。【散弾サプレッション】を【防御プロテクト】で受けたら、マナがかなり削られるはずだよ」


 【防御プロテクト】は受けた攻撃に合わせてマナを消費する。

 そしてその防御範囲の広さから、【散弾サプレッション】の攻撃を受ければ体で受ける以上に多くの攻撃を受け止めることになる。


「まあ、普通はそうかもね」


 その言葉によく見てみると、たぬきの子は【散弾サプレッション】でダメージを受けていた。


「【防御プロテクト】で頭だけを守ったポン。だからマナの消費は最小限ってわけ」

「最初っからダメージ覚悟の突撃だったってこと? やっぱり捨て身すぎでしょ」


 ただ、確かに効果的だった。

 相手に私が与えたダメージよりも、私が受けたダメージの方がはるかに大きい。


 これは、厄介な相手に見つかっちゃったかも……。


◆◆◆◆◆


 ガキン! と【ソード】の魔法同士がぶつかる音が響いた。

 魔法主体で戦うこのゲームで、これだけ【ソード】の魔法で戦ったことなんてほとんどない。ただ、それが不利だと思わせないだけの実力をたぬきの魔法少女は持っていた。


 ここまでに三度ほど、魔法主体の攻撃に切り替えて手痛い反撃をもらっている。

 【ソード】の魔法が唯一、ギリギリのところで相手の攻撃を受け止められていた。


「う~ん、残念ポン。最初は悪くなかったけど、それからは微妙かなぁ」

「なにかってに勝負挑んできて、人を値踏みしてるのさ!」

「これが私のお仕事ポン。悪く思わないでね、ネコのお嬢ちゃん」


 すると、相手は高度を上げると、初めて【ソード】以外の魔法を使ってきた。


「【乱射スキャッター】セット!」


 そして上空から魔法弾が降り注いだ。

 いや――これはチャンスだ!


 【乱射スキャッター】はステッキのサイズが大きすぎて、その場から移動できなくなる。

 この隙を狙えば、反撃できるはず!


 魔法弾を大きく膨らんで回避すると、そのまま相手のところへと向かっていく。

 【ソード】の魔法を使っていないのなら、近接戦は私の独壇場のはず!


 そして、【乱射スキャッター】の弾幕を抜けた先に、たぬきの魔法少女はいなかった。


「――あれ?」

「残念ポン。たぬきは化かすのが得意なんだよ」


 声の方に振り向くと、【透明ハイド】で姿を隠ていたらしくその輪郭がうっすらと見えてくる。

 そして、ステッキが再度【ソード】に変わっており、攻撃と同時に姿が現れた。

「危ない!」


 ガキン! と【ソード】の魔法が衝突する。

 それは私をかばうように現れた、シズネの魔法だった。


「おぉ、お仲間は良い動きするポンね!」

「ヒナ大丈夫?」

「ありがと、助かった」


 たぶん、今のは倒されてた。

 一対一で後れを取るなんて、この子誰なんだろ?


「じゃあここから二対一ポンね! いいよ、相手してあげる!」


 シズネは接近戦が苦手だし、正直二人がかりでも勝てる気がしない……。

 今は悔しいけど――。


「逃げるよ! こいつは無理!」

「わ、わかった! でも、この先は……」


 言われてようやく気が付いた。

 私たちのすぐ近くまで、戦闘エリアの円が近づいてきていることに。


「クッ……ここで倒されるよりはマシかな。いくよ!」


 そして、戦闘エリア外。緑色の不気味なガスが充満する場所へと一直線に逃げ出した。


「ってそれはないポンよ! 次にあったら絶対倒すからねー!」


 そして私たちは、なんとか謎のたぬき魔法少女からにげだしたのだった。

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